5.28.2010

こんどはラブストーリーだ! 「キャピタリズム」



こんな言葉知ってる? plutonomy (プルートノミー) ・・自分は当然、知らなかった^ ^ でもその意味を聞くと、 資本主義の本質がわかったような。 一部の富裕層が富を独占することを言うそうだ。 すごく見たかった映画がDVDになってやっと見れたわけだが、それでよかったかな、 多少ムツカシイので同じシーンやセリフを何度か繰り返すことになった。

社員に生命保険をかけるなんて日本ではあるのだろうか。 民営化された少年院というのも凄い。 パイロットの給料がなぜマクドナルドでバイトするより安くなったか・・

何より理解を新たにしておくべきだと思ったのは、 資本主義と民主主義はまるで違うということ。 何となく似たもののように感じてしまっていたら、 社会主義を牽制するという名目のもと何十年も行われてきたプロパガンダに冒されていることを疑うべし。 映画にも出てくるが、 神父も牧師も、 資本主義こそが悪魔だと言ってるのだ。 そしていま悪魔払いをするときが来たのかもしれない。

銀行に融資を止められたことを、 3日前に通達された社員は路頭に迷う。 「私たちには技術もあり、 暮らしを良くしようと努力してきただけなのに、 なぜこんな目に合うのか」 と語る労働者。 その後、 サブプライムの問題で金融システムが破綻し、 金融機関救済に税金が投入される。 こんな馬鹿なことがあるか、 私たちは何の救済もなしに放り出されたのに大銀行が救済される? 投入された金は自分たちに支払われるべきものだとして、 労働者たちは昔ながらの座り込みストを始める。 そして誕生したばかりのオバマ政権がこれを支持する。

マイケル・ムーアが突撃インタビューに行った際の、 相手の話に聞き入る顔が好きなのだが、 今回も真剣に聞かざるをえない話ばかり。 社員が民主的に経営する新しい会社の成功例なども取り上げながら、 資本主義という悪魔払いをしようと訴える。 例によって邦題は、 そんなニュアンスを180度変えてしまう。 キャピタリズムでわかる? 資本主義でいいじゃない。 マネーは踊る? 「会議は踊る」 をもじったつもりだろうが、 作った人は本編を見てないね。 踊らせたらダメなんだ。 ウォールストリートの視点で訳してしまっている。 原題の "LOVE STORY" はノリで付けているフシがあるわりに不思議とピッタリと合っている。 そろそろ、 その偏愛から醒めるとき。 そういうことかなと思うが、 なぜ LOVE STORY なのかを考察してみるのと、 より理解が深まるかもしれない。

後半では、 ルーズベルト大統領の新憲法への提言が取り上げられる。 そこでは地位や人種や宗教に関わりなく安全と繁栄が保証され、 有益で報酬の見合う職を得る権利、 食料と衣服と余暇をまかなうのに十分な収入を得る権利、 企業が独占からフリーである権利、 適切な家に住む権利、 十分な医療を受ける権利などが明文化されていた。 しかし第二次大戦が終結する前にルーズベルトはこの世を去り、 この憲法は幻に終わった。 平等な雇用の権利、 最低賃金、 国民皆保険、 十分な教育・・ このどれもがアメリカではいまだに実現されていないのだと。

あれ、 どこかで聞いたような内容だなと思えば、 日本国憲法。 ルーズベルト政権のスタッフが皮肉にも敗戦国で理想の憲法を実現したというのだ。 もちろんルーズベルト案にある '手頃な値段の家' などは日本の都市部では実現していないし、 実がともなわないものもあるだろう。 アメリカでも保険は改革中。

富の分配について何か語ると、 ともすれば共産主義、 社会主義というレッテルを貼られるアメリカの風潮を、 ムーアはこの映画を通して変えたいと思っている。 それには資本主義が唯一最高のものだというプロパガンダを払拭しようということ。 資本主義、 あるいはプルートノミーを追い払って、 民主主義を取り戻すのだと。 いまこそ行動を起こせ。 そう言って AIG、 シティバンク、 JPモルガン・チェース、 メリル・リンチの本社を "犯罪現場 立ち入り禁止" の黄色いテープで囲う^ ^

