7.28.2011

隣の花は赤い IN HER SKIN



"Megan Is Missing" の記憶も生々しい折り、 これもまた15才の少女の失踪事件を扱った作品。 事実に基づく、 とのテロップで始まる。

時は1999年、 この年はよく覚えている。 アンゴルモア大王の代わりに娘が降ってきた年だから。 こちらで誕生を喜んでいるときに、 喪失を悲しんでいる人たちがいたのだ。 それが世の常かもしれないが、 15年の歳月、 手塩にかけて育て、 さまざまな可能性を秘めた輝かしい命が瞬時にして無に返るというのは、 さぞ空しいことだろう。

少女はバレエを習っていて、 キュートで、 ステディもいて、 家族やみんなから愛される、 そんなタイプの女の子。 だからと言って調子に乗ってるわけでも、 他人を傷つけるわけでもない。 なのに そんな彼女をうらやみ、 勝手に傷つけられた者がいる。 そして勝手に復讐の計画を立て、実行。 その結果は他人を悲しませ、自分もより不幸になるだけ。

娘が帰らないことで、 両親は数時間ののちに警察に相談するが、 警察は例によって家出と決めつける。 このあたりはティーンエージャー失踪事件の定石。 やがてマスコミや失踪事件のスペシャリストが動くが時すでに遅し。 その結果に母は、 永遠に行方不明であったほうがよかったと漏らす。

この事件は防げたのだろうか。 少女が無防備だったと言えばそれまでだが、 可愛い娘はガードを固くしなくてはいけない世界もつまらない^ ^ しかもガードする対象は男だけでなく・・ しかしながら可愛い娘には、 こんなこともあると見せておいて損はない内容に違いない。

少女には妹がいて、 私が犯人の妹と友達だったせいだと心を痛める。 父は、 そんなことはないと言って彼女を抱きしめる。 残された家族の絆が強くなったとのテロップで締めくくられるが、 それでも失ったものは永遠に帰って来ない。 言えるのは一つ、 どんな理由であれ、 他人をねたむ人間は警戒したほうがいい。




イン・ハー・スキン IN HER SKIN (2009オーストラリア) 日本未公開 
監督 シモーヌ・ノース 
ミランダ・オットー ガイ・ピアース ケイト・ベル 
ルース・ブラッドリー サム・ニール 

7.23.2011

日常の壊し方 「フェイク・クライム」



おおキアヌ、 久しぶりだなという感じで見たが、 共演はヴェラ・ファーミガだけでなく、 ジャームズ・カーン御大も。タイトルの印象ほどクライムストーリーではなく、 惰性で流れ行く日常をいかに変革するかという考察に富んだ良作ではないだろうか。 高速道路の入り口に座る人、 売れない女優、 刑務所が家のようになってしまった詐欺師、 マルチ商法にハマる人、 借り入れを拒否された銀行の警備員など、 いわゆるルーザーめの人々が主役。

深夜、 高速道路の入り口にあるブースに座るキアヌことヘンリー。 朝、 帰宅すると奥さんが朝食を用意してくれている。 何気なく幸せな日々は、 それでもどこか冷めていた。 そこへ突如、 高校時代の同級生とかいう男が草野球の臨時プレーヤーにとヘンリーを誘い出す。 銀行でカネを下ろすからちょっと待っててくれとクルマを停めさせる。 ふとハンドルの脇を見ると直結されたコード・・

警察もヘンリーが利用されただけということはわかっているが、 かたくなに口を閉ざしているため結局、 懲役3年。 品行方正で刑期満了を待たずして出所するが、 奥さんのお腹には別の男との間の子供がいた。 それでもヘンリーは寡黙に荷物をまとめ、 なぜか足はあの銀行へと向かう。 ここがすべての始まりの場所かと感慨深げに銀行の建物を眺めていると、 クルマに当てられる。 運転していた女が降りてくる。 あのときの警備員も親しげに声をかける。

近くのバーのトイレに禁酒法時代の新聞記事がインテリアとして貼られてあるのだが、 それをよく見ると銀行と劇場はかつて地下トンネルでつながっていたらしい。 劇場では先ほどの女がチェーホフの 「桜の園」 をリハーサル中だった。 無実の銀行強盗で投獄されたわけだが、 どうせならそれを事実にしてやろうと意を決するヘンリー。 刑務所で同室だった男に面会に行く。

ここで微妙に感銘を受けるのは、 いいことであれ悪いことであれ、 ちょっとした出会いをムダにしないヘンリーの態度。 それが停滞していた日常を変えてゆく。 ただのお人好しではなく "変え方を忘れていた、 壊さないと新しいものは作れない" と自覚しての行動だったのだ。 「桜の園」 にも同様のテーマが込められ、 初演の舞台とともに彼らの計画は実行される。 最後まで自分の心に忠実であることが日常というリスクに立ち向かう唯一の手段とばかりに、 打算と保身だけで動かない人間像の取り上げられ方が新鮮に思えた。

