3.30.2010

37年の歳月を経て.. リメイク版 「クレイジーズ」



ロメロの'73年物のリメイクだ。 お金がかかった分だけ それなりに迫力はあるが、 リメイクの意義がよくわからない。 パソコンや携帯が出てくるので話は現在に移されているのだろうが、 今こんなことやったら、 核実験じゃないのと世界中から非難囂々のはず。

副保安官がカーテンの少しの隙間からクレイジーを狙い撃ちしたり、 ヤバイという瞬間に誰かが助けるところは娯楽映画すぎ。 狂ったハンターたちの存在は効いていないし、 軍の実験というのも もはやリアリティがない。 ロメロが製作総指揮ということではあるが、 商売っ気を出してるだけという気もする。

しかし70年代には恐かった内容が37年の歳月を経て、 別に・・ という感じになってしまったのは、 逆に言えば それだけ世界がクレイジーになったということかもしれない。 ロメロという冠がなければ、 普通のB級SFホラー。 いや もうSFではないな、 ホラーでもないかもしれない。 じゃ何だろう、 パニック・アクション? 乞うご期待^ ^



クレイジーズ The Crazies (2010) 日本公開11/13 公式サイト 象のロケット  監督 ブレック・アイズナー 製作総指揮 ジョージ・A・ロメロ  ティモシー・オリファント ラダ・ミッチェル ジョー・アンダーソン 
クレイジーズ [DVD][DVD]

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美しいお化けは好きですか 「ヨガ学院」



キッチュなタイトルとポスター、 7人の美女ということにつられて見た韓流ホラー。 しかしながら新奇な怖がらせへの期待に反して眠気を誘う作品だった^ ^

顔やからだの美しさが資本であり権力である現代社会。 そうでない者は美しくなりたいと、 美しい者はもっと美しくなりたいと、 秘密の教室へ引き寄せられてくる。 だがそこには恐ろしい罠が待ち受けていた・・ みたいな内容で監督も女性とのこと、 まさに女の園。 映像などはそこそこ美しく、 東洋版 「サスペリア」 でも狙ってみたのかもしれない。

ここでの魔女はサイレント時代の美人女優。 ヴィジュアルは美しいが、 声が良くないということでトーキー時代に消えていった彼女が、 実は永遠の命を求めて若さを吸っていた。 声は少し低いだけで それほどヒドい感じもしなかったが、 まあそういう悲劇に端を発しているらしい。 7日間の修業で一人だけが選ばれ、 生まれ変わることができる。 修行中は断食、 外部との接触を持ってはいけない、 鏡を見てはいけない、 訓練後1時間以内の入浴は禁止などの掟がある。 一人ずつ この掟を破っては脱落していくという進行がまどろっこしく、 ホラーモチーフもヘビや水ぶくれの顔程度なので退屈してくる。

それでも見続けたが最後まで大した見せ場はなく、 お色気もなく^ ^ NGにしようかと思ったが、 これよりつまらない作品はいくらでもあるので、 まあ大目に見ようか。 韓国映画も徐々にテンションが下がりつつある気がするなあ。 。



ヨガ学院 Yoga School (2009韓国) 日本公開未定 
監督 ユ・ジェヨン 
ユジン チャ・スヨン パク・ハンビョル チョ・ウンジ 
ファン・スンオン キム・ヘナ イ・ヨンジン 

3.29.2010

「空気人形」 はバースデーケーキの夢を見るか



タイトルのインパクトが大きいし、 監督、 キャストともに期待大。 とにかく早く見たかった作品だが、 今になってしまった。 DVDになるなり速攻で見た。 傑作と言うと何か違う感じがするが、 良くできている。 上手い! こういうテーマのピックアップやペ・ドゥナの起用など、 いつも何かしらのアンチテーゼを含んでいる是枝監督は、 隠れ過激派だ^ ^

'人間ではないものへの愛' はマンガやアニメ好きの日本人には得意分野だし、 映画全般的にも意外に王道のテーマと言える。 最近の作品では 「ラースと、その彼女」 が思い浮かぶし、 これは人魚だが密かに大好きな 「スプラッシュ」、 他にも 「マネキン」 「シモーヌ」・・ 探せばキリがないことだろう。 '人間でないことのツラさ' みたいな部分で言えば 「ブレードランナー」 も思い出されるしハチ公だってそうだろう。 フランケンシュタインやヴァンパイアと同系列にしたっていいかもしれない。 しかしそれでもダッチワイフというのはレアだろう^ ^ なぜ "オランダ人妻" などと言うかは諸説ありだが、 ポルノ以外でこれが出てくる、 しかも主役というのは凄いのではないか^ ^