日本にもさまざまな問題があるし各論の議論はあるが、 状況を変えていくシンプルなメッセージがないような。 ならやっぱりこれかな・・ ベーシック・インカムが日本を変える! ^ ^


キャピタリズム マネーは踊る Capitalism: A Love Story (2009) 日本公開2010 
監督 マイケル・ムーア  公式サイト 象のロケット 

5.25.2010

ハタチの意思決定 「預言者」



すでに今年のカンヌ映画祭の受賞が発表されたりしているが、 日本では去年のグランプリ作品も公開されていない。 新時代のゴッドファーザーなどと評され、 大傑作の呼び声も高いこの作品を見る機会に恵まれたので、 ここにレポートしよう。 あまり絶賛するのは好きではないので控えめに書くが、 それでも否定しがたい素晴らしさがあると思う。

青年19才、 6年の刑を食らって服役する。 アラブ系の血を引いているが親はなく、 刑務所内の勢力図を乱す要素を秘めている。 コルシカ組とアラブ組は対立している。 青年はフランス語とアラビア語が話せるが読み書きはできない。 コルシカ組のボスが青年に接近する。 "俺の保護なしに ここでは生きられない 保護が欲しかったら 一人殺してこい"

ターゲットは減刑と引き替えにコルシカに不利な証言を目論んでいる様子の、 青年と同じアラブ系。 青年は葛藤しながらも仕事をこなす。 その後もボスからは さまざまな難題が言い渡されるが、 青年は確実に仕事をこなす。 しかしアラブ系を目の仇にするコルシカの中では のし上がれるはずもなく、 成果は中途半端なかたちでしか返ってこない。

やがて青年はジプシーと組んでマリファナのビジネスを始め、 またアラブ系の男とも密かに友情を結ぶ。 模範囚として一時外出が認められるようになってからは、 日帰りでシャバに仕事をしにいく。 エジプト系のグループと交渉したり、 邪魔者を消したり・・ そして最後には大勝負に出る。

ノワールな設定ではあるが、 裏を返せば普通の立身出世物語。 青年は刑務所の中で、 人生をオン・ザ・ジョブ・トレーニングするのだ^ ^ どこかウブな青年だが、 人生の分岐点ではとことん考え抜き、 一旦 意思決定したら迷わず実行する。 予期せぬ障害が現れても、 今だと思った瞬間にカミソリを抜き、 銃をねじ込む。 そのヒット率の高さから プロフェット (預言者) と呼ばれるようになる。

フランスの刑務所が舞台なのに、 登場するのは多国籍な人々であり、 かかる音楽も英語圏のロックやヒップホップ。 フランスのムショ事情を垣間見るとともに、 日本映画 「刑務所の中」 などと比較してみると、 そこにあるグローバリゼーションの進み具合の落差にも感慨が及ぶ。

青年はボスの命令で一日外出した際に、 初めて飛行機に乗る。 そのときのウレシそうな顔。 そして搭乗チェックでは刑務所内のように舌まで出してしまう。 勉強する機会も刑務所内のスクールで初めて与えられる。

ヤクザ映画などを観たあと映画館を出たら、 肩で風を切って歩いてしまう。 そんな感覚を思い出すようなナイスな映画は 'あえて空気を読まない' 若い人に見て欲しいな。 もちろんオッサンも燃えるけどね^ ^ 殺した男の幽霊を友達にしてしまうくらいの覚悟があれば、 たぶんキミにも、 そしてボクにもできることかもしれない。




預言者 Un Prophète (2009フランス・イタリア) *2009カンヌグランプリ
監督 ジャック・オーディアール  日本公開2012.1/21 *"フランス映画祭2010" 先行上映
タハール・ラヒム ニエル・アレストリュプ アデル・ベンチェリフ 

5.22.2010

Final Cut Pro使いの古風な女監督
「冒険してもいいコロ!」



きちんと調べたわけではないが、 女性監督が増えた気がする。 本作も女性監督なのだが、 かといって一昔前のように肩肘張ったフェミニズムではなく、 いい意味でマイペースに撮る女監督が進出してきたように思える。

