2.25.2013

救われない男 「ザ・マスター」



ハリウッドなどにも影響力のある某新興宗教をモデルにしているとのことで、 暴露的な内容かと思っていたら、 まったく違ってた。 むしろ信じられれば楽なのに、 救われたいのに、 いざ手が差し伸べられると拒否してしまう。 そんな男を描いているように感じた。 それは監督自身かもしれないし、 自分とて共感を覚えなくはない。

しかしその共感をも阻むものがあるようにも思えた。 それはホアキンだろうな。 一所懸命やってるのはわかるし、 相当な迫力ではあるのだが、 仮に、 もっと普通っぽいナイーブめなキャラの俳優だったら・・。 マスターとの対比だけでなく相似性も明確になったように思える。 しかしその救われなさだけは痛々しいほど伝わった。

第二次大戦が終わり、 虚無だけを持ち帰った兵士。 彼の心にあるのは、 失われた愛。 飲んだくれて暴れ、 一風変わった男に拾われる。 トラウマからの解放を説くとともに実践的な方法論を持ち、 本も出版して躍進中の教祖様だった。 兵士が彼を気に入ったというより、 兵士のことを気に入ってくれた人間は彼一人しかいなかったというのが正しいだろう。 教祖はインテリで笑いを尊重し、 壊れた男を父親のように見守った。

やがて教祖は二冊めの本を出版するが "A級の神秘主義者" との批判を受けると、 兵士は批判者の口を暴力で封じた。 何を言われても平静を保つという新しいメソッドを身につけても内にある怒りを封殺することはできず、 ある日 兵士は教団を後にする。 そして "戻ってくる" と約束をした女の元を訪ねるが、 結婚して引っ越したと聞かされる。

拠点をイギリスに移した教団から再び救いの手が差し伸べられるが、 兵士は傷を忘れようとせず、 むしろ自分を形作っているものこそ その傷であることに自覚的になっていく。 それがたとえ自分を、 どこへも導かないとしても。

家族を中心とした教団に、 教団のなりたちってこんな感じなのかというリアリティが感じられたと同時に、 実の家族ですら半ば冷めた目で運営する組織のなかにあって、 流れ者のほうが疑念を払おうと必死なのは皮肉だ。 愛を引き裂いたのが戦争か自分自身かはもはや問うまでもなく、 アカデミー賞の行方もまったく気にならないが、 見応えのある1本であることは間違いない。 乞うご期待。



ザ・マスター The Master (2012) 日本公開2013.3/22 公式サイト・予告
脚本・監督 ポール・トーマス・アンダーソン 
ホアキン・フェニックス フィリップ・シーモア・ホフマン エイミー・アダムス 
アンビル・チルダース ジェシー・プレモンス マディソン・ビーティ ローラ・ダーン 
オリジナルスコア:ジョニー・グリーンウッド (radio head)

2.24.2013

青春 '参加' 「ウォールフラワー」



JUNO」 の製作会社に原作をピックアップされ、 脚本・監督までを原作者自らが担当。 俺にやらせろ、 でないと映画化権は渡さないとでも言ったのかな。 しかしキャストに助けられてるとは言え、 文句のつけどころもなく こなしている。

時代は、 音楽を聴くのにカセットテープが主流であった頃。 選曲を凝らした mixed tape を彼女や彼にあげたり。 文科系落ちこぼれの三人は、 カーラジオでボウイの "Heroes" を聞く。 その時点ではそれが誰の何という曲か知らないまま、 タイタニックポーズで夜を疾走し、 一瞬を永遠に変える。

"ウォールフラワー" とは '壁の花' だが、 辞書によるとダンスパーティなどにパートナーを同伴しないで来る者のことを言うらしい。 そう言えば昔のディスコは同伴でなければ入れなかったなあ、 などと関係のないことに思いを巡らす。 目立たない存在、 というニュアンスでもあり、 原題は '壁の花だっていいことあるさ' くらいの雰囲気か。 自殺した親友に綴る手紙として物語は語られ、 幼い頃のフラッシュバックがときおり入るが、 それらを問題意識を持って取り上げるというより、 ありがちな心の傷の一つとしてさらっと取り込んだ今風の青春物語と言える。

