10.30.2009

娯楽の産学共同体 「ラッシュライフ」



"東京芸大が豪華キャストとともに、伊坂幸太郎の原作に挑む" という説明書きの通りの作品。 見始めると面白いので、 へえ〜なかなかじゃん、 とは思ったが、 よく考えてみれば、 そのほとんどは原作とキャストに依存している。 監督は東京芸大映像研究科の学生4人が共同で担当したらしいが、 作風は未分化ながら、 あるレベルの演出はしている。 しかし見たいのはレベルだけでなく監督の個性であって、 とりあえずコマーシャリズムから逃れられる恵まれた環境があるなら、 もっとそのへんを見せてほしかったという気がする。

「河原崎」 「黒澤」 「京子」 「豊田」 と人名のタイトルを持つ四つのエピソードが交錯するが、 呪怨みたいというか、 「菊池」 なんかを思い出しちゃったりしたが (あの人は今*)。 。 これだけの原作と出演者を用意できたら、 誰が撮ってもそれなりの作品にはなるはず、 よっぽどでなければ・・ その、 よっぽどになってしまうのを恐れて必死に演出プランを練ったんだろうなと想像してしまう。

だから十分、 上手だし、 的確だ。 押し入られた人の気持ちがわかる泥棒 黒澤はクールだし、 どのエピソードも悪くない。 だが、 どこかで見たタッチを、 こぢんまりと追体験した感じでもあり、 先の説明書き以上でも以下でもないところが、 下のDVDコメントのような結果となって表れるのだろう。 エンタテイメント版の産学共同体のようでもあるが、 最初っから'産'に取り込まれてしまっているのかもしれない。

ソツなくこなすだけでは つまらないと感じつつ、 リスクを冒して暴れる余裕もない '今' を象徴してしまったようだ。 でも、 そんなにゴチャゴチャ考えずに見るなら、 普通に面白い作品ではあるので、 映画学科の学生などでなくても過不足なく楽めるはず。


ラッシュライフ (2009日本) 公式サイト 
原作 伊坂幸太郎
監督 真利子哲也+遠山智子+野原位+西野真伊 from 東京芸大 
柄本佑 堺雅人 寺島しのぶ 深水元基 竹嶋康成 筒井真理子 
MINJI 塩谷瞬 佐藤江梨子 板尾創路 団時朗 
ラッシュライフ [DVD][DVD]
おすすめ平均
starsわーい\(^o^)/
starsせっかくの原作の面白さが出ていない
stars芸大もたいしたことないね
stars天才・伊坂幸太郎
Amazonで詳しく見る
 powered by G-Tools

*あの人は今・・ と言ってたら、 公式ブログがございました^ ^ フルCGに走っておられるそうです。 » イワモトケンチのイワモケ的ココロ

10.29.2009

トビーという少年の記憶 「ATOM」



自分はもともとアトムに思い入れがあるわけではないので、 すんなり受け入れられたほうかもしれない。 アトムより鉄人28号、 いやマジンガーZか、 マグマ大使よりジャイアントロボ、 リボンの騎士よりバビル2世、 メルモちゃんはちょっといいけど、 どうせなら、 ななこSOSかキューティーハニーでいいや、 さらに言うならゴジラよりガメラ・・ という趣味なので、 時代背景や対比がテキトーですまないが、 ようするに手塚治虫先生はあまりにAクラス、 多数派向けという気がしてしまう。

それでもこの作品は、 アトムが吊り下げられているティーザーのビジュアルを見て、 すごく見たいなと思った。 たぶんシリアスで恐い、 アトムのアナザーバージョンを期待したのだろう。 そしてやっと本編を見ることができたが、 残念ながらその期待に応える作品ではなかった。 普通の楽しいCGアニメだ。 だがアメリカのCGアニメの受けが悪い うちの子供たちにも比較的 高評価だったし、 少なくとも 「DRAGONBALL」 よりマシとは言える。

ただ本作は、 実の息子を亡くした博士が、 息子に似せてロボットを作るという部分が中心になっているので、 そう言えばアトムって そんな話だったんだと、 あらためて手塚先生の原作に潜む何らかのものを感じることはできた。 トビーという少年の記憶を移植するが、 トビーを甦らせたいという願いとは逆に父は、 アトムを見るたびに悲しい記憶を思い出すこととなる。 ロボットとなった少年は、 その後も成長することができるのだろうか。 SFの王道的な着想だったんだなあと・・ かと言って 「A.I.」 やその他ピノキオ的な物語と比較して とくに深いとか、 抜きん出てるというわけでもないが。

子連れなので吹替版だが、 上戸彩はけっこう上手かったように思う。 しかし声優が本職ではない人を起用する最近の傾向について、 声優さん自身はどう感じているのだろう。 というか、 上戸彩の声だから、 役所広司の声だから見に行こうと思う人がどれだけいるんだろう。 あるいは本編に大して関わりのない日本のタレントを使った海外作品のプロモーションも盛んだが、 その勢いにつられて見に行く人っているのか? まあ、 いるから やるんだろうな。 しかし、 そうやって本当のターゲットにアクセスしない宣伝方法は、 いつか大きな揺り戻しを引き起こしそうな気がするが、 言っても仕方ないか。 。

