5.25.2012

存在してほしい BABYCALL



「ミレニアム」シリーズをきっかけに 一部で売れっ子となっているノオミ・ラパス主演のサスペンス作品。 とくに興味はなかったが、 見たいという人がいて一緒に見た。 ネタはかなり早くにバレたが、 あれこれツッコミながら、 北欧の寒々とした感覚を楽しめる作品? 悪くはなかった。

'ベビーコール' というのは赤ちゃんを別室に寝かせているときに、 異常がないか音声モニターする機器のことだが、 この母親は、 息子が8才になっているにもかかわらず、 心配性なのか、 これを設置する。 前夫の暴力から逃れ、 福祉局の保護プログラムにより ひっそりとこのアパートに移ってきたという経緯もある。 しかし物語が進むにつれ、 それが彼女の被害妄想である疑いが出てくる。 以下まさにネタバレになってしまうので、 見るつもりのある人はスルーしてほしい^ ^

妄想はそればかりでなく、 実は息子の存在も妄想、 途中で知り合う男も妄想、 福祉局員すら妄想だった。 不幸の末に、 妄想や記憶の断片が現在と未来までもを作り出し、 そのなかで一人ぽっちで震えて生きる彼女と、 彼女の結末を淡々と描く北欧発のサイコスリラー。 一人で見たなら寂しすぎる作品だったかもしれない。 乞うご期待。



チャイルドコール 呼声 BABYCALL (2011ノルウェー・ドイツ・スウェーデン)
日本公開2013.3月  
監督 ポール・シュレットアウネ 
ノオミ・ラパス クリストッフェル・ヨーネル 

5.24.2012

ママ、ごめんなさい THE ROAD



本年度ホラー映画のベストとの呼び声も高いので見てみたが、 フィリピンのこの監督作品で、 前作同様、 自分には響かなかった。 やたら、 ゆったりとしていて、 めまぐるしいのが当たり前のホラーの中では異質な感じがするのはいいが、 もったいぶって明かされた秘密が その程度のことか、 みたいな。

3パートに分かれた仕立てとなっていて、 時間が前後しているのもややわかりにくく、 心霊ものかと思えばサイコもの、 サイコものかと思えばやっぱり心霊もの、 フィリピンの片隅の、 あるいは不幸な少年の悲しみが描かれているのかと思えば そうでもなく、 ただ 顔にビニール袋や布を被せることの不気味感にフェチしているだけという気がしなくもない。

流行りのドキュメンタリータッチの逆を行く、 物語志向のゴシックスリラー、 "ママ、 ごめんなさい" な作品だ。 乞うご期待。



THE ROAD (2011フィリピン) 日本公開未定 
監督 ヤム・ララナス

5.22.2012

そこにはただ風が吹いているだけ Hick



お、 これは! という匂いのする作品だった。 またしてもクロエ・モレッツ、 彼女が扮するルーリーは13才にして、 破綻した家庭を後にして、 ラスベガス目指してヒッチハイク。 舞台は70年代後期、 ルーリーは鏡の前で STAR WARS のセリフを真似る。 流れるのは当時の甘い音楽、 あるいはボブ・ディラン・・

このへんまではまさに、 おお、 という感じ。 原作者の半自伝的物語のようで、 シナリオも彼女が担当。 しかし その後、 何となく肩すかしな展開? そして最後はあっけなく・・ 見終わっても満足しきれないのは、 聞き取りにくい中西部なまりのせいかとも考えたが、 あるいは期待が高すぎたか。 "フューチャー・クラシック" と呼ばれるには今一歩及ばないという感想になってしまった。

しかしまあ、 魅惑的な匂いが立ちこめる映画に変わりはなく、 ただその芳香に先には何もないことが、 空しさをいっそう強調して、 憤慨するか酔えるかの違いになるだけなのかもしれない。 例によって日本公開はかなり先になると思われるが、 気になる人はテンガロンハットを被り直したりして待ってみよう^ ^



