4.27.2013

臨場感と違和感 「ライク・サムワン・イン・ラブ」



初期のキアロスタミしか知らないで見ると、 こんな話も書くんだみたいな、 意欲的に時代にアップデートしている印象を受ける。 唐突に終わるので、 はぐらかされた気にもなるが、 それはそれ。 外国人が日本を描く、 日本で撮るということもあって、 先の読めない展開に引き込まれる。

監督は小津安二郎が好きで、 日本で映画を撮りたいとずっと懇願していたらしい。 それが実現してみたら、 ともすればノンビリした感じの小津調ではなく、 小津らしくないと言われる 「早春」 (1956) 系で来るとは意外だった。

脚本もキアロスタミだが、 日本人はこんな話し方はしない、 こんな行動は取らないなど、 日本人スタッフの意見を取り入れて進めたとのこと。 その結果、 非常にリアルなシーンの連続となっている。 外国人が撮ったにしては違和感がないというだけでなく、 夜のタクシーをはじめ どのカットにも臨場感があり、 違和感があるとしても、 そんなこともあるかもしれない、 そんな視点もあるのかと、 知らなければスゴい日本人監督が出てきたものだと思うことだろう。 そもそも日本とイランはメンタリティが近いのかもしれないが、 違いも多々あるだろうから、 やろうと思えば、 どんな異国でだって生きられるどころか、 仕事もできるものだ。 そんな風に肯定的な解釈もできる。

しかし違和感がないことより、 微妙に残る違和感のほうに意味があるとも言え、 その点でも監督はしっかりと落としどころを定めていたのだろう。 監督の年齢からしても、 年配の男と若い女という関心事はわかるし、 とくに走行中にクルマの後部座席から前の席へ移ってくるような、 女性の屈託のない可愛さの描き方は上手いと思う。 しかし若い彼がからんでの後半の展開やラストの一撃は、 見方によってはテロにリンクするし、 そういう含みを意識しているからこそ、 結末は今後の世界に委ねるということなのだろう。

シンケンピンクこと高梨臨は、 シンケンジャーのときは和風美人に思えたが、 よくわからないミステリアスな娘も意外にぴったりで、 奥野匡とともによくキャスティングされたものだと思う。 加瀬亮も、 こんな奴いるいる、 という感じがよく出ている。 日本にも、 そして恐らくはイランにも、 あるいは世界中にいるのだろうな。 しかし自分が女なら、 こういう男だけはイヤだ^ ^


ライク・サムワン・イン・ラブ (2012日本・フランス) 公式サイト
LIKE SOMEONE IN LOVE  象のロケット 
監督 アッバス・キアロスタミ 
奥野匡 高梨臨 加瀬亮 でんでん 

4.26.2013

岸壁の母 MAMA



"狼に育てられた" というのは聞くが、 この場合 "お化けに育てられた" なのだ^ ^ 我が子を取り上げられようとした精神病患者が崖から飛び降りる。 怨念は蛾となって子の亡がらを探し求める。

小さな姉妹は親を亡くして (と言っても呪い殺されたのだが) 山小屋で幽霊に育てられる。 しかし叔父の探索により5年後に発見されたとき、 四つ足で歩く生き物となっていた。 狼に育てられた場合、 それを親だと思って真似た結果だろうが、 ここでは呪怨的な這い回る幽霊をママだと思った結果だ^ ^

全体には悲しみを背景にしたギレルモ・デル・トロpresentsのダークファンタジーで、 恐いというより、 そのMAMAの造形によって微妙に可笑しい、 メローなホラーとも言える。 発想はなかなかだが、 展開がイマイチかな。 娘たちを現実に引き戻すのは、 なんとなくジョーン・ジェットのようなお姉さん。 日本公開未定、 乞うご期待。




MAMA (2013スペイン・カナダ) 日本公開未定
presented by ギレルモ・デル・トロ 
監督 アンドレ・マシェッティ 
ジェシカ・チャステイン ニコライ・コスター=ワルドー ダニエル・カッシュ 