どことなく古風で可愛い邦題が付いている。 原題 "幸せを探して" とはニュアンスが異なるが許せる範囲。 物語の主人公もNY大学映画科を主席で卒業したての女監督志望者だが、 やはりどことなく古風。 恐らくは監督本人の経験から生まれたシナリオなのだろう。 成績優秀でも就職先はみつからず、 そりゃそうだ、 いきなりゲイリー・マーシャルに電話してるんだもんな^ ^ けっきょくポルノ業界に拾われることとなる。

そのことを引け目に感じ、 親にも隠しながら、 しかし意外に暖かいポルノ業界の人々の中で成長してゆく女監督。 ポルノ映画の製作会社では最初は編集として雇われるが、 この業界が長そうな男の監督が、 かつて大好きだった映画を撮った人だとわかる。 しかし商業的な成功に見放され今は名前を変えポルノ監督となっていた・・

女監督は会社のスタジオをこっそり使って自作を撮ろうと企てる。 メインストリーム対ポルノという構図も懐かしいものがあるが、 彼女が書き上げたシナリオも、 好きだから簡単には許さないという古風な感覚に包まれていて、 評価はされるものの肝心なところでピンと来ないと出演者からも指摘される。 そして彼女はその指摘を受け入れ、 シナリオを書き直すことで新たなステップを踏み出す。

編集は Final Cut Proを使って進められるが、 このあたりのシーンはそこそこカッコイイ。 もうアナログの編集機材なんて使わないんだな^ ^ どこかマネキンっぽい顔のソビエスキーだが、 キュートかつ独特の存在感。 ポルノの女王 Bliss やプロダクションの女社長など、 キャスト陣も存在感たっぷり。 あちらこちらに、 そこはかとなく漂うリアリティ^ ^ ほぼ実話なのだろうな。 すごく良くできているというわけではないが、 興味深く見れた作品。 密かにお薦め!



冒険してもいいコロ! Finding Bliss (2009) 日本未公開 
脚本・監督 ジュリー・デイヴィス 
リーリー・ソビエスキー マシュー・デイヴィス デニース・リチャーズ 
クリステン・ジョンストン マーセア・モンロー ジェイミー・ケネディ 

5.17.2010

双子の一人っ子 「月に囚われた男」



最近はホラーもマンネリ気味だし、 渋いSFなんか見たいなあと思っていたところにコレが登場。 DVDリリースはまだ少し先のタイミングだが、 評判もいいし、 監督はデビッド・ボウイのご子息さんであるし、 興奮気味の鑑賞となったことを記録しておこう。

地球からは永遠に見ることのできない月の裏側、 ここに次世代クリーンエネルギーの資源がみつかる。 これをいち早く事業化したルナ・インダストリーズという企業に雇われて発掘作業をする男。 月面の基地に一人っきりで、 HALのようなコンピュータだけをパートナーに3年契約でここに滞在する。 孤独に植物に水をやるシーンなどでは名作 「サイレント・ランニング」 が思い出されたりするが、 そんなシーンの直後、 幽霊を見る。 自分しかいないはずのステーションに人影を見るのだ。 そしてそれは女性らしき姿。 「惑星ソラリス」 なのか? さすがボウイの息子、 渋い線を狙うんだなと思いながら、 名作の影に微妙に戸惑いながらも、 さあそうなるんだ、 と。 以下 多少ネタバレ・・

しかし物語はソラリスへは行かず、 次に現れるのは もう一人の自分。 クローンか、 ドッペルゲンガーか?! オマージュを散らしながらも本題はこっちだったようだ。 やがて、 現れたもう一人の自分はクローンだと考えるのが理にかなっていると知り、 二人の間に不思議な交流が生まれる。 一人っ子だと思っていた自分が、 本当は双子だったと聞かされたような気分か。 ところがよく考えてればクローンは彼だけではないはず。 妻の記憶も、 契約期間を終えて早く帰りたい、 会いたいと願う娘の映像も、 遙か昔のオリジナルの体験を再現したものにすぎなかった。