ペ・ドゥナというキャスティングもインスピレーションにあふれている。 カタコトの日本語でひらめいたか、 型落ちのダッチワイフの顔で思いついたか、 それとも日本の女優にはことごとく断られたのかは知らないが、 今となっては彼女なしには ありえない。 微妙にビニールっぽい皮膚感、 空気を入れるときの胸の反らし方など、 CGなしでの細かな映像表現にも映画マジックを感じる。

心を持ってしまった彼女はレンタルビデオ屋に勤め、 店長が挙げる往年の名作を逐一メモに取る。 小さな女の子から年寄りまで、 意図的に配置されたさまざまな年代の人々。 そこには短くて長い映画の歴史、 長くて短い人の一生が空気人形の視点で綴られる。 それは老人が伝える次のような詩に集約される。

生命は
自分自身で完結できないように
つくられているらしい

花も
めしべとおしべが揃っているだけでは不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする

生命はすべて
そのなかに欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分 他者の総和
しかし互いに 欠如を満たすなどとは
知りもせず 知らされもせず

ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄

(中略)

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない
(吉野弘 「生命は」)

ある意味、 構成のすべてが あざとすぎて、 感動すら忘れる。 それくらい完成度が高い映画だと言えるだろう。 ただし世界への、 生命への認識を新たにしたからといって、 詩的な時間を楽しむ以外の何かがそこにあるかというと、 何とも言えない。 見る人に委ねられているのかもしれない。

箱に入って届けられた日に誕生日を祝ってくれたはずの元のご主人様も あっさり新型に '乗り換え'、 バイトが消えてもレンタルビデオ屋は今日も店を開ける。 誕生日を夢に見た日が命日となっても季節はめぐり、 空気人形の気持ちで自分自身の死を想像することのできる映画・・ そんな風に思えたのだが、 あなたの心には何が残りましたか^ ^


空気人形 (2009日本) 公式サイト 象のロケット 
監督 是枝裕和 原作 業田良家(コミック) 
ペ・ドゥナ ARATA 板尾創路 柄本佑 岩松了 高橋昌也 
余貴美子 寺島進 オダギリジョー 富司純子 
空気人形 [DVD][DVD]

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3.27.2010

サーシャは落ちる Slovenka



気まぐれで見たが、 なかなか面白かった。 東欧+ドイツという国籍の作品で、 そのあたりの情勢にも関心がないわけではないが、 まずは危なそうな匂いに引かれて見たわけだ。 だが意外にコミカルでオフビート、 映画としての 'てにをは' も きちっとしている。 日本では噂も聞かないが、 ヨーロッパ、 北米、 南米、 韓国では映画祭を中心に少なからず見る機会があったようだ。

言語はスロヴェニア語と英語で、 スロヴェニア語部分には英語字幕が付くかたちとなっている。 たいていの英語字幕は日本語字幕より はるかに大ざっぱで、 これも例に漏れず。 頭の中でニュアンスを加筆しながら見ないといけないが、 それもまたいいだろう。

スロヴェニア・・ EUに加盟してからは渋滞や犯罪が増えたわりに、 経済成長は滞っている様子。 主人公はこのスロヴェニアの女子大生サーシャ。 母は出て行き父と二人暮らしだったが、 進学後は大学のあるリュブリャナという街に出てきた。 電車で数時間の距離らしい。 そして現在、 夜は密かにコールガールをしている。 新聞に3行広告のようなものを出して、 個人で営業している。 たいていはホテルに出向き、 さまざまな国籍の客とは英語と肉体で会話する。 大学のシーンでは英語教育に力が入れられていることがわかるが、 それはこのビジネスにも立派に活用されているわけだ。