ロッキー・ホラー・ショーなども出てくるが、 時代色はさほど濃くなく、 ゲイが問題になって初めて、 ああ、 そうかと思う。 さらにドラッグネタになると、 さすがに進んでたんだなと。 作家志望のチャーリーが "好きなバンドは?" と聞かれて "ザ・スミス" と答えるあたりがコレなどともシンクロする。 80年代に十代だった暗めのアメリカ人と言えばやはりスミスなんだと。 しかし写真で見る限り監督/原作者はかなり明るそう^ ^

エマ・ワトソンも 'まつじゅん' 似のエズラ・ミラーもグッドキャスティングに思うし、 Dexys Midnight Runners "Come On Eileen" を含むサウンドトラックも充実しているが、 トレンディドラマとしては上質、 しかしそれ以上でも以下でもないという感想となった。 ハマれる人はハマれるのだろう。 乞うご期待。




ウォールフラワー the perks of being a wallflower (2012) 日本公開2013.11.22
原作・脚本・監督 スティーブン・チョボウスキー 
ローガン・ラーマン エマ・ワトソン エズラ・ミラー 

2.23.2013

二日酔いにはXXX、いいクスリです 「フライト」



予備知識なしで見たので、 会社か政府の陰謀をパイロットが暴くような話と勝手に思ってた。 ところがまったく違って、 キャッチにある通り 「彼はヒーローか犯罪者か」 ・・ 答えはどちらでもあり、 どちらでもない。 ただの人間だったということか。

朝、 あと数時間でフライトというパイロットはまだホテルの部屋で乱れている。 それでもいざ飛び立ったらシャキっとして、 乱気流を切り抜けたりする。 しかしその後、 さらに致命的なトラブルが発生、 操縦不能となって飛行機は急降下。 普通だとこのまま・・ というところ、 彼の荒技によって不時着を遂げる。 102名中96名が生還という奇跡を起こす。

墜落しかかっている飛行機での彼の冷静な対処ぶりが非常にカッコいいのだが、 彼が病院のベッドで目覚めてからは雲行きが一変する。 彼には飲酒運転ならぬ飲酒飛行、 さらにはドラッグ使用の疑いがかかっていた。 そしてそれは疑いではなく、 事実だった。

調査の結果、 事故の責任は会社側の整備不良であることが明白になったが、 彼がアルコールとクスリ漬けであったことは状況をややこしくする。 旧友や弁護士に助けられながら諮問会を切り抜けようとする彼であったが・・。

ベテランのパイロットともなるとこんなものか、 という出だしだったし、 窮地に陥ったときの冷静さがあまりにカッコいいので、 まさかその後そんな展開になるとは予想だにせず、 なかなか面白かったし、 ワシントンの演技力も再確認したが、 やはりその後の進行のなかでもそれほどアル中に見えず、 きれいな終わり方ではあるがカタルシスはあまり感じない。 つまりこの間の葛藤の描き方が不十分なんだろうな。 あなたのハートには何が残るでしょうか。 乞うご期待。


フライト Flight (2012) 日本公開2013.3/1 公式サイト・予告
監督 ロバート・ゼメキス  象のロケット 
デンゼル・ワシントン ケリー・ライリー ドン・チードル 
ブルース・グリーンウッド ナディーン・ヴェラスケス 
タマラ・チュニー ジョン・グッドマン 

2.21.2013

ハードウェアとしての人間 “Robot and Frank”



アカデミー賞が取りざたされるなか、 そんな派手な賞ではないがシッチェスやサンダンスでしっかりと評価されているこの作品、 なかなかよかったね。 確実にこういう未来がやってきそうな、 自分もあとウン十年すれば、 ロボットに看護されてるのかもしれないなどと感慨深く見た^ ^

