1.31.2010

250ドルで喜ぶ被験者 「実験室 KR-13」



かつてCIAが行ったマインドコントロール実験 "MKウルトラ"・・ 証拠は隠滅されているので詳細は不明ながら、 そういう事実はあったそうで、 この映画では911以降のテロ対策として、 それが復活しているのではないかという。 アメリカが密かに、 自爆テロに対抗する人間爆弾を作っているというのだ。

去年11月に日本公開され、 2ヶ月少々でDVD化。 早い^ ^ この傾向は大歓迎! サンダンスでの話題作だったそうで、 何だかんだ言って うちはサンダンスびいきだな。 "THE RUNAWAYS" もサンダンスでプレミア招待上映ががあったらしいし。

ちなみにサンダンス映画祭とは、 ロバート・レッドフォードが自身の出演作 「明日に向って撃て!」 (1969) での役名である "サンダンス・キッド" を冠にして '78年より毎年1月にユタ州で開催されている映画祭で、 ハリウッド大手作品とは一味もふた味も違う映画が集まってくるインディペンデント系の映画商取引の場でもある。

ジム・ジャームッシュタランティーノもサンダンスを足がかりにしているし、 その他 蒼々たる受賞歴。 受賞はせずとも出品作を挙げれば、 あれもか、 これもかという感じで、 こんな映画祭は他にはちょっとない。 » サンダンス関連記事

この作品は 「ソウ」 以降のシチュエーション・スリラーの1本に見えて何となく鮮度には欠けるものの、 良くも悪くもインディペンデントな吸引力に満ちて、 最後までさくさくっと見れる。

製薬会社の治験のバイトを装って集められた4人は、 8時間の拘束で250ドルの報酬と聞いてラッキーと思っている。 ところが目の前で一人の被験者がいきなり殺される。 最初はドッキリカメラだろと言いながらも取り乱し、 やがては一人ずつ、 この洗脳実験の犠牲となってゆく。 実験室を見下ろすブースでは研究者が、 20人に一人いると言われる従順な人間爆弾候補を選別してゆく。

250ドルでこんな目に合うのはイヤだが、 治験に集まってくるのはアメリカ生まれでないアメリカ人で、 彼らを愛国者として死にゆく兵器に作り替えるわけだ。 選別の過程ではクイズが出されるのだが、 その内容は "アメリカ人が一番好きな数字は" とか "アメリカ人の知能指数の平均は世界で何位か" などチクチクと皮肉が効いている。 正解は出て来ないが、 ヒントによると知能指数は10位圏外だそうだ^ ^


実験室 KR-13 The Killing Room (2009) 公式サイト 
監督 ジョナサン・リーベスマン 
ニック・キャノン シェー・ウィガム ティモシー・ハットン 
クレア・デュヴァル クロエ・セヴィニー ピーター・ストーメア 
実験室KR-13 [DVD][DVD]

 ホースメン [DVD] マーターズ [DVD] ディセント2 [DVD] エスター [DVD] ソウ6 アンレイテッド・エディション [DVD]

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1.30.2010

クリエイティブな冒険者 「THIS IS IT」



早くDVDになったね。 通常は公開から半年のところ、 3ヶ月。 鮮度の高いうちに出した方が売上げに貢献するとの腹だろうが、 それはそれでけっこう。 マイケルだけの特例にせずに、 どんな作品もこれくらいのタイミングで出そうよ。

作品自体はリハーサル記録の編集でしかないし、 ステージの興奮を求めてもしかたない。 だがマイケルのダンスや歌のレベルの高さをあらためて知ったし、 音楽のブレークから次のタイミングまでの ほとんどすべてのキューを出しているのもマイケルだったなんて驚き。 そこは厳しい舞台監督のようにハッキリと指示を出すが "怒ってるんじゃない 愛だ" なんてスタッフに対してフォローを入れるあたりが可愛い。

"スリラー" や "ビリー・ジーン" などのヒットが何年前になるのかは調べてないが、 それらの曲が中心となる。 ファンが聴きたいを曲をやるのだと語り、 非日常を求めてくる観客にクリエイティブな冒険を届けるのだと言う。 マイケルのような人でもファンのニーズが最優先であり、 というか、 そうだったからこその人気なのだと気づく。 独りよがりで突っ走るようなタイプとは正反対なのだ。

残念ながらマイケル・ジャクソンについてはあまり詳しくなく、 どちらかというとジャネット・ジャクソンのCDを買ったことがあるくらいで。 しかし こうして見せられると、 やはり惜しい人をなくしたのだと思わずにはいられない。 世界中から集められた一流のダンサーやミュージシャンたちはみなマイケルのファンでもあり、 いっしょにステージに立てることを楽しみながらの仕事。 だが本番が始まる前に彼がこの世からいなくなってしまうと誰が想像しただろうか。 人間、 先のことはほんとにわからないものだ。