ときどき都会の暮らしに疲れると、 父の元へ帰ってくるサーシャ。 若い頃の父はバンドをやっていたらしく、 しかも志向はアメリカン・ロック。 父が話があると言うので何かと思うと、 バンドを再結成するとのこと。 あきれ顔のサーシャ。 だがラストで演奏されるフランク・ザッパの "Bobby Brown Goes Down" (下に貼り付け) が、 すごく上手く使われている。 父が演奏するライブハウスの外で、 漏れる音に合わせてポツリポツリと口ずさむサーシャ。 甲斐性のない父だが、 サーシャは本当は父が好きなのだろう。 その証拠にタバコの吸い方がそっくり。

サーシャはフラットを買う。 日本で言うとマンションだろう。 かっこいいインテリアの1LDKなのだが、 大学生には高い買い物。 これをローンで買ったので、 月々の支払いのためにサーシャは夜のバイトにさらに精を出すことに。 だが そう上手くいくはずがない。 客が心臓発作で倒れたり、 ポン引きに目をつけられたり、 知った顔が客だったり、 また妻帯者の元カレからも しつこくされたりする。 夜のバイトが祟り、 勉強に身が入らない。 追試で何とか凌ごうとするが それもままならず、 あげくは教授に色仕掛け。

ついにはローンの支払いを滞らせてしまう。 それでも出まかせの得意なサーシャは支払いを猶予させ、 悪戦苦闘して 手に入れた部屋を守ろうとする。 心臓発作で倒れた客は欧州議会の人間であったため、 警察からは参考人として捜索される。 すべてが悪い方に転がり、 そして・・

実家から大学へ戻るときに "これアイロンかけといたよ" と服を渡す父。 幼なじみの青年からは "小学校の頃から君を映画に誘いたかった" と告白される。 男たちはみんなサーシャが好き。 マンディ・レインのように。 サーシャの上目使いは確かに可愛い。 だが幼なじみの青年だけに見せる笑顔はさらに魅力的だ。

ちなみに彼女は200ユーロ。 彼女を買う中年の男たちの表情もリアルで、 珠玉の・・ と表現するには汚れた映画、 だが なかなか素敵なニュアンスに満ちた佳作。 いつかレンタル屋ででも見かけたら手に取ってやってほしい。



スロベニアの娼婦 Slovenka/Slovenian Girl
(2009 スロヴェニア・ドイツ・セルビア・クロアチア・ボスニア ヘルツェゴビナ) 日本未公開 
監督 ダムヤン・コゾレ 
ニーナ・イヴァニシ ピーター・ムセフスキ プリモス・ピルナット 
マルサ・キンク ウロス・フュルスト デヤン・スパシック 

3.23.2010

教育! 「17歳の肖像」




'微妙なもの'シリーズは一旦終了し(すぐ再開されるはずだが^ ^)、 新作が入ってきたのでそちらを優先しよう。 新作と言っても、 これはアカデミー賞などでご存じの方も多いだろう。 日本公開が遅いだけで世界では去年の作品なのだ。 先物買いが得意の当ブログも残念ながら未見で、 今ようやく見たしだい。 でも、 いい! すごくいい。

アカデミーのほうも残念ながらノミネートに終わったようだが、 英国アカデミー賞というのもあって、 そちらでは主演女優賞に輝いている。 イギリス映画なんだよね。 だから、 あなどれないんだ^ ^ 時代は60年代、 私めの人生オンリーワンの映画 「小さな恋のメロディ」 と同時代の空気感も味わえる。

邦題は例によって埋没するダメセンスだが、 原題に注目してほしい。 An Education "教育"。 非常に意味深なタイトルで、 これを変えてはいけない。 ましてや17歳になるのは、 いろいろあってからなのだ。 でたらめでサラッとしたタイトルは無視しよう。

16歳のジェニーは退屈な女子高生活をもうすぐ終えようとしている。 オックスフォード大学を志望する優秀な彼女だが、 ラテン語が苦手。 古い価値観を脱ぎ捨てたい彼女には、 どうも興味をそそらないらしい。 その代わりフランスに憧れていて、 フランス語を勉強中。 受験科目ではないが・・。 またチェロも弾く。 近々コンサートもやる予定。 しかしときどき、 そのすべてが無意味に思えることがある。 大学も、 人生も・・

