
ハリウッドなどにも影響力のある某新興宗教をモデルにしているとのことで、 暴露的な内容かと思っていたら、 まったく違ってた。 むしろ信じられれば楽なのに、 救われたいのに、 いざ手が差し伸べられると拒否してしまう。 そんな男を描いているように感じた。 それは監督自身かもしれないし、 自分とて共感を覚えなくはない。
しかしその共感をも阻むものがあるようにも思えた。 それはホアキンだろうな。 一所懸命やってるのはわかるし、 相当な迫力ではあるのだが、 仮に、 もっと普通っぽいナイーブめなキャラの俳優だったら・・。 マスターとの対比だけでなく相似性も明確になったように思える。 しかしその救われなさだけは痛々しいほど伝わった。
第二次大戦が終わり、 虚無だけを持ち帰った兵士。 彼の心にあるのは、 失われた愛。 飲んだくれて暴れ、 一風変わった男に拾われる。 トラウマからの解放を説くとともに実践的な方法論を持ち、 本も出版して躍進中の教祖様だった。 兵士が彼を気に入ったというより、 兵士のことを気に入ってくれた人間は彼一人しかいなかったというのが正しいだろう。 教祖はインテリで笑いを尊重し、 壊れた男を父親のように見守った。
やがて教祖は二冊めの本を出版するが "A級の神秘主義者" との批判を受けると、 兵士は批判者の口を暴力で封じた。 何を言われても平静を保つという新しいメソッドを身につけても内にある怒りを封殺することはできず、 ある日 兵士は教団を後にする。 そして "戻ってくる" と約束をした女の元を訪ねるが、 結婚して引っ越したと聞かされる。
拠点をイギリスに移した教団から再び救いの手が差し伸べられるが、 兵士は傷を忘れようとせず、 むしろ自分を形作っているものこそ その傷であることに自覚的になっていく。 それがたとえ自分を、 どこへも導かないとしても。
家族を中心とした教団に、 教団のなりたちってこんな感じなのかというリアリティが感じられたと同時に、 実の家族ですら半ば冷めた目で運営する組織のなかにあって、 流れ者のほうが疑念を払おうと必死なのは皮肉だ。 愛を引き裂いたのが戦争か自分自身かはもはや問うまでもなく、 アカデミー賞の行方もまったく気にならないが、 見応えのある1本であることは間違いない。 乞うご期待。



ザ・マスター The Master (2012) 日本公開2013.3/22 公式サイト・予告
脚本・監督 ポール・トーマス・アンダーソン
ホアキン・フェニックス フィリップ・シーモア・ホフマン エイミー・アダムス
アンビル・チルダース ジェシー・プレモンス マディソン・ビーティ ローラ・ダーン
オリジナルスコア:ジョニー・グリーンウッド (radio head)
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