4.24.2013

いとこ同士 「飛びだす 悪魔のいけにえ」



全米初登場1位はいいんだけど 「飛び出す」 悪魔のいけにえって何だよ^ ^ いまさらな気もするが今回は後日談ということで何気に見てみた。 あの一家はソーンって言ったっけ? 事件の後、 保安官が率先しての住民によるリンチで家が焼き払われ全員が死んだことになっている。 そのとき赤ん坊だった娘がいて (そんなのいたっけ?) 養子として育てられ成長したその娘のもとに、 祖母から遺産としてあの家が贈られる。 しかしその家の地下室にはレザーフェイスが生きていて・・ という設定。

遺産相続した家だが、 オリジナル作品では相当なボロ家だった印象があるのに、 広い庭の邸宅になっていて、 焼き払われた後は誰が建て直したかなどの説明もなかったように思う。 祖母から、 ということは婆さんも生きていた? このへん、 めんどくさいのでもうノータッチ。

そしてこの娘ヘザー役のダダリオさんが、 なかなかいい感じだが、 自分が殺人鬼一家の子孫であり、 レザーフェイスとは従兄弟だということを知って、 嫌悪よりも復讐心に火がつく。 面白いのはレザーフェイスも、 8才程度の知能ということなのに復讐のターゲットをしっかり把握していて、 クリアすれば写真をマークしたりしている。 人面のマスクは、 自分の顔に毛糸で縫い付けているのだとわかるシーンもあるが、 狂人キャラとマメな復讐鬼とが微妙にコンフリクト。

そうしたストーリー面はさておき、 響き渡るチェーンソーの音、 レザーフェイスがヒーローに転じる瞬間などは、 まあまあかな。 のっけから追われるハラハラ感で突っ走ってくれるし、 リバイバル企画としてはよくできている部類か。 日本公開は7月になるらしいが、 チェーンソーが目の前に飛び出てくる恐怖に、 乞うご期待。




飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲
Texas Chainsaw 3D (2013) 日本公開7/13予定 公式サイト未設置
監督 ジョン・ラッセンホップ 
アレクサンドラ・ダダリオ タニア・レイモンド ポール・レイ 
トム・バリー リチャード・リール 

4.18.2013

こちらはジョーク版 iSteve



スティーブ・ジョブズの伝記が公開されている、 しかもネットで無料で、 と聞いたので見てみたら、 何かやたら軽い。 似てないし背も低い^ ^ よく調べてみたらアシュトン・カッチャーがやるのは“jOBS"で、 こちら“iSteve"はジョーク作品だった。 しかし1時間20分ほどあって、 ジョークにしては本格的だし、 1か所くらいは大笑いできる。

iSteve
http://www.funnyordie.com/videos/d2e0f617e3/isteve

4.17.2013

信念と信仰 GINGER AND ROSA



昨日のコレと製作会社なども共通したシリーズの作品らしい。 こちらは日本公開予定はまだないが、 監督にサリー・ポッターを据え、 時代も60年代初頭、 文芸調の香りが濃い。 メインキャストには昨日のダコタの妹であるエル・ファニングを持ってきたりと、 その点でも姉妹作品だが、 エルもいちおうイギリス英語はこなすものの、 姉さんほど上手くはなさそう。 しかし赤毛に染め上げられた髪もフォトジェニックならぬシネマトジェニックで、 しなやかに伸びた手足は姉さん以上に風格を漂わせる。

1945年、 広島に原爆が落とされた年に二人は生まれる。 母同士が友だちで、 ジンジャーとローザも姉妹のように育つ。 しかし60年代に入り、 ともに思春期にさしかかる頃を境に、 二人はそれぞれの違いを意識するようになる。 エル演じるジンジャーは核の脅威に対し、 私たちも何かをすべきと言うが、 ローザは祈るべきと返す。

しかしあいかわらず仲のいい二人は、 オシャレして夜遊びもすれば、 活動家としてデモに参加するときは地味なタートルネックを選んだりと、 しっかりと 'ギャルズ' であった。