ATOM アトム Astro Boy (2009香港・アメリカ・日本) 10/10〜 フルCGアニメ
監督 デビッド・バワーズ 原作 手塚治虫  公式サイト 
吹替版 声:上戸彩 役所広司 

10.28.2009

タルコフスキーに捧ぐ 「アンチクライスト」



カンヌなどでも話題の作品、 二足先に見た。 賞については今回はゲンズブールの女優賞だけだったようだが、 '衝撃的' という形容詞の似合うトリアー監督、 やはり今回も '衝撃的' な映画だった。 ただし、 これは書けない。 いちおうトレーラーは貼っておくが、 詳しいことはあえて何も書かないでおく。 あくまで雰囲気だけ。

"ドグマ95" とか言って、 自然光や手持ちカメラを推奨していたトリアーだが、 それも今は昔のこと。 この作品ではバリバリ凝った映像表現をぶちかましてくれる。 とくに この超スローモーション。 新しい技法ではないにしても、 これだけ随所に取り入れられると不思議な作風となる。 スローモーションや音楽が醸し出す雰囲気に何となくタルコフスキーを感じていたら、 最後にタルコフスキーに捧ぐ、 とのテロップが出てくる。

タイトルから想像する宗教性は深いところにはあるかもしれないが、 表立った宗教臭はない。 それよりプロローグから、 いきなりモロなファックシーンで、 パゾリーニを彷彿とさせるみたいなことを誰かが言ってた通り。 デフォーもゲンズブールも丸出しの演技は大変だっただろう^ ^ そしてその後のエグい展開は、 ほとんどホラーと言ってもいいかもしれない。

勝手な解釈の得意でない人には難解かもしれない。 トリアーの女性観と言えるかもしれないし、 さまざまに解釈されていい作品だと思うが、 自分的にはトリアーとタルコフスキーのリンクを発見できてうれしいとともに、 懐かしい監督に思いを馳せてしまった。 今はなき大好きな監督の一人だが、 中盤から微妙に退屈になり、 そこへ重厚な音と映像だから、 睡魔に襲われがち・・ そんなところまで似てたりして。




アンチクライスト Antichrist 日本公開2011.2/26 公式サイト 
(2009/デンマーク・ドイツ・フランス・スウェーデン・イタリア・ポーランド)
脚本・監督 ラース・フォン・トリアー 
ウィレム・デフォー シャルロット・ゲンズブール *カンヌ女優賞 
アンチクライスト [Blu-ray][Blu-ray]

イディオッツ [DVD] レクイエム・フォー・ドリーム <HDリマスターBlu-rayスペシャル・エディション> [Blu-ray] スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団 The Ultimate Japan Version [Blu-ray] トゥルー・グリット ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray] キラー・インサイド・ミー [Blu-ray]

powered by G-Tools

10.25.2009

下水に流れた才覚 「新宿インシデント」



この手のノワールもしばらく見てなかったので、 それなりに満足。 ジャッキー・チェンはもう体が動かなくなったのか、 この映画ではカンフーアクションはまったく見せない。 顔も老けたなという気がする。 恋人を追って日本に来る歳でもなさそうな。 。 探し当てた恋人は極道の妻になっているのだが、 その役にジュー・ジンレイがどうもフィットしないなあ。 ファン・ビンビンはキレイだが中途半端な役どころだし。

90年代の集団密入国事件をモチーフに、 恋人を追って若狭湾に流れ着いた男は、 その後、 歌舞伎町の裏の顔役にのし上がってゆく。 中国の田舎でトラクターに乗っていただけの男なのに、 覚悟を決めたら見事な才覚を発揮して中国人グループをまとめ、 暴対法成立後の新宿界隈のヤクザにも見込まれる。

抗争後に勢力を拡大するが野心はあまりなく、 そっち系の仕事は仲間に任せて自分は農耕機販売などを始めたりする。 しかしその結果、 男のグループは国内最大の外国人犯罪組織となる。 もともと人のいい男で、 一方では刑事の命を救ったりして、 そっち方面にもある種のコネを持ってしまう。 やがて時代の渦の中、 これまでのことを清算しなくてはならない状況がやって来る。

新宿ロケ、 ヤクザものということで、 香港映画と言うよりVシネマなテイストだが、 見せ場がきっちりとあるのはさすが。 ジャッキー演じる"鉄頭"の男気は素敵だが感情移入してしまうほどでもなく、 かと言って加藤雅也はじめ日本のヤクザが主役というわけでもないので、 日本刀の抗争はそれなりに迫力があるが全体に こぢんまりした印象を受ける。 繁栄と貧困とか、 権力対はみ出し者みたいな大きな対立軸がないのだ。