一人暮らしのじいさん、 息子や娘は遠くの街、 あるいは外国で暮らしていて、 奥さんとは30年前に離婚したらしい。 父親を案じる、 あるいは めんどくさがる息子によってロボットが与えられる。 最初は気に食わない様子のじいさんだったが、 料理、 健康管理、 よくできたロボットだった。

一括りにじいさんと言っても実際はさまざまで、 家で大人しくしているのはむしろ少数派かもしれない。 このじいさんフランクは思いのほか不良で、 若い頃は宝石泥棒だったのだ。 刑務所に二度入り、 30歳で引退したと言うが、 完璧な計画と実行、 誰も傷つけず、 ダマすのは保険会社のバカだけ、 という仕事に今でも血が騒ぐ。 ふと鍵の開け方をロボットに伝授すると優秀にマスターする。 ダイヤル式の金庫などは人間よりもはるかにハイスピードで番号を合わせる。

フランクは今はじめてこいつの真価を見出し、 こいつが気に入った。 電子図書館に改装される建物から 「トンキホーテ」 を盗み出し、 さらにはその運営団体であるウサンくさいNPOリーダーの自宅から、 最新のセキュリティをかいくぐってドでかい宝石を盗み出す。 ロボットは盗みのパートナーを優秀にこなすがそれは、 そのことでじいさんの状態が良くなるという健康管理ロボットとしてのプログラムにかなったことだった。

寂しいから人間の代用とする、 あるいは面倒なことはロボットにやらせるというより、 優秀なパートナー (盗みの) としてフランクはその存在を必要とすることとなった。 しかしロボットにあくまで名前はなく、 ただロボットと呼ばれ、 ロボットは証拠隠滅のために自分のメモリーを消去しろと言う。

最後は急展開してショートカットぎみに終わるが、 記憶こそが自分である、 といった志向でもなく、 むしろプログラムが優秀であるほどに、 想定通りには生きられない人間というものを描いているのかもしれない。 しかしなかなかいいロボットだ。 白いボディを黒い布で覆い、 気配を感じたら、 さっと壁際に身を隠すあたりが何とも言えない。 日本公開は半年先らしいが、 乞うご期待。 願わくば説明的すぎる邦題を公開までに変えて。




Robot and Frank (2012) 日本公開2013.8/10
素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー 公式サイト
監督 ジェイク・シュライアー 
脚本 クリストファー・フォード 
フランク・ランジェラ スーザン・サランドン ジェームズ・マースデン 
リヴ・タイラー ジェレミー・シスト ジェレミー・ストロング 
ピーター・サースガード 

2.20.2013

赤信号、メジャーで渡れば・・ 「レッド・ライト」



そっちかよー、 みたいなオチですな^ ^ 本編を観てから公式サイトを見たら、 そりゃあ、 そらぞらしいこと^ ^ まあしかし、 つまらないというわけでもない。 どっちなんだ?

それ以上とくに書くこともないが、 書いてもネタバレになるし・・ って、 すでに書いてるか。 。 昔こういうクイズがあったけど、 そんな感じかな。 それをハリウッドの大スター使ってやるところがポイントか。 オルセン姉妹の下の妹とやらも出てるが、 そんなことどうでもいいか^ ^

しかしどこか煮え切らず、 メジャー作品の限界とも言えなくはないが、 普通のSFやオカルトものを見たくなった。 エントリーしたものの、 いつも以上に短くなった。


レッド・ライト Red Lights (2012アメリカ・スペイン) 日本公開2013.2/15
脚本・監督 ロドリゴ・コルテス  公式サイト・予告 象のロケット 
ロバート・デ・ニーロ キリアン・マーフィ シガニー・ウィーバー 

涙のワケは聞かないで 「ゼロ・ダーク・サーティ」



2年近く前になるのか、 ビン・ラディンが殺されたというニュースは知っていたが、 お祭り騒ぎするわけでもなく、 微妙にひっかかりを覚えるサラッとした情報として記憶している。 しかしよく考えてみたら、 これを詳しく掘り下げない手はない。 アメリカではしっかり作られていた。 事実に基づくセミドキュメンタリーということで、 取材にも相当な労力を割いたそうだ。 しかしとくに政治的なバイアスはなく、 2時間半を超える長丁場ではあるが娯楽作品として仕上がっている。