ジンジャーには教師で思想家の父ローランドがいて、 日夜ルールに縛られない生き方と執筆活動に精を出す。 一方の母は保守的で口やかましく、 父と母は別居中だが、 ジンジャーは父の元へ身を寄せることを選ぶ。 新しい環境で、 ローズも誘って父が大事にするボートでクルーズに出かけたりするうち、 ローズには実の父親がいないせいもあって、 彼女はしだいに親友の父ローランドに惹かれてゆく。 そしてある日、 ローズは妊娠したことを告げる。

とまあ、 そっちへ行くのかぁ的な感想となり、 流れるジャズとともに雰囲気のある作品ではあるが、 可もなく不可もなく、 あの時代を切り取ってきた趣旨や現在へ持ち帰るテーマなども明確には受け取れず、 昨日の作品と同様にどこか企画的にズレたものを感じた。 乞うご期待^ ^ ちなみにジンジャーというのはニックネームであり、 DQNな本名がある。 それが何かは見てのお楽しみ。



ジンジャーの朝 さよなら、 わたしが愛した世界
(2012 イギリス・デンマーク・カナダ・クロアチア) 日本公開2013.8月
GINGER AND ROSA 脚本・監督 サリー・ポッター 
エル・ファニング アリス・イングラート クリスティナ・ヘンドリックス 
アレッサンドロ・ニヴォラ ジョディ・メイ 
ティモシー・スポール オリヴァー・プラット アネット・ペニング 

4.16.2013

春のお涙ちょうだい 「17歳のエンディングノート」



いわゆる '難病もの'。 ダコタ演じるテッサは白血病で4年の闘病生活ののち、 抗がん治療を中止する。 そして、 どこかで聞いたような '死ぬまでにやりたいことリスト' を実行していくが、 リストの全貌は明かされず、 また思いつきで増やすため、 進行上で有効に機能していない。 難病ものとわかってなぜ見たかと聞かれても、 春先にクリスマス気分を取り戻すのも悪くないか程度の思いつきだが、 やはりSONY PICTURESもBBC FILMSも企画に乏しいとしか思えず。 こういうのこそスルーでいいのに、 ご丁寧に公開してくれる。 ポスターも何となく古くさい感じだな^ ^

それでも難病もののツボがあるとしたら、 死にゆく娘がいかに けなげで、 またこの世とあの世の中間にいるかのような美しさで魅了してくれることではないだろうか。 それに対してダコタは期待通りの答えを出しているとは言えず。 原作や演出のせいもあるだろうが、 いつも突っかかりすぎて可愛げがなく、 ぼんやりした目つきすぎて魅了されない。 唯一、 アダムという男の子とデートするということで着替えたドレス姿はキレイだったが、 それも鼻血で汚してしまう。

テッサは親友ゾーイに中絶を思い留まらせ、 5ヶ月後に生まれるその子に会えるかな、 ちょうどいい目標ね、 などと言い、 またアダムが大学進学を決めたら、 新学期にはスゴいヘアスタイルの別人になって、 キャンパスに現れるからなどと話す。 この世から消えゆこうとする本人の心情、 あるいはうら若き一人娘を失おうとしている父親の気持ちなどはそれなりに描けている気もした。

余談ではあるが、 自分の名前をこの世に残したいというテッサの願いを叶えようとアダムは街じゅうに彼女の名前を落書きする。 そのときの一瞬の街角の映像でデビッド・ボウイの初期のジャケ写を思い出してしまったが、 そういやイギリス映画だったね。 ダコタのイギリス英語はわざとらしくなく上手で、 そこが見所と言われてもわざわざ劇場に足を運ぶかどうかは微妙だが、 乞うご期待^ ^


17歳のエンディングノート (2012イギリス) 日本公開2013.4/27 公式サイト・予告
NOW IS GOOD 監督 オル・パーカー  象のロケット 
ダコタ・ファニング ジェレミー・アーヴァイン パディ・コンシダイン 
オリヴィア・ウィリアムズ カヤ・スコデラーリオ 