ニューヨーク州バッファローという微妙な街を舞台に、 ポスターやビジュアルも地味めながら、 音楽はソウルフルにイカしてて^ ^ 夜中にナイアガラの滝を見に行くデートなども素敵。 乞うご期待。




フェイク・クライム HENRY'S CRIME (2010) 日本公開11/26 公式サイト 
監督 マルコム・ヴェンヴィル  象のロケット 
キアヌ・リーブス ヴェラ・ファーミガ ジェームズ・カーン 
ビル・デューク ダニー・ホック フィッシャー・スティーヴンス

7.20.2011

未経験可 BABYSITTER WANTED



また1本、 恐らくはDVDスルーしそうな、 あるいはスルーもされなさそうな、 とりとめのないホラー作品。 母一人娘一人の家庭から、 娘は大学進学のために母の元を離れ学生寮へ。 バイトでもしなくちゃということで、 ベビーシッターの仕事をゲットするが・・

出だしは そこそこいい雰囲気で、 設定等に新鮮味は少ないものの淡々と見れる。 中盤やや退屈、 しかしまあ盛り返して、 微妙にユーモラスなニュアンスを交えながら、 まずまずのエグさながら力まず65点な作品。 殺人鬼ものかと思いきや、 流行りの悪魔チックな展開で、 面倒を見るべき少年はいつもテンガロンハットをかぶっているのだが、 その帽子の下に隠されていたものや、 冷蔵庫に入った少年用のメニューは生肉なのだが、 ビーフでもポークでもチキンでもラムでも馬刺でもないところなどがポイント^ ^

主演のサラ・トンプソンは それほど美人ではないが、 どことなく綾瀬はるか似で、 イザとなると強そうなところなんかも似てるかも。 もう一歩エッジが立てば面白くなりそうな二人組の監督の、 次回作には期待してみたいが、 これも出世作には違いないだろう。 いつかDVD屋の片隅で見かけましたら、 ぜひ。




ベビーシッター・ウォンテッド(原題) BABYSITTER WANTED (2008) 日本公開未定
監督 ジョナス・バーンズ+マイケル・マナセリ 
サラ・トンプソン マット・ダラス ビル・モーズリイ 
ブルース・トーマス クリステン・ダルトン

7.15.2011

無罪がいちばんヤバい 「リンカーン弁護士」



しばらく更新が滞ってしまったのに、 まめに更新しているときよりアクセスが増えてるのはどういうわけだ。 。 このへんこのへんをご覧いただいているようす。 どこかで話題になってるのかな。 でも本日はそのあたりのホラー作品とは打って変わって、 渋めで小粋な作品^ ^

マシュー・マコノヒー・・ 微妙にファニーで覚えやすい名前、 よく目にするにもかかわらず出演作は目にすることがなかった。 が今回じっくり、 マコノヒーさんを見た。

NTGUILTY = not guilty (無罪) とゴロ合わせしたナンバープレートの運転手付きリンカーンに乗るこの男。 職業、 弁護士。 だが概ね、 ヤバめな仕事で弁護料を踏んだくるヤクザな弁護士。 しかしながら "無罪がいちばんヤバい" と言われるこの世界で、 一抹の正義感だけは失っていないのが彼らしさであるのかもしれない。

コメディなのかと思っていたら、 じゅうぶんにシリアスな展開で、 多少 渋めのテレビドラマを見ている気にもなるが、 まずまずは楽しめる作品ではないだろうか。 マリサ・トメイはこの男の元妻であり検事なのだが、 あまり有効活用されていない。 あくまでマコノヒーさんのクールさが売り。 IMDbでも評判が良く、 思ったより地味ではあったが、 後になって ちょっとしたシーンや彼の表情などがよみがえってきそう。 マコノヒーさんに見習ってガッポリ稼ぎたいものだ^ ^




リンカーン弁護士 THE LINCOLN LAWYER (2011) 日本公開2012.7/14 
監督 ブラッド・ファーマン 原作 マイケル・コナリー  公式サイト 象のロケット
マシュー・マコノヒー マリサ・トメイ ライアン・フィリップ 
ウィリアム・H・メイシー マイケル・ペーニャ ローレンス・メイソン 
キャサリン・メーニッヒ ペル・ジェームズ フランシス・フィッシャー 

7.10.2011

46億年後に地球はなくなります 「冷たい熱帯魚」



梅雨明けの知らせで爽やかな気分のはずが、 ヘンテコなヘッダーグラフィックに替えてしまう^ ^と同時に、 これがリリースされた。 2時間半近くあるわりに、 他の用事を押しのけてでも見てしまう求心力は、 洋画・邦画 問わずたくさんみるなかでも稀なことだ。 面白すぎて何も書けないくらい。 ラスト間近の音楽の使い方がいつものパターンすぎる以外は、 これまた意欲的な園子温節。 "人生は痛いんだよ" というメッセージ以上に "46億年後に地球は終わります" ということのほうにリアリティを感じるかのような不思議な味わい。