Hick ルリ13歳の旅 (2011) 日本公開2012.11/24 公式サイト
監督 デリク・マティーニ 原作・脚本 アンドレア・ポーテス 
クロエ・モレッツ エディ・レッドメイン ブレイク・ライヴリー ロリー・カルキン
ジュリエット・ルイス アンソン・マウント アレック・ボールドウィン 

5.20.2012

ストイックに暴走 Bad Ass



"バッドアス" ときて、 ダニー・トレホで、 ツーリストルックにウエストポーチ・・ 思いっきり狙ってきている通りの作品で、 追い討ちをかけるラップのテーマソングには微妙に呆れる。 重量級の肉弾戦は迫力あるが、 それ以外は意外にあっさり、 プレーン。 ベトナムも友情も軽すぎるのが玉にキズ。

後半、 バスでのチキンレースという大技も用意されているが、 手に汗握るというより、 今度は もたれる感じ。 。 仮にトレホでなく、 あるいはシナリオをもっと練ったら・・ と考えても無意味なくらい、 企画に対して正攻法なところが持ち味だろう。

ダニー・トレホって本当に70才近いんだね、 それでこのパンチは驚き。 そういう意味ではシルバーエイジを励ます作品か。



バッド・アス Bad Ass (2012) 日本未公開 
監督 クレイグ・モス 
ダニー・トレホ ジョイフル・ドレイク チャールズ・S・ダットン 
ロン・パールマン ハリソン・ペイジ 
これがテーマソング^ ^

5.08.2012

Ganbare Nippon! 「ヒミズ」



DVDリリースまでまだ少しある中途半端なタイミングでのエントリーで失礼。 子温監督、 けっこう多作なので多少ありがたみには欠ける昨今、 しかし やはり見応えはあった。 キャスティングにしても、 いちいちリンクを張るのが面倒なくらい贅沢。

園監督は自分の中ではずっと評価の高いお方だし、 見応えも十分だったのに、 なぜか書くことがない。 かつての監督作品の感想として何を書いたのか振り返ってみたが、 自分でもイヤになるくらい まとまっていない。 。 が書くことがない理由もわかった気がする。 監督の日本での評価が上がったからだ。 好きだったバンドがメジャーになるような感覚・・

それでもやはり震災を撮影に行ったり (しかもドキュメンタリーではなく) あるいは原作を大きく改変しているところに支持の分かれ目を残し、 自分としては当然、 支持だが、 震災を映画のダシにするな、 原作への冒涜などの評を見かけると少し面白くなる。 もともと映画は身の回りのあらゆることをダシにするのだし、 そもそも小説やコミックなどの原作を勝手に取り上げて (金で買い上げて) 映画化なんてこと自体が傲慢きわまりないことなのだ。

宮台真司氏のコメントにからめてのシーンなどもヘンに効果的だったし (当初の役とは違ったらしいが) マルチェロ・マストロヤンニ賞の二人もよかったし、 存在感のある登場人物はみなよかったが、 それにも増して 「夢を持て」 との教師の言葉が空々しく響くがごとく、 瓦礫の山がセットに見えたり、 最後の 「がんばれ」 も一言ごとに意味が反転して、 励ましてるのか自虐的かけ声か、 ほとんどわからないくらいに、 映画を通して 「みんなを励ます」 ことの難しさが露呈している点がよかったように思う。

けっきょく映画は、 作り手の勝手なインスピレーションの集大成だし、 それをテキトーに楽しめる人が観ればいいのだし、 作り手がどれだけのリスクを取ってるのかが ときにはスパイスになるし、 それを楽しめる作り手だけが少しは観客を楽しませることができ、 けっきょくのところ評価は次への軍資金にすぎないのだ。

なんて、 多少は映画論ぽくなったかな。 。 とにかく、 これからも 'がんばって' ほしい。 自分は自分でがんばるから^ ^ 本作は海外ではまだこれから公開されるところなので、 もうひと波乱ありそうだ。


ヒミズ (2012日本) 公式サイト 象のロケット 
脚本・監督 園子温 原作 古谷実 アクション監督 坂口拓 
染谷将太 二階堂ふみ 渡辺哲 諏訪太朗 川屋せっちん 吹越満 神楽坂恵 
光石研 渡辺真起子 モト冬樹 黒沢あすか 吉高由里子 窪塚洋介 宮台真司 
村上淳 でんでん 

