1.31.2015

カリフォルニアの青い空と鉄塔 “Starlet”



原題 "スターレット" は往年のトヨタ車ではなく、 饒舌な邦題の通りチワワの名前。 オスなのに、 というギャグも入っているが、 この饒舌なだけなく陳腐なタイトルのせいで、 どんなエロ映画だと思いきや恵比寿ガーデンシネマあたりでかかってもよさそうな作品だった。 ポルノ女優ジェーン役の、 どことなくバイオニック・ジェミー、 いや「ダブ」 のデボラ・ラフィンかな・・ を彷彿とさせるLAのスレンダーなブロンド娘を演じるこのドリー・ヘミングウェイ、 名前でお気づきの方もいるはず。 文豪ヘミングウェイの孫娘で昔 「リップスティック」 というスキャンダラスな映画に出てたマーゴ・ヘミングウェイの妹マリエル・ヘミングウェイの娘さんとのこと。

お母さんほどインパクトのある顔ではなく、すぐに思い出せなくなる類のナチュラル志向な顔だが、独特の雰囲気がある。ポルノ女優と一言に言っても世渡りの上手い下手はあるもので、彼女は握手会でもファンサービスの上手な成功者。対して友達のメリッサは製作会社からもすぐにクビを言い渡され、ビジネスライクな社長からはアイツとは付き合うなと言われるタイプ。意外なことにポルノ女優は恋愛禁止とのこと。またLAの片隅は意外に電線や鉄塔が多いなと気づくぐらい、やたら意図的に映されている。

ヤードセールで買った魔法瓶に大量の札束が隠されていて、売主のばあさんのことが気になるジェーン。返しそびれながらも、免許を返納したセイディばあさんを送り迎えするようになる。亡くなったダンナはギャンブラーで、使い切れないお金があるという。子供はなく、今は一人暮らし。そんなセイディにつきまとい、週末のビンゴにまで顔を出し、仕事中は逆にスターレットの面倒をみてもらったりと、うら若きブロンド娘とばあさんの不思議な関係は進む。セイディばあさんはパリが好きだったと聞かされ、しかし行ったはことないことがわかると、もともとはバアさんのものだった金でパリ行きのファーストクラスを2枚買うジェーン。

ジェーンはときどき墓参りをするセイディにも付き合ったが、パリへ発つ朝、時間がないのに墓に寄ってくれとばあさんは言う。さらには足の遅い私に代わって花を供えてくれと。何か特別な意図を感じながらも花を持って地面に埋められた墓碑を初めて目にするジェーン。するとそこには… これがちょっとしたドンデン返しなのか、大どんでん返しなのか、判別がつかないまま終わるが、予想外のオチを最後に持ってきた、邦題とはまるで違う味わい深い小品。ブロンド娘に目がない方はぜひ。ヘミングウェイか…。




チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密
Starlet (2012 アメリカ・イギリス) 日本未公開
監督 ショーン・ベイカー 
ドリー・ヘミングウェイ ベセドカ・ジョンソン ステラ・メイヴ 

1.26.2015

ワニのいるプール 「ペーパーボーイ」



豪華ではあるが、 いかにもすぎるキャスティングでとくに関心はなかったのに、 予告で見たキッドマンだけが気になって見てしまう。 バービー人形みたいな人には60年代のファッションが似合うということだろうか。 キッドマンっていくつだっけ。 厚化粧でコーティングすれば本当にあの時代のアラサーくらいに見える。 タイトルバックや音楽、 フィルムの粒状や光までが1969から切り取られているような微妙な凝り方にも恐れ入った。

原作者が脚本も担当することが吉と出たのか凶なのかは定かではないが、 サスペンス/ミステリーとして見れば肩透かしを食らうかもしれない。 母に捨てられ、 つまらないことで大学を追い出されたジャックの青春物語と見れば、 苦すぎるひとコマではあるものの、 何らかの感慨深さが残るのではないだろうか。 その後ジャックは作家になったとされ、 発表されたこの作品がすべて事実であると黒人の乳母がインタビューで答えるシーンから始まる。