イギリス人がフランスに憧れるって、 どういう感じなのだろう。 パリのアメリカ人とは違うだろうけど、 自分たちが抱くような、 花の都、 恋の街、 カフェで交わされる芸術談議、 セ・ラ・ヴィな感覚と同じなのか? うーん、 ほとんど同じようだ。 "パリの空の下" は彼女の部屋でロックのように流れ、 それをかき消すかのように親の "勉強しなさい" の声が階下から響く。

そんなある日、 突然の雨の中を傘も差さずに チェロの練習から帰宅しようとすると、 かっこいいクルマに乗ったジェントルマンに声をかけられる。 男はマナーもわきまえているし、 彼女の警戒心を解きほぐす戦術にも長けていた。 ジェニーはこの男デビッドに送ってもらう。 数日後に再会しコンサートへ誘われる。 両親が許さないと言っても、 デビッドはあっさり親をも攻略してしまう。 次はオークション、 酒、 たばこ・・ ジェニーはその刺激的な 'うたかたの日々' の中で、 メガネの大学生になることだけが人生の選択ではないと思うようになる。 そして17歳の誕生日にデビッドは、 彼女をパリへ連れて行くと言う。

最初はこの男、 ロリコンなのかと思ったが そうでもないままに物語は進行し、 やがてロリコンどころか '本気' なのだとわかる。 だがリッチなデビッドもブルジョワの資産家というわけではなく、 ビジネス面でのダークサイドを持っていたし、 その本気を彼女が真に受けてはいけない秘密もあった。 だが純粋な彼女は最上の選択として それを受け入れる。 大学受験は辞め、 高校も中退してしまう。 そして・・

彼女は以前に、 チェロつながりの同年代のボーイフレンドを家に招いたことがあったが、 両親はあまり歓迎しなかった。 だが落ち着いた大人の男は簡単に両親の信頼を得て、 オックスフォードで講師をつとめる作家の知り合いがいるという男の嘘を、 あの男の子には真似のできないことと讃える。 だがジェニーは言う。 "作家の知り合いはいなくても、 作家になれるかもしれないわ" そう、 彼女は大人の男に欺されたりはしていない。 むしろ利用しているのだ。 だが何事にもリスクはつきもの。 大事なことを学ぶために、 大きな代償を支払うことになる。

そして最後に彼女を救うのは、 通っていた高校の教師。 ジェニーは先生にも暴言を吐いて学校を辞めているが "先生の助けが必要なの" と言うジェニーに "その言葉を待っていたのよ" と・・ "死ぬまで働き続けるか、 結婚して主婦になるしかない" そう言ったジェニーはここ数ヶ月の いくつかの大きな経験から新しい視点を獲得することができたのだろうか。 青春映画として片付けられないテーマ、 教育、 あるいは学習。 大きな意味での教育が描かれているのだ。 だから単なる 「17歳の肖像」 ではない。 ジェニーと同年代の人はもちろん、 親、 教育者がPTA臭くならないで進路について考えられる映画と言える。

打算的な親、 権威主義的な学校の外に教育は存在し、 悩み、 学ぼうとする者に貢献できる人がどれくらいいるかが、 その社会のポテンシャルなのだ。 自分は教師ではないし、 概ね反面教師だが、 それでも子供の宿題を見るとき、 さじ加減一つで この子の将来を大きく作用すると感じることがある。 勉強はしんどい、 退屈なのが当たり前とされているが、 本当にそうか。 退屈な映画なら あちこちでケチョンケチョンに言われて終わるし、 面白い本はわかりやすくする工夫がなされている。 だが面白い教科書を作ろうという試みがなされたことがあるだろうかと、 これまた誰かが言ってたな。 。

この映画のスチールを探すと、 いろんなシーンのものが出回っている。 絵になる場面の多い、 小難しいことを考えなくても楽しめる映画でもあるのだ。 遅れた日本公開ではあるが、 奇しくも四月という打ってつけの時期のロードショーなので、 サクラが咲いた人も散った人も見てほしい^ ^ 規制の大好きな都庁勤めの人にも、 ぜひ見てほしい。



17歳の肖像 An Education (2009イギリス) 日本公開2010.4/17
監督 ロネ・シェルフィグ  公式サイト・予告 象のロケット 
キャリー・マリガン ドミニク・クーパー ロザムンド・パイク 
アルフレッド・モリナ カーラ・セイモア オリヴィア・ウィリアムズ