1.29.2013

試験管ファミリー “Jesus Henry Christ”



典型的な‘ア邦題'になってスルーされている本作は、 ア邦題がバラしている通り、 ようするにファミリーものではある。 しかしある種、 呪われた家族、 あるいは家族というものが、 そもそもある種の呪縛によって成り立っていることを斬新な切り口? によって描く愛の物語なのだから、 こんなセンスのないタイトルに変えてしまった時点で、 売る気ないんだなあ、 である。 ていうか、 コメントするのもアホらしい。 せめてジーザス 'ヘンリー' クライスト スーパースターぐらいにしてほしかったが、 いかりや長介さんも草葉の陰から“ダメだコリャ"と言ってることだろう。 。

ヘンリーは試験管ベビー。 しかしIQは300を超えているので、 物事を写真のように記憶しているというより、 動画のように記憶しているらしい。 特別であることは言い換えればフリークであり、 トラブルつづきで幼稚園を退学? 次に入ったミッションスクールでは "神はいない" と説いてまた退学、 10歳にして奨学金+給付金つきで大学へ。

母の母は、 母が10歳の誕生日に死に、 それから四人の兄が次々とアルバムから消える。 母の父は、 自分を弾丸から守ってくれた黄金のZippoのライターを息子に継がせたかったと嘆く。 母は、 自分が失敗によって生まれた歳の離れた末っ子であることを苦にし、 反骨的な生き方を選ぶ。

やがてヘンリーは生物学上の父を探し当てる。 父は大学教授だったが苦悩をかかえていた。腹違いの姉にも出会う。 姉もまた学校では浮いていた。奇しくも一同に会した生物学上の家族は、 不思議とお互いを尊重しあえる本当の家族のようにも見え、 片や黒人の子を養子に持つ親ともケンカをしながら理解しあい、 成長不安をかかえる神童たちは、 それでも後の世界をよくすることが使命であるとの結論を出して、 自分から変革を起こすことを選ぶ。

ジュリア・ロバーツが製作総指揮を努めると知ることで、 へえ、 そうなんだと改めて劇中の母と重ねあわせる。 いずれにしてもなかなか面白い作品なのに、 このブログで取り上げられる程度で終わるのはもったいない。 原題のセンスにピンと来た人は手に取ってやってほしい^ ^



ヘンリー・アンド・ザ・ファミリー Jesus Henry Christ (2011) 日本未公開 
監督 デニス・リー 製作総指揮 ジュリア・ロバーツ 
マイケル・シーン トニー・コレット フランク・ムーア 
ジェイソン・スペヴァック サマンサ・ワインスタイン 

1.26.2013

誰かを想う “YOU and I ”



アメリカとロシアの合作で、 劇中でもアメリカ人とロシア人の友情が描かれる。 二人が好きな t.A.T.u. (そう言えば、 いたな。 すでに懐かしい) が彼女たちを結びつける。 やや外れた感じの作品でレビューも少ないが、 つっこみどころ満載だろうと見てみた。

しかし意外に真面目な作品で、 十代のシリアスな感情が自分にもほんの何ミリグラムか残っていたのだろうか、 幼稚な映画と切って捨てられないところがある。

彼女たちのシリアスさは、 生まれた町が嫌い、 義母が嫌い、 自分は特別、 でも何もできない、 そんな平凡なところに根ざしているが、 いまだにこれを笑い飛ばせない。 若さにまかせて突進し、 砕け、 感情を持て余す。 それでも最後に残された真実だけは裏切れない。 こういう人種はもう古風なんだろうかね。

家を出て、 帰る場所もなく、 あちこち泊まり歩いて、 有名カメラマンには "モデル? その大陸並みのヒップを自分で見たことがあるの?" と鼻であしらわれ、 誤解、 寂しさ、 自己嫌悪。 プランAもプランBも上手くいかず。 しかしやがて、 二人を結びつけた t.A.T.u.のマネージャに詞と曲を見出される。

その詞と曲が、 それほどかな? と思うところで少し冷めるが、 まともな大人が出てくることで救われるのは、 十代でこの映画を見たならどう感じただろう。 エントリータイトルはミーシャ・バートン演じるラナがスカジャンの背中に入れる刺繍 "LOVE ONE ANOTHER" より。 あの頃の気持ちを何ミリグラムか取り戻せる、 それほど悪くない作品だった。



YOU and I (2011アメリカ・ロシア) 日本未公開 
監督 ローランド・ジョフィ 
ミーシャ・バートン シャンテル・ヴァンサンテン ヘレナ・マットソン 
アントン・イェルチン アレクサンダー・カルジスキー 
チャーリー・クリード・マイルズ ブロンソン・ピンチョット t.A.T.u. 