ビン・ラディンを追いつめたのは一人の女性だった、 とキャッチにもある通り、 へえと思うが、 その個人的なモチベーションについては触れられていない。 ドラマの大半を通して、 CIAも普通の組織なんだなと感じるが、 それを突き破るのは上司を脅してまで持論に食い下がる彼女の 'やる気' なのだ。 のちに "100%の彼女" と呼ばれるマヤは、 拷問に抵抗を感じながらも自らの '読み' を証明したいという以上に、 あいつを殺したいという執念に燃えてゆく。

執念の根拠は恐らく想像する通りだろう。 しかし目標達成後に彼女が見せる涙は、 演出以上に何らかの意味があるのだろうか。 描きにくいテーマを真正面から追うので伏せなければならないことも多いのだろう。 意欲的な作品だし面白いが、 どことなく戦国時代の、 大将の首を取りました的なものを感じた。 違うのはその子どもを根絶やしにするなどとは考えず、 またさまざまなハイテクが導入されていることだろうか。

タイトルは軍隊用語で深夜0:30のことだそうだ。 急襲が行われ、 そして目的が達成された時間、 しかしなぜビン・ラディンの顔まで伏せる必要があるのか。 露骨だから? やっていることは露骨なのだから今さら。 そっくりさんの俳優がいなかった? そんなワケないでしょ^ ^ まさか、 良心の呵責じゃないだろうな。 。


ゼロ・ダーク・サーティ ZERO DARK THIRTY (2012)
監督 キャスリン・ビグロー  日本公開2013.2/15 公式サイト・予告 象のロケット 
ジェシカ・チャステイン ジェイソン・クラーク ジョエル・エドガートン 
ジェニファー・イーリー マーク・ストロング 

2.06.2013

ミルク風呂? 「テール しっぽのある美女」



YouTubeを見ていると、 ホラーのトレーラーばかり見ているせいか、 お薦めの枠にコレがよく出てくる^ ^ しっぽの生えた女というビジュアルはインパクトがあるが、 本編は比較的ソフト。 ノルウェーの妖精神話をベースにしたとかで、 森のなかに人類とは別の進化を経た種族が暮らしているという設定。

元軍医がその少女と出会い、 二人で隠れるように暮らしてきたという物語はロリータっぽいものがあるが、 少女の姿は適応力によって変化したもので、 本当の姿はイエティやビッグフット、 あるいはトロールのようだ。 そんなに変形して、 なぜ しっぽだけが残るのかという疑問もあるが、 その生き物は俊敏な動きとヒーリング能力を持つ。

元軍医が死に、 その死体処理に訪れた二人の男がこの "ターレ" に出会うというところから映画は始まる。 出だしはサスペンスフルで期待度が高まるが、 中盤からやや単調になり、 フェアリー 'テール' として静かに終わる。 そしてターレはなぜかミルク風呂のようなものにつかっている。

Thaleがノルウェー語でしっぽという意味だとしても、 それは軍医が彼女を呼んだ名前でもあるので 「テール」 と英語化してしまう邦題はおかしい。 英語圏ですらそんな風にはなっていない。 しかも電車のアナウンスのようにおせっかいでネタバレなサブタイトル付き^ ^

最終的にはこの美女がどうか、 がポイントかと思うが、 まあ微妙^ ^ 少女の頃はそれなりに妖精っぽいが、 成長してからはグラマーというより重そう^ ^ もう少し膨らませそうな話ではあるのに予算の関係でかなわずか、 さらっとファンタジーのままにしておきたかったのかは定かではないが、 中途半端な印象に終わった。 もうすぐ公開、 あなたの心を癒してくれるだろうか^ ^



テール しっぽのある美女 (2012ノルウェー) 日本公開2013.2/16 公式サイト・予告
Thale 脚本・監督 アレクサンデル・ノダース 
シリェ・ライノモ アーレン・ネルヴォル ヨン・シーヴェ・スカルド