ステージにはアイディアを凝らした仕掛けが用意され、 3D映像なども使用される。 亡くなったからといって注目するのはどうかと思うが、 チケットが売り切れていたとしても本番を見てみたいと思った。 それはどんなに高値を出しても永遠にかなわぬこととなり "4年で地球を再生するんだ" とのマイケルからのメッセージだけが残される。 エコのアピールとは少し平凡だなと思わなくもないが、 4年という設定はへんに現実味がある。 これを受け継ぐ人は出てくるのだろうか。

マイケル・ジャクソン THIS IS IT (2009) 公式サイト 象のロケット 
監督 ケニー・オルテガ 

1.29.2010

"THE RUNAWAYS" ついに全米4月



ついに完成し、 全米で4月に公開されることが決まったもよう。 ジョーン・ジェットもチェリー・カリーも似てる! うわぁ、 待ちきれないな〜^ ^ ひとっ飛び見てくるか。 。



若い人は知らなくて当然、 でもオジサンらの世代には非常に懐かしいアイテムなのだ。 "家出少女" という名のギャルバンドの、 まさに走り。 セックスピストルズなどと同様に多分に作られた偶像バンドだから内幕はさまざまなことがあったようで、 いまさらにしてそのへんに迫る映画ができたことに不思議な感慨を抱く。 上の写真は左がオリジナル、 右が今回の映画のジョーンとチェリーで、 配役はクリステン・スチュワートダコタ・ファニング。 この '作り込み' にも感慨ひとしお^ ^ ちなみにドラムのサンディーさん (左・中央) はすでに他界されている。 ああ、 あの頃からいったい何年経ったのだろう・・  *現時点での関連記事 » THE RUNAWAYS

追記
1月にサンダンスでプレミアがあり、 カナダだけなぜか先行して3/14、 全米一般公開は4/9からとのこと。 YouTubeにはさらにいくつかクリップが上がっているようす。 ベタベタっと貼ると少しは見た気分になれるかな。 。

追記 6/15
見たよ! ついに見た!!! くわしくはこのエントリーで。

追記12/10 来年3月に公開決定! めでたしめでたし・・ でも1年遅れか^ ^




ダコタは本当に歌っているそうで、 ギターなども実際に弾いているらしい。


こちら本物。 こうして聴いてみるとテンポは意外に遅く、 でもさすがにドスが効いているね^ ^


サンダンスでの舞台挨拶。 ジョーン・ジェット&チェリー・カリー本人も参上、 意外に仲が良さそう^ ^ 映画ではベーシストが架空の人物となっているらしいが、 ジャッキー・フォックスが映画化を拒否したからとのことで、 ジョーンとチェリーにフォーカスしたのは当然ながら、 それでも紆余曲折あった気配。 彼女たちを演じたクリステン&ダコタへの、 あるいは二人からジョーン、 チェリーへのリスペクトは映画の出来を期待させる。 少し長いが時間があればどうぞ。 (PART 1 to 3)



こちら監督さん。 楽しみな映画をありがとう!

1.28.2010

まっ赤に燃えた太陽だから 「デイブレイカー」



トワイライト」 効果で微妙に流行りつつあるヴァンパイア。 一部で話題の本作は、 古典である吸血鬼を一種の感染症として近未来にハメ込んだSFホラー。

奇病が流行りだして10年、 ほとんどの人類はヴァンパイアへと変わり、 地球はヴァンパイアの星となった。 彼らは人間をエサとして家畜のように扱うが、 純粋な人類はすでに全人口の5%となり食糧危機は深刻だった。 。 人工の代替血液に大きな期待がかけられたが研究成果は芳しくなく、 現在も血は高値で売買され、 血にありつけないヴァンパイアは共食いで飢えを満たした。

だが共食いを行った者は "餓鬼" のような醜い姿になり、 支配階級の商売にも不都合なので共食いは法的に禁止された。 もしかしたら感染症をばらまいたのも金儲けのためだったのかもしれない。 だが彼らは太陽を拝めない体になった。 昼間はもっぱら地下道を歩き、 クルマにはデイ走向モードが装備され、 太陽光を完全遮断してモニターだけを見て走るのが当たり前になる。

真実は太陽のようだ 隠すことはできても なくすことはできない

唐突にエルビス・プレスリーの言葉が引用されるが、 セリフやアイディア、 映像表現に凝る監督がまた一人、 というか兄弟なので二人現れたもよう。 本編にも兄弟の機微が取り入れられている。