オペレーション・ラブ EXCISION



まあ、 その筋の話題作なんだろうな。 IMDbではコメディ/ホラーというジャンルになっている。 グロテスクかつ壮麗な映像の大半は主人公のイマジネーションではあるが、 変異した青春ものと言えなくもない。

ティーンエージャーの姉妹、 姉はキモくて妹は可愛いが、 姉は (精神以外) 概ね健康、 だが妹は喘息で肺の移植が必要とされている。 姉は問題児で、 学校では "死者と交わっても性病はうつるか" などの質問をし、 教会では神父に科学と宗教の分離を説く。 そして外科医を目指しているが、 成績は優秀とは言えず、 知識は独学で偏っており、 実技は死んだカラスを解剖したことがあるくらい。 そのくせ自分は名医だと妄想している。

こうした設定を聞くだけで結末は見えたかと思うが、 その通りの結末となる。 母はこの姉ポーリーンを舞踏会に連れ出したり、 なんとか正常な娘にしようと干渉する。 それをウザいと思うポーリーンに父は言う。 "母さんの行動もすべてお前を愛すればこそなんだ" と。 そして皮肉にも、 ポーリーンが妹に施す術も妹を愛すればこそだった。

そんなポーリーンが神に語りかけるセリフなどはそれなりに面白く、 結末は見えていながらも、 あーあ、 と言いながら見てしまう disgusting なディテールいっぱいの怪作。 乞うご期待。




エクシジョン(原題) EXCISION (2012) 日本公開未定
脚本・監督 リチャード・ベイツ・Jr 
アナリン・マコード トレイシー・ローズ アリエル・ウィンター 
ロジャー・バート マルコム・マクダウェル 

4.15.2013

ワニを料理するママ “Beasts of the Southern Wild”



実話なのかなと思わせるようなタッチだが、 一昔前に流行ったマジックリアリズムとalllcinemaでは解説されている。 原作は戯曲とのこと。 ミシシッピ河口のデルタ地帯をモデルに、 嵐にさらされ、 しかも堤防ができてからは増水した水も引かない見捨てられた土地。 しかしそこに住む者たちにとっては故郷であり、 自分の土地であり、 かたくなにここを出て行くことを拒み、 住み続けようとする。

ハッシュパピーと呼ばれる6歳の娘は、 母が出て行ってから父と二人暮らし。 しかしその父にも病気が発覚、 残された時間、 娘に一人で生きられるたくましさを教えようとする。 娘はくしゃくしゃのアフロヘアですでに十分たくましいのだが、 それでもときどき母を思い出したりする。 やがて自分を "大きな宇宙の小さなピースだが、 それがないと世界は崩壊してしまう" 存在と認識し、 よりたくましく生きていこうとする。

邦題は例によって日本向けに? 可愛く加工されているが、 原題はもっと荒くれた雰囲気で、 嵐をはじめ自然の猛威をビーストと喩え、 実際に巨大な黒ブタで表現されている。 多少ジブリな感じもするが、 そのメッセージは目新しくはないものの正統性は持っている。 ポエティックな映像でサンダンス・グランプリやカンヌ・カメラドールに輝くが、 どうだろう自分的には・・ とくに文句のつけようはないが苦手だなあ、 こういう出来すぎた作品は^ ^

ワニを仕留めて料理するママが印象的だったが、 それは娘も土地も捨てていった者であり、 映像は父の話を元にした娘の想像図で、 またラスト近くの再会も幻想かもしれない。 娘には父の生き方も母の生き方も選択肢の一つして、 どちらを選ぶか、 あるいはどちらも選ばないかは娘に預けられているように受け取れるが、 けっきょくは当事者の決断であるなら、 この映画の存在意義は曖昧なままになるのではないだろうか。 あなたのハートには何が残るでしょう。 。 20日から。



ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~ (2012) 日本公開2013.4/20 公式サイト・予告
Beasts of the Southern Wild   象のロケット 
監督 ベン・ザイトリン 
原作戯曲・脚本 ルーシー・アリバー 
クヮヴェンジャネ・ウォレス ドワイト・ヘンリー