1.25.2013

メアリーさん執刀 American Mary



カナダ映画というと一線落ちしたイメージを持ってしまっていたが、 強烈なものが現れた。 なぜかアメリカンという言葉を冠して。 監督は劇中にも登場するツイン・シスターズで、 単純にホラーと言ってしまえない感覚を散りばめる。

メアリー・メイソンは外科医の卵。 素行は悪いが心は清く、 そして腕がよかった。 金が入り用になり、 バイトにと飛び込んだストリップ小屋で、 いきなり実習が待ち受ける。 そのキモの座った手術っぷりが評価され、 スプリットタンを始めさまざまな人体改造から性転換まで、 裏手術の依頼があまた舞い込む。

しかし大学のエロ教授に誘われたパーティでクスリを飲まされ、 レイプビデオを撮影される。 彼女に魅了されるストリップ小屋の面々に頼んでこのエロ教授を拉致、 講義の習得ぶりをたっぷりと披露する。

ストーリーはざっとそんな感じだが、 アングラなディテールと微妙なコミカルさで 'こわいもの見たさ' を満喫させてくれる。 ヒロイン キャサリン・イザベルのキュートなSっぷりもいい。 しいて言えばエンディングにもう少し凝ってほしかった気もするが、 今後、 一部で話題となるであろうカルトな魅力を持った作品。 日本公開は完全未定、 乞うご期待。




アメリカン・ドクターX American Mary (2012カナダ) 日本公開未定 
脚本・監督 ジェン&シルヴィア・ソスカ 
キャサリン・イザベル アントニオ・クーポ デビッド・ロブグレン 

1.24.2013

25歳の発病 MIDNIGHT SON



IMDbでは評は少ないながら gem などと表現されている。 昨今のバンパイアブームに乗ってきたというより、 現代に吸血鬼がいるとしたら、 という着想をリアルに攻めて独自の地平にたどり着いた感じ。 男は25歳を目前に、 さなぎが蝶に変わるように、 あるいは潜伏していた病気が発症するかのようにバンパイアとなる。

その '真夜中の息子' は子どもの頃から日光に弱く、 今は夜勤の仕事をしている。 半地下になった部屋では太陽の絵ばかりを描いている。 そしてなぜだか近頃、 お腹がすいてしようがない。 何を食べても空腹は満たされない。 ふとスーパーの発泡スチロールのトレーに残された、 ステーキ肉がこぼした血を飲む。 すると何だ、 この満足感は。

近くで殺人事件があった。 記憶が空白となっているその時間を夢のように思い出す。 横流しで手に入れた輸血パックをジュースのようにすする。 バーでタバコを売っていた女と話し込む。 部屋で男の絵を見た彼女は魅了される。 紹介料にも魅了されてギャラリーに紹介してくれる。 輸血パックを調達してくれる男と争いになる。 自分が予想もしなかった怪力で男を投げ飛ばしてしまう。

また記憶が曖昧になっているので、 殺してしまったのでは、 と考えていると男が姿を現す。 太陽に焼かれた傷跡を見せつけて。 彼女が銃で撃たれる。 衝動にかられ傷口から弾丸を吸い出すが、 そのとき彼女もこちら側の者となる。 殺人事件を追う刑事が部屋にやってくる。 空腹を訴える彼女、 開かれる扉。 そのとき二人は生き方を決める。

こうして書いてしまうとネタバレではあるが、 十字架やニンニクは除外してあるものの、 いわゆるバンパイア物語を追っているに過ぎない。 しかしリアルとロマンが微妙なラインで交錯する独特の雰囲気は見ないとわからない。 "珠玉の" というには血なまぐさいが、 確かに gem な後味を残してくれる。 例によって日本公開未定、 乞うご期待。