人間をハントし血液を採取して供給する会社のCEOにダミアンこと^ ^サム・ニール。 血はワインのように飲まれ、 血液10%入りのコーヒー飲料なども売られていたりする。 だが会社の次期主力製品は代替血液で、 その研究者がイーサン・ホーク。 だが彼はこの状況を決して歓迎しているわけではなく、 ヴァンパイアを人類の進化などとは考えなかった。 残った人類の中にもレジスタンスのようなグループがあり、 彼らには秘策があった。 彼らは協力者として、 この研究者にコンタクトを図る。

イーサン・ホークの弟は会社のハント部門にいて、 人間を狩るのが仕事。 兄はレジスタンスの接触から、 代替血液より有効な解決策 "治療法" を手にするが、 それを会社が許すはずはなかった。 ダミアンは弟を差し向ける。

食糧危機なんて懐かしいSFテーマで 「ソイレント・グリーン」 を思い出したりするが、 危機に瀕しているのは人類ではなくヴァンパイアで、 人類は逆に食料^ ^ 二重の逆転の発想というか、 面白いような あり得ないような^ ^

共食いでモンスター化したヴァンパイアはあまり恐くはないが、 意外なところでカーチェイスに凝っていたりする。 ややアホな発想を大まじめに作り込んで、 端々にSFオタクっぽいこだわりが感じられるヘンな映画だが、 やっぱりDVDスルーで終わってしまうのかな。 。 UVボウガンを持つ女レジスタンス クローディア・カーヴァンがけっこういいし、 「トランスフォーマー リベンジ」 などのイザベル・ルーカスも注目。

(追記) DVDスルーで終わりませんでした^ ^ 公開決定!





デイブレイカー Daybreakers (2009) 日本公開11/27 公式サイト 
監督 スピエリッグ兄弟  象のロケット 
イーサン・ホーク ウィレム・デフォー クローディア・カーヴァン 
イザベル・ルーカス マイケル・ドーマン サム・ニール 
デイブレイカー [DVD][DVD]

スプライス [DVD] バレッツ [DVD] ネスト [DVD] クレイジーズ [DVD] グリーン・ホーネット [DVD]

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1.26.2010

ミシシッピの母 「しあわせの隠れ場所」



昨日はラグビーだったが、 何の因果か今日はアメフト。 ホームレスの少年がNFLにドラフト指名されるまでの物語で、 実話だそうだ。 それほど古い話ではなく、 場所はミシシッピ。 いかにもな南部ではないが、 やはり南部的なスピリットが根底に流れる作品と言える。

サンドラ・ブロックが演じるのは、 ホームレスの黒人少年を家族として迎え入れ、 二人の実子とともに学校へやり、 才能の開花に尽力する慈愛あふれる女性なのだが、 そこには何の欺瞞も、 裕福な家庭の自己満足もなく、 そのような勘ぐりをする人たちを なぎ倒すパワフルさに満ちている。 元チアリーダーで今も派手めの化粧、 たむろするギャングをもろともしない。 それもそのはず全米ライフル協会会員で共和党員、 そして敬虔なクリスチャンなのだ^ ^ エンディングには本人のスナップも挿入されているが、 サンドラほど美人ではないにせよ、 いま見たキャラの人なんだなという感じ。

ビッグ・マイケルと呼ばれる少年は、 見るからにスポーツに向いてそうな体格だったが、 決してアグレッシブな性格ではなく、 保護本能98パーセンタイル。 そんな指標があるなんて初めて知ったが、 大切な者を守るときに能力を最大化するのだ。 だからクォーターバックではなく、 レフトタックル。 QBのブラインドサイド(死角)をガードする役が天職だった。

高校への転入時は知恵遅れかと思われたが、 識字に問題があっただけで頭が悪いわけではなかった。 卒業時には奨学金取得の基準成績も見事クリアする。 もちろん、 そのために家庭教師をつけてもらったり、 さまざまな回りのサポートがあるわけだが、 環境が人を育てるのだということをあらためて思い知らされる。 家庭教師役がキャシー・ベイツで、 ハッチャキ母さんから "初めて見た" と言われる唯一の民主党員。

肝っ玉母さんがこのような慈善事業を始めた際も、 実の娘や息子は不平を言うどころか、 むしろ積極的にこの事業に関与し、 学校で友達にからかわれようが もろともせず。 教育が行き届いているというか根性が座っているというのか、 話はサスペンス物のように紆余曲折しない。 元バスケットボール・プレイヤーの夫もまさに良き理解者。 南部だからこそよけいに奇想天外なのだろうと思われる彼らの行為も、 美談というよりは心からのハグ、 それだけで突き進める人を育てる環境もまた南部なのだろう。