日本ヤクザ対中国マフィアみたいな話でもまったくなく、 日本のヤクザもすでに微妙な支配のバランスのなかにあり、 中国人のなかにも華僑グループとそうでない者の生き方の違いがある。 もはやノワールが成立する時代ではなかったのかもしれない。 そして最後は "中国の発展とともに2000年以降は こうした密入国は減少する" とのテロップが出て終わる。 ようするに日本がもう、 おいしい国ではなくなったのだ。 そのあたりのわびしさだけが妙に残る映画だったなあ^ ^



新宿インシデント The Shinjuku Incident/新宿事件 (2009香港)
監督 イー・トンシン  公式サイト 
ジャッキー・チェン (製作総指揮兼) 竹中直人 加藤雅也 ダニエル・ウー 
シュー・ジンレイ ファン・ビンビン 峰岸徹 倉田保昭 長門裕之 
新宿インシデント [DVD][DVD]

ウォーロード/男たちの誓い 完全版 [DVD] ザ・スピリット [DVD] ザ・バンク 堕ちた巨像 コレクターズ・エディション [DVD] レイン・フォール/雨の牙 コレクターズ・エディション [DVD] バンコック・デンジャラス デラックス版 [DVD]

powered by G-Tools

10.24.2009

100年前の風 「ココ・アヴァン・シャネル」



遅いエントリーになってしまった。 というかエントリーしなくてもいいかと思っていたのだが、 知り合いとファッションの話で少しだけ盛り上がったので、 やっぱり書いておこう。

映画は正直、 特番の大河テレビドラマみたいな雰囲気で、 オドレイも老けたのか、 役作りでゲッソリしてるのかはわからないが、 かつての輝きは感じない。 ただスネて世の中を見た、 それでいて したたかに狙っているような目つきはよかったかな。 タイトルは "シャネルになる前のココ" ということだし、 これでいいのかもしれない。 コルセットを拒否し、 男物の服で世間を驚かせたシャネルも、 '女' を使って世渡りするハングリーな人だったことがわかって、 それはそれで納得。 ようするに "パトロンの作り方" みたいな映画だ。

しかしながら CHANEL が いかに革命的だったかは、 想像力を持って見れば追体験できる。 馬車の時代、 やがて自動車が徐々に増えてくる時代の話なのだ。 貴族社会、 政略結婚・・ そんな時代、 ファッションは上流階級のもので、 通常では起きるはずのないことが起きるには、 それなりの策略がいるのだ。 革命とはすなわち階級闘争。 その意味においても、 まさに革命的な人だったのだ。

そんな時代から100年近くが経って、 いま自分たちがイメージする CHANEL というとブランドの代名詞というか、 エレガンスの権化のような捉え方ではないか。 あの時代にココがモード界に送り込んだ黒い服、 アンチエレガンス、 男物テーラードというと、 コムデギャルソンやヨージを思い浮かべてしまう。

ある冬の日に、 フロムファーストだったかな、 下のカフェでヨージさんと川久保さんがお茶してるところに、 偶然 僕と友だちが入っていったことがある。 二人ともその年のコレクションを着て。 当然チラッと見られたわけだが、 着ていたのがヨージだから、 耀司さんの微妙に勝ち誇った顔がよかったなあ。 川久保さんのほうは、 なぜ私の服じゃないの?って顔で^ ^ いまヨージは経営が上手くいっていないとの寂しい情報が耳に入るが、 一番好きなデザイナーだったのだ。

話を CHANEL に戻そう^ ^ つまりモード界広しと言えど、 ココ・シャネルこそがアンチファッションの元祖なのだ。 なのにブランドというのは罪なもので、 デザイナーを変えてもブランドは存続し、 いつのまにか正反対のものになってしまっている部分さえあるのだ。 一人の革命児が巻き起こした旋風を100年維持するのは経営努力の 'たまもの' だろう。 だが耀司さんのデザインしないヨージヤマモトを想像してみても意味は見えてこない。

収拾のつかない話になってしまった。 。 革命児の伝記としては物足りないが、 ファッションやデザイン、 そしてビジネスについて考えている人には、 まったく時間のムダになる映画というわけではないので、 DVDになったら借りてみても損はないはず。 ココとボーイがテラスでお茶をしているときに吹く、 やたら強い風がなぜか印象に残った。 ロケの際に、 ただ偶然に吹いた突風にすぎないのかもしれないが。


ココ・アヴァン・シャネル COCO AVANT CHANEL (2009フランス) 
監督 アンヌ・フォンテーヌ  公式サイト 
オドレイ・トトゥ ブノワ・ポールヴールド アレッサンドロ・ニヴォラ
ココ・アヴァン・シャネル特別版 [DVD]特別版 [DVD]

 ココ・シャネル [DVD] 愛を読むひと (完全無修正版) 〔初回限定:美麗スリーブケース付〕 [DVD] セントアンナの奇跡 プレミアム・エディション [DVD] 私の中のあなた [DVD] HACHI 約束の犬 [DVD]

 powered by G-Tools