8.31.2009

父と娘の原風景 「女の子ものがたり」



邦画の場合、 面白そうだと思うと、 原作は漫画であることの多い昨今、 オリジナル脚本で素晴らしいものが出て来ないのは残念だが、 西原理恵子原作、 阪本順治監督の 「ぼくんち」 もよかった。

本作の監督の 「子猫の涙 ラストファイト」 もタイトルに似合わずグッと来る映画だったが、 これもやはり何か所か、 かなり来た。

原作者も監督もようするに、 みんな昭和の人なんだね。 だから、 ここにあるのは昭和の原風景。 何丁目かの夕日のように美化されていない昭和。 こうして見ると '都市型' の自分でも共感できるのだから、 あの頃は都会も田舎も言うほど差がなかったのかもしれない。 演じる平成生まれの女の子たちは、 意外にビンボーな格好が似合い、 淡々と素晴らしい演技をする。 深津絵里より実は、 高校生の3人が主演と言ってもいいだろう。

"女の子ものがたり" というタイトルは本当のところ言い得て妙なのだ。 むしろ "ふるさと" とか "ともだち" のほうが的確だと思うが、 それでは評判にならなかっただろうし、 あのマークを思い出してしまうかもしれない。 女の子同士の友情が描かれているが、 本当の友情に性別はないに違いない。

懐かしくも おぞましい高度成長末期の日本。 あんな時代にけっして戻りたいとは思わないが、 では今、 そんなものを思い出す必要もない素晴らしい何かがあるかと言えば、 あるとは言い切れないところが、 こうして昭和の原風景を彷徨う映画や漫画や小説があふれる原因なのだろう。

21世紀は本当に来たのか? あの頃夢見た未来が、 ようやく政権交代が実現する程度の社会だったなんて、 冗談にもほどがあるではないか。 板尾演じる父が言う。 "お前は どこか違う。 人と違う人生が送れるかもしれないぞ" 義父ながらも悪い男ではないが、 そんな父もタバコを買いに行くと言って出たきり戻らず。 そう言えば 一時期しきりに言われた "個性" という言葉も最近は聞かなくなった気がする。

そしてここにも、 過去を振り返るが未来を生み出す力は枯れてしまった現在がある。 今の子供たちは、 これを原風景として育つことだけは間違いがないのだ。 ああ重くなってしまったな、 真面目なことを語るつもりはなかったのに。 。 あなたの中の昭和を総括したい人、 必見・・ かな^ ^



女の子ものがたり (2009日本) 8/29〜 
監督 森岡利行 原作 西原理恵子  公式サイト&予告 
深津絵里 大後寿々花 波瑠 高山侑子 福士誠治 
板尾創路 風吹ジュン 奥貫薫 
女の子ものがたり [DVD][DVD]

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8.30.2009

いけな。 「ハルフウェイ」



"道の途中" (ハーフウェイ) をハルフウェイと言ってしまう女の子ヒロ、 このコを可愛いと思えるかどうかで自ずと感想も変わってくることだろう。 こういうコは確かにいる。 昔からいるけど、 あえて取り上げるほどのキャラかな。 。

テレビドラマ 「ロンバケ」 などの脚本で知られる北川悦吏子が初監督、 プロデュースは岩井俊二と聞くとある程度想像はつくが、 想像した通りの雰囲気。 脚本も北川だが、 場面設定だけをして出演者に勝手にしゃべらせ、 勝手に演じさせたとのこと。 マイク・リーのような手法ながら、 なぜか結果は正反対に出ている気がする。 マイク・リーの場合はリアリティを追求するのに対し、 本作では演技者あるいは監督らのファンタジーが色濃く現れているように思う。 どこかのレビューでは "文化祭の自主映画よりヒドイ" と書かれているが、 意外に正解ではなかったか。 通常の手法を取っても、 この企画、 この条件でこれ以上の作品になったとは思えないから。

しかしこの人らも好きだなあ、 高校三年、 東京の大学を受験、 好きだけど離れたくない、 離れたら東京で彼女つくっちゃうでしょ、 試験が終わるまで会うのよそう、 電話もダメ、 逆に勉強が手につかない・・ 的な話が。 。 自分にそういう甘酸っぱい思い出がないせいか、 せめてもう少し張り詰めた冬の空気感がほしかった。 北海道ならなおさら。

書道の先生? よくわからない役で出演の大沢たかおだが、 ヒロの相談に乗るシーンではそれなりにいい味を出してる。 今の気持ちを書いてみろと言われてヒロは "いけ" 半分、 "いくな" 半分で "いけな" と書いてしまう。 このあたりは役者のアドリブではないだろうと推測するが、 さすがに上手い・・ かな。

エンディングはまだ合否がわかる前のタイミングだろうか、 まったりとオチャラケた雰囲気で唐突に終わる。 はたして彼は東京に行ってもヒロを忘れないだろうか。 そもそも、 彼は自分からコクったものとして話は進んでいくが、 実はヒロが先に気持ちをバラしている。 つまりコクられたのは男のほうで、 コクられた場合は上手く行かないと、 自分のわずかばかりの経験則から苦い予感を感じたが、 苦さが広がる寸前の絶妙のタイミングで場面は切られた。


ハルフウェイ (2009日本) 公式サイト&予告編 
脚本・監督 北川悦吏子 製作 岩井俊二 音楽 小林武史 
北乃きい 岡田将生 溝端淳平 仲里依紗 成宮寛貴 白石美帆 大沢たかお 
ハルフウェイ [DVD][DVD]