ハグというのは抱きしめることだが、 エッチなニュアンスのないこの '抱き' に対応する日本語が見当たらないのは残念。 それでも、 何とも愛おしくて抱きしめたい瞬間というのはあるのだと思う。 そんな気持ちを確認したい人には素敵な鑑賞のできる映画だ。 2月下旬ロードショー。 ちなみに本を読んでもらったことのなかった少年に読んであげるのは "かいじゅうたちのいるところ"。


しあわせの隠れ場所 The Blind Side (2009) 2/27〜 公式サイト&予告 
監督 ジョン・リー・ハンコック 原作 マイケル・ルイス  象のロケット 
サンドラ・ブロック ティム・マッグロウ クィントン・アーロン 
キャシー・ベイツ ジェイ・ヘッド リリー・コリンズ 

1.25.2010

魂のキャプテン 「インビクタス」



ネルソン・ロリハラハラ・マンデラ・・ 敬意を表してミドルネームも表記してみた^ ^ そして70にして なお "征服されざる" 多作男イーストウッド。 今回はモーガン・フリーマン製作総指揮、 自ら主演のもと、 再び素晴らしい映画を届けてくれた。

南アフリカの話と聞いて、 アパルトヘイトはすでに過去のようにも思え、 また唐突にそっちに行くのだなと思ったが、 物語はマンデラの大統領就任から始まる。 予想に反して社会派には行かず、 スポーツへと話は展開する。 しかし これこそが、 マンデラという人を語るには最良の物語だったのだ。

アパルトヘイト反対を唱えたことで国家反逆罪として27年間 投獄される。 にもかかわらず解放されてすぐ、 投獄した者を許す。 多忙な国務の合間にラグビーを観戦、 解体が叫ばれる自国の弱いチームに肩入れをする。 このラグビーチームのキャプテンがデイモンだが、 黒人の大統領が誕生し、 白人の自分は追い出されるのだろうと思っていた彼は、 マンデラの次の言葉により、 それはとんでもない誤解だったと悟る。

We must exceed our own expectation.

自分が思う以上の自分になれ、 というようなニュアンスだろう。 そのためにはインスピレーションが大事なのだよ、 と よくわからないことを言っては、 1年後 自国で開催されるラグビー・ワールドカップでの善戦を引き出そうとする。 本来であれば予選落ちのチームに、 これほどまでに多大な期待をかけてくる。 27年間の苦難を乗り越えてきた人の、 希望を見る力、 それは確かにキャプテンの心に伝搬した。

この国は変わる、 だから俺たちも変わるんだとチームにハッパをかけ、 実際に快進撃を始める。 最低だったチームが生まれ変わり、 準決勝、 決勝へと進む。 テレビ中継を見守る人々は変化を肌で感じる。 貧しいスラムの子供はパトカーのラジオを盗み聞きしながらも、 いつしか警官と抱き合って勝利を喜ぶ。 これこそがマンデラが狙っていたものだったのだ。 しかし政治的手腕と言うよりは、 国際会議の席でもゲームの勝敗が気になる、 人間マンデラの姿がそこにはあった。

アメフトやサッカー、 野球はあっても、 ラグビーの映画は珍しかったし、 イーストウッド演出は これまた力強いスクラムのシーンを見せてくれる。 気負いや空回りのない、 ストレートかつ、 インスピレーションのある映画だ。 マンデラがヘリコプターでグランドに降り立つシーンにかかる音楽のせいで、 一瞬70年代の香りがしたり、 いかにも この役がやりたかった、 という顔のフリーマン。 2時間10分も短く思えた。

ネルソンとキャプテンの関係を軸にしながら もう一方、 マンデラのセキュリティを務めるスタッフにもスポットが当たる。 最初は慣れない黒人と白人の混成チームが、 やがては信頼でつながるようになる。 映画は一言で言えばリーダー論、 いま変化のときであるこの国で、 果たしてどのような反響が生まれるだろうか。

最後にもう一つ、 素敵なセリフを。 "どんなにつらい事態でも 私の魂が征服されることはなかったことを神に感謝する。 私こそは、 私の運命の主であり、 私の魂のキャプテンなのだ。"


インビクタス 負けざる者たち Invictus (2009) 2/5〜 公式サイト&予告
監督 クリント・イーストウッド 原作 ジョン・カーリン  象のロケット 
モーガン・フリーマン (製作総指揮 兼) マット・デイモン