細かいところはことごとくネタバレにつながってきそうなので触れないが、 微妙にわかりにくい気がしたのは、 意識が60年代に遡れないからかもしれない。 黒人解放運動から間もない時代ということも、 フラワームーブメントが収束したあとの虚無感とかも意識的に再構築しないとニュアンスを失う。 作者の実体験に基づくような原作を作者自らが脚色し、 映像も音楽も丸ごと60年代を再現しているにもかかわらず、 あの時代のタブー、 気分、 匂いがすべて忘れ去られている。 作り手が忘れ去ったのではなく、 見る自分のなかで、 これに近い自分の時代の手触りすら思い出せない。

たまたま一昨日あたり、 メロディが出てくるのにタイトルや詳細の思い出せない曲がつきまとうので、 1970~2000年のビルボードTOP30をずっと追ってみたのだが、 それでもヒットしない。 口ずさんだメロディで探してくれるアプリでも延々と 「みつかりません」… 気持ち悪くてしかたない。 小学校の頃よくいっしょに宿題をしたはずの女の子の顔がまるで思い出せないことと同様に。 さらには、 かつてのヒット曲の数々をあらためて聞くことの懐かしさとむなしさ。

恐らく過去というのは劣化の一途をたどるのだ。 仮に脳から記憶を取り出してデジタルで鮮明に再現しても、 あるいはその時代の写真が克明に残されていたとしても、 それを自分が体験したという信憑性がぼやけてしまっている。 懐かしいという感覚も最初のうちだけで、 それ以上深く掘ってみても、 すでにそこには何もない。 そんな恐さを覚える作品と言えるかもしれない。



ペーパーボーイ 真夏の引力 The Paperboy (2012) 日本公開2013 公式サイト・予告
監督 リー・ダニエルズ 
原作・脚本 ピート・デクスター 
ザック・エフロン ニコール・キッドマン マシュー・マコノヒー 
ジョン・キューザック 

1.24.2015

最終兵器神父 The Atticus Institute



新年1本目はまたまた微妙な作品から^ ^ アメリカでも劇場公開はされず、 Blu-ray / DVDでのスルーリリースらしいが、 予告を見る限りなかなか面白そうだったので見てみた。

70年代、 ヘンリー・ウェスト博士が始めた超能力研究所。 ESPカードなどを使って客観的、 科学的な実験に精を出していたが、 驚きの能力を示していたロシア人がトリックを使っていたことが明るみに出て、 しだいにバカ扱いされるようになる。 そんなある日、 ロシア人をはるかに凌ぐ能力者が現れる。

前例に懲りてトリックの疑いがないことを確証しながら、 目の前で起きるありえない現象に博士をはじめとするスタッフはのめり込んでいく・・。 このへんまでは超能力などという懐かいテイスト、 巧みなドキュメンタリー風構成が効いている。 しかし実は彼女が起こす一連の超常現象はサイキックではなく、 憑依現象だった・・ と、 またそっち方面かと多少呆れつつも、 やがて研究所の手に負えなくなり軍が乗り込んで来る。 最終的にこれを軍事利用しようということらしいが、 悪魔を兵器にするなど、 どっちが悪魔かわからない展開に苦笑いしながらも、 低予算ながら十分楽しめる作品という感想になった。

博士役のクリス・スパーリングはトム・クルーズのいとこだそうで、 そういえば似てるような。 不気味な仕草がはまっているリア・キルステッドとともに、 本当にその時代の人に見えるのは演技力だろうか、 演出力だろうか。 憑依された者をコントルールするのに電気ショックや催眠ガスなどが使われるが、 これより宗教に関連したものが嫌いだからもっと有効という無理やりな振りで神父が登場。 神父がこの憑依兵器のコントローラーとなる? という驚きも束の間、 ガス室に入るためにガスマスクを被るのはコレのパクリからと思いつつ、 兵器としての活躍は予算の都合からか割愛された?




恐怖の人体研究所 The Atticus Institute (2015) 日本未公開
監督 クリス・スパーリング 
ウィリアム・メイポーザー リア・キルステッド