5.06.2012

墜落する時代 「崖っぷちの男」



先日のコレといい、 未エントリーの 「ペントハウス TOWER HEIST」 といい、 なぜか最近、 高所恐怖症ものが続く。 本作もシリアスな飛び降りシーンのポスターが目を引くが、 実は飛び降りは計画の一環であり、 実質は向かいのビルへ潜入するタワーハイストもの。 飛び降り者説得シーンと潜入シーンが平行して進むミクスチャーなシナリオとなっている。

宝石強奪で25年の刑に服している元警官。 無実を主張するが上告や再審の望みも絶たれる。 そんな矢先、 父親が他界、 葬式に出席することを許可されるが、 チャンスとばかりに逃亡。 男が再び現れたのはホテル上層階の窓辺だった。

「ペントハウス TOWER HEIST」 では破綻した投資家がリカバーのために庶民からダマし取ったカネを取り返すという筋書きだが、 ここでは変動する貴金属価格の下、 破綻しかけた宝石商が穴埋めのために事件を偽装、 濡れ衣を着せられた男が反撃するという点でもよく似ている。 これまでの価値が墜落していく時代を象徴しているのかもしれない。

ソツなく付けたつもりの邦題もどこか違うのは、 崖っぷちに立っているのはこの男ではなく、 涼しい顔でごまかし続ける宝石商のほうであり、 「ペントハウス」 でも その言葉に貼り付く憧れはすでにメッキが剥がれているから強奪こそが正義であり、 邦題は作品の立ち位置とは反対のニュアンスになってしまっているのだ。

とか何とかそれらしいことを書いたが、 基本的にはディズニーの娯楽大作、 手に汗握ってのハッピーエンドなのだが、 見所は何と言ってもジェネシス・ロドリゲスの潜入過程でのジャンプスーツへの着替えシーンだろう。 30億のダイヤよりもゴージャスだ^ ^ エリザベス・バンクスとともに 'ツインタワー' で楽しめる。 乞うご期待!



崖っぷちの男 MAN ON A LEDGE (2011) 日本公開2012.7/7
監督 アスガー・レス  象のロケット 
サム・ワーシントン エリザベス・バンクス ジェイミー・ベル 
アンソニー・マッキー ジェネシス・ロドリゲス キーラ・セジウィック 
エド・バーンズ エド・ハリス 

5.02.2012

I can fly. 「クロニクル」



一見、 ジュヴナイル、 あるいはコミカルな等身大ヒーローもののようで、 実はとても危険な香りのする作品。

ハイスクールで人気の生徒、 それなりに上手くやっている生徒、 暗くて浮いてるやつ。 ありがちなキャラがウダウダやっていると、 道端で奇妙な物に遭遇する。 宇宙から飛来した物か、 軍の実験か。 それ以降、 少年たちは超能力を手にする。 最初は面白半分、 いたずらに使う程度だったが、 アブラカダブラと暴走し始める。

こういうエピソードを また例の手法で見せるところに新鮮な組み合わせを感じるが、 前半のオチャらけた調子と打って変わって、 悲劇的な結末へと展開するものだから、 ザクッとした何かが残る。

脚本のマックス・ランディスはジョン・ランディスの息子さんとのこと。 力に目覚めた少年たちがカメラで次にとらえるものは、 いきなり雲。 自らの身体を飛ばしての空中散歩のシーンなどは高揚感を共有できる。

そうして '人類以上' に進化したかもしれない少年も、 母の病気は治せず、 薬を買う金もなく、 飲んだくれの父への怒りが惨事を引き起こす。 友情にも恋にも希望はなく、 ただ刹那的に能力を浪費していくだけの若さが痛々しい。 何らかのカリスマ性を秘めた作品ではないだろうか。 乞うご期待。


クロニクル(原題) CHRONICLE (2012) 日本公開未定 
監督 ジョシュ・トランク 脚本 マックス・ランディス 
デイン・デハーン アレックス・ラッセル マイケル・B・ジョーダン