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8.27.2009

産んでほしかった・・ 「呪怨 黒い少女」



写真の厄除け札は何と書いてあるのだろう。 。 「呪怨 白い老女」 からやや遅れてのDVDリリース。 "呪いつづけて" "怨みつづけて、 10周年。" と対句コピーとなっている^ ^

監督のことは詳しく知らないが、 こちらはあまり呪怨っぽくはない。 しかしながら除霊のシーンをはじめ、 ややコミカル、 特殊メイク寄り、 ややショック系な味わいで楽しめる。 "仮面ライダーキバ" のワタル君も出てるね。 クレジットには朝岡実嶺とあった気がしたが、 詳細は未確認。

キャスト陣はシリアスな顔で演技しながらも、 どこか笑いをこらえてる感じがした。 意外に楽しい撮影現場だったのかもしれない。


呪怨 黒い少女 (2009日本) 公式サイト 
監督 安里麻里 原案・監修 清水崇 
加護亜依 瀬戸康史 中村ゆり 高樹マリア 勝村政信 
呪怨 黒い少女 [DVD][DVD]

 呪怨 白い老女 [DVD] 呪怨 ザ・グラッジ3 [DVD] ひとりかくれんぼ 劇場版 [DVD] テケテケ 1&2 デラックス版 [DVD] 呪怨 [DVD]

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ひらめきは雨の中に 「幸せのきずな」



ありきたりな邦題がついてDVDスルーになるそうだが、 これはいい映画だ。 原題は "天才のひらめき"、 巨大な自動車会社 対 発明家個人、 実話に基づく話で、 とくに目新しい演出などはないが話が面白い普通の映画を見たいなら、 ギザ・お薦め!

1960年代、 大学の講師である一人の男。 愛する妻と子供たちに囲まれ幸せだった。 しかし、 なぜクルマのワイパーがこれほど不便なのか不思議でしょうがなかった。 雨で視界が阻まれる、 ワイパーをONにする、 今度はワイパーで視界が阻まれる・・。 発明家の血が騒いだ。 そしてひらめいたのが "間欠ワイパー"! いまや当たり前のこのワイパーを発明したのは、 この男だったのだ。 だが、 そのひらめきは不幸の始まりでもあった。

知り合いの投資家がセッティングしてくれて、 男が "まばたきワイパー" と呼ぶこの技術をフォードに見せる。 凄いね、 ということになり、 実はニーズは非常に高いのに、 まだどこも完成させていないということがわかる。 男はワイパーの製造を希望し、 フォードも条件を飲んで契約、 男は家族とともに浮かれた。 だが、 その後フォードから契約を白紙に戻すとの通達。 そしてある雨の日に男は、 フォードのテストカーが自分が発明したのと同様の間欠ワイパーを装備しているのを目にする。 画期的なワイパーとして絶賛を博し、 他のメーカーも追従し一気に広まる。

このときの男の胸の内、 形容しがたいものがあったに違いない。 手を尽くして不正を正そうとするが、 敵は大会社。 弁護士は示談で手を打つのが得策だと のたまうばかり。 妻や子は離れ、 男は荒れて放浪し、 教職を失い、 何年もの歳月が流れる。

博物館職員となった男に、 ふと時代の風が吹く。 知的財産権を尊重しようという風潮の中、 特許裁判の時効を防ぐ法律ができる。 男はふたたび、 トップ企業を相手に闘う決心をする。 しかも弁護士は自分自身。 ひとり孤独な闘いを挑む男のもとに、 成長した子供たちがひとりふたりとふたたび集まってくる。

たとえ発明家でなくても、 何かをつくる人にはわかるはず。 ひらめく瞬間の高揚、 しかし現実の世界の中でそれが簡単に踏みにじられていくことの焦燥感。 そのアイディアを守ろうとすることが、 ひらめきの尊さを他者に理解させることが、 いかに大きな犠牲を払うか。 ものづくりからサービスの時代に変わったとしても、 真にクリテイティブな能力への理解は、 この映画に描かれた時代と さほど変わってないように思えるのは気のせいだろうか・・




幸せのきずな Flash of Genius (2008アメリカ・カナダ) 日本未公開
監督 マーク・エイブラハム 
グレッグ・キニア ローレン・グレアム ティム・エディス 
ダーモット・マローニー ビル・レイク 

8.26.2009

高橋マリ子と鰐淵晴子 「黄昏のビギン」



代々木アニメーション学院30周年記念のプロジェクトということで、 アニメにからめたストーリーだが、 作品自体は実写。 ひさびさに登場した林海象監督が、 あいかわらず独特の作風を見せるが、 比較的さわやか^ ^ タイトルならびにテーマ曲はこちらから拝借しているもよう。

主人公はまたしても数字で呼ばれる探偵で、 助手はヒノコという女の子。 'あっちょんぶりけ' へのオマージュか。 キャスティングにも監督の趣味が感じられるが、 全体的に説明セリフが多すぎるのがタマにキズ。 1時間のオリジナルビデオということだし、 いかにも依頼が来たのでやりました的な感じだが、 もう少し本格的なものが見たかった。

病弱な 'セツナ' が踊る姿を描いてみせる先生。 そして言う。

 "行こう" "どこへ?" "ここ以外の場所さ"

セリフだけ抜き出すとそれなりにいいんだが、 本編中ではあまり効いてこない。 もったいない。


黄昏のビギン (2008日本) オリジナルビデオ60分
監督 林海象 
水上竜士 白勢未生 柏原収史 高橋マリ子 佐野史郎 鰐淵晴子 
黄昏のビギン [DVD][DVD]

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