人間は一人では生きられない。 思い出がなくては、 希望がなくては生きられない。 そう感じる自分ではあるが、 自分は果たして人間なのだろうか。 短い寿命を労働者として全うするだけの、 月の裏側の 「蟹工船」。 やがて彼はここを脱出し、 故郷へ帰ることを決心する。 一度も行ったことのない故郷へ。

見終わってみれば、 期待のわりにイマイチぐっと来なかったかな。 ところどころ韓国語が混じるのはルナ・インダストリーズが韓国企業であるということか。 設定は深そうだがジャンプ力に欠けるというのか、 告発するポイントが今さらな感じというか、 小品にまとまってしまっている。

ソラリス的幽霊はあのワンカットだけだし、 地球が記憶の通りか確かめてくれ、 と言うセリフで、 最後は 「猿の惑星」 かと思ったが深読みしすぎだった^ ^ 月面のイメージも通り一辺倒で、 古いSFを見ている気にさせられる。 監督のSFオタクさが裏目に出たか。 しかし英国アカデミー新人賞をもらって一応の評価は得たわけだから、 次回作に期待するとしよう。



月に囚われた男 MOON (2009イギリス) 日本公開2010 公式サイト 象のロケット 
原案・監督 ダンカン・ジョーンズ 
サム・ロックウェル 声 ケビン・スペイシー 

5.16.2010

カネの話と鳥の声 「ワカラナイ」



和製トリュフォーこと小林政広だから "ワカラナイ" とはすなわち 「大人は判ってくれない」 だろう。 しかしこの見捨てられた少年には怒りより優しさ、 あるいはユーモラスさが漂う。 そして音楽は監督自作のフォークソングと環境音としての鳥の声。

オープニングはまず監督の歌を、 まっ暗な中で一曲じっくり聴かされる^ ^ やっと映像が映し出されると、 そこには首をかしげながら走る男子高校生とおぼしき少年。 どこかの地方都市、 少年はコンビニでバイトをしているが家には他に誰もいない様子。 父は家を出て、 母は入院していることがわかる。 ほどなく母親は父への怨みの言葉を残して亡くなり、 バイトはクビになり、 入院費も葬儀費用も払えないので、 少年は独自の葬儀を行う。

手持ちカメラで淡々と映し出される日々は不思議に静かで、 鳥の声だけが響き渡る。 撮影時、 少年役の小林優斗には一日一食しか与えない、 ユースホステルで一人で寝泊まりさせる、 風呂にも入らせないなどの過剰な?演出をしたらしいが、 このウグイスの声も現場音として偶然に入ったふうを装いながら、 巧みな演出として後からかぶせたものなのだろう。

独自の演出は続き、 父を捜して東京に来た少年を取り巻くのは、 クルマの音、 そして鳥の声はウグイスからカラスに変わっている。 お腹が空けばポケットの小銭を数えては あいかわらずメロンパンを食べ、 サッカー少年の風貌を残す赤いシャツのまま、 若い奥さんと小さな男の子が出入りする東京の父の家の前で立ち尽くす。 やがて父は現れるが・・ おい、 本人かい^ ^

やがて補導された少年は "大人はどうしてお金の話しかしないんだ? 気持ちをわかろうとしない" と非常に素朴な発言をするが、 その通りだなと思う。 ツッコミどころも多く、 シネアストの間では恐らくタブーに違いない小林監督だが、 俺は好きだな^ ^ 海外で賞を取った、 出品したとハクづけしなくても、 もういいんじゃないかな。 しかしある意味、 ずっと自分のために映画を撮ってきてアントワーヌ・ドワネルにまで捧げてしまって、 燃え尽きてなければいいが。 いつか彼が、 観客のために映画を撮る日は来るのだろうか。


ワカラナイ WHERE ARE YOU? (2009日本) 公式サイト 象のロケット 
脚本・監督・歌・出演 小林政広 
小林優斗 柄本時生 田中隆三 渡辺真起子 江口千夏 宮田早苗 横山めぐみ 
ワカラナイ [DVD][DVD]

かいじゅうたちのいるところ Blu-ray&DVDセット(初回限定生産) インビクタス / 負けざる者たち Blu-ray&DVDセット(初回限定生産) イングロリアス・バスターズ [DVD] ウェイヴ [DVD] ラブリーボーン [DVD]

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