MIDNIGHT SON (2011) 日本公開未定
監督 スコット・リバーチェ 
ザック・キルバーグ マヤ・パリッシュ ジョー・D・ジョンズ ラリー・セダー 
Midnight Son (Blu-Ray) [Import]輸入版 (Blu-Ray) [Import]
Midnight Son

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1.21.2013

警官の日常を擬似体験 「エンド・オブ・ウォッチ」



POVあるいはフェイクドキュメンタリータッチで警官の一日を追ったら・・ というのがコンセプトだろうか。 この手法がまた新たな可能性を見出した、 といったところだが、 全体を通して手持ちカメラではあるが完全なPOVではない。 また一日で片付かず、 数日あるいは数週間か。 この間に相棒が結婚式を挙げたりもするが、 最後はメキシコ系のギャングに狙い撃ちされる。

完全なPOVではないものの、 警官がいかに危険な職業かがよくわかる。 ましてやLAPDのなかでも危険な地区での二人の若い警官の日常。 次から次へと入る無線連絡のなかから、 できるだけ軽そうな仕事を選んで現場へ向かうと、 ちょっとしたトラブルのはずが、 人身売買の巣窟や麻薬カルテルを当ててしまう^ ^

危険なものを当ててしまったな、 ヘビはつかむと噛まれるぞ、 というベテランの忠告にも対処のしようがなく、 手柄は手柄。 また別件の火事では消防士の到着を待たず子どもを救出して表彰される。 それでも事件は次々に発生し、 AKを持った待ち伏せに気づかず・・。 危険な日常と二人の軽い会話が緩急のコントラストを作りながら、 物語は予定された悲劇へ向かう。




エンド・オブ・ウォッチ End of Watch(2012) 日本公開未定 
監督 デビッド・エアー 
ジェイク・ギレンホール マイケル・ペーニャ アナ・ケンドリック 
デビッド・ハーバー フランク・グリロ Diamonique モーリス・コンプト 

1.20.2013

アメリカン・カンカンボーイ 「きっと ここが帰る場所」



前作ではカンヌで審査員賞も取っているらしいが、 ノーチェックの監督だった。 本作も去年公開されているというのにDVDになって知った。 巡り合わせの悪いラインがあるようだ。 それはさておき、 なかなかの力作で "何かがおかしい" 感じはするものの面白かった。

何かがおかしい、 とは劇中の主人公の口癖だが、 自分が感じたのは、 このグラムロックのなれの果てのようなキャラ、 しかもそれをショーン・ペン? さらに今どきデビッド・バーンの登場と主題歌。 舞台はアイルランドからアメリカへ移りロードムービーとなるのだが、 アメリカ資本は入っていない。 言わばヴィム・ヴェンダースのような外側からのロック・ヒストリーがあるせいだろう。 日本における洋楽の摂取のしかたがアメリカやイギリス本国での捉えられ方と多少、 あるいは大きく違うように。

それはさておき、 まったくの予備知識なしに見たので、 読めない展開に引き込まれ、 まさかナチの残党狩りになろうとは予想もせず、 しかもそれがロードムービーで、 老いたポップスターの人間的成長と重ねあわせられているとは少なからずショックを受けた。 そこではタバコがまだ大人っぽくカッコいいものであり、 CISCOの株を持っているうちは死ねないのだ^ ^

アメリカの田舎町のダイナーも、 どこか旅行者の視点があって旅行してきた気分にさせられるが、 しいて言えば街々でのエピソードをさっと捨ててしまうもったいなさがある。 タイトルも予定調和的すぎて、 総じてオフトレンドな雰囲気とともに見落とされがちな映画となっている。 マイペースでコマーシャリズムに欠けるのだろう。

前作のカンヌでの審査委員長がショーン・ペンで、 監督とはそのときからのつきあいとのこと。 審査員をしながら営業もするペンではあるが、 ここでの抑えめな演技は美輪明宏っぽくあるものの印象的だった^ ^



きっと ここが帰る場所 (2011イタリア・フランス・アイルランド)
THIS MUST BE THE PLACE 日本公開2012.6 公式サイト 象のロケット 
脚本・監督 パオロ・ソレンティーノ 
ショーン・ペン フランシス・マクドーマンド ジャド・ハーシュ 
イヴ・ヒューソン ケリー・コンドン ジョイス・ヴァン・パタン 
ハリー・ディーン・スタントン デビッド・バーン