ベースとなる実話もすごい話だが、 でんでん演じる熱帯魚屋のオヤジに、 こんなオッサンいる的なリアリティがあふれて、 もう一人の熱帯魚屋の最後の死に顔も見事だし、 素敵すぎて何も書けない^ ^ もちろん誰にでもお薦めするわけにはいかないが、 最近、 何もかも つまらないという人には、 夜中にカキ氷でも食べながら見てはどうかと。 もちろんイチゴでね^ ^ '冷たい' にひっかけてるというよりは、 熱いものでもいい。 ケチャップ系だと、 とくに。 。



冷たい熱帯魚 Cold Fish (2011日本) 公式サイト 象のロケット 
監督 園子温 
吹越満 黒沢あすか 神楽坂恵 梶原ひかり 渡辺哲 でんでん 
冷たい熱帯魚 [Blu-ray][Blu-ray]

悪魔を見た プレミアム・エディション (2枚組) [Blu-ray] スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団 The Ultimate Japan Version [Blu-ray] アンチクライスト [Blu-ray] キラー・インサイド・ミー [Blu-ray] 地獄の黙示録 3Disc コレクターズ・エディション (初回生産限定) [Blu-ray]

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7.04.2011

You have me. 「カンパニー・メン」



ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の 「カンパニー・マン」 (2002) という作品があって、 けっこう面白かった記憶があるが、 あちらは原題が CYPHER (暗号) ということで、 本来タイトルはカブっているわけではない。 こちらはリーマンショック以降のアメリカの事情を取り上げているのだが、 淡々と見れてなかなか面白かった。

不景気のなかで部門整理、 人員整理が行われ、 アフレック演じるボビーは12年勤めた会社に解雇される。 向こう3ヶ月分の給与と再就職のサポートを約束されるが、 家のローンをはじめ家計に暗雲が立ちこめる。 3ヶ月分って多いよね、 自分などが勤めた会社は自己理由でない場合は1ヶ月分だった。

就職サポートセンターみたいなものが出てくるが、 これはハローワークなんかとは少し違って、 自分のデスクと電話が用意され、 そこから就職活動の電話をかけたり受けたりするというもの。 苦難に際してのメンタルなサポートなどもいちおうしてくれる。 元の会社が行う再就職サポートというのは、 推薦状を書いたり、 このセンターの料金を負担するというだけのこと。

最初は余裕のあったボビーだが、 再就職先がみつかりそうになっても給料はかつての半分だったり、 勤務地が変わって引っ越さなければならないなど条件が合わず。 あっという間に3ヶ月が過ぎる。

もう一人、 クリス・クーパー演じるフィルは60才を越えてリストラされる。 会社の温情は、 ボビーと同じ就職サポートセンターに個室を付けてくれた程度。 この年齢での再就職は想像以上に厳しく、 思わぬ結末が待っている。

同社のナンバー2であった男も、 この経緯のなかで、 大学時代からの親友であったCEOと衝突することとなる。 ナンバー2のはかなさがよく出ているし、 トミー・リー・ジョーンズの情けな顔がベストマッチ^ ^

高給取りは会社を追い出されてアイデンティティを失い、 失業していることを隠し、 自分に何ができるのかわからなくなる。 たいていの奥さんはそんなとき冷たい顔をするだけなのだが、 ローズマリー・デウィット演じるボビーの奥さんは根性が座っている。 ボビーのゴルフクラブの会員権をさっさと売り払い、 家まで売ろうと言う。 息子もできた息子で、 注文したX-BOXを返品する^ ^

エントリータイトルの You have me. は、 すべてを失ったボビーに彼女が言う言葉。 "私がいるじゃない" と。 そんな奥さんの兄は大工なのだが、 ボビーは渋々そこで使ってもらうことに承諾するが、 プライドも何もかも捨てヘトヘトになって働くとき、 初めて自分自身の力に気づく。 この大工役がケビン・コスナーで、 頑固そうなオッサンを好演。

ナンバー2はナンバー2であることをやめ、 叩き上げの頃を思い出すかのように、 時代遅れと言われる事業を買い取って立て直すことを決意。 ところどころで出てくるアメフトのボールは、 古き良き時代を象徴してるのだろうか。 浮ついた経済の表層だけでなく、 自分の力で稼ぐことの難しさと意味を問いかけるような視点に映画らしさを感じた。 良作、 乞うご期待!




カンパニー・メン THE COMPANY MEN (2010) 日本公開2011.9/23~ 公式サイト
監督 ジョン・ウェルズ  象のロケット 
ベン・アフレック ケビン・コスナー トミー・リー・ジョーンズ 
クリス・クーパー マリア・ベロ ローズマリー・デウィット