3.10.2010

愛と平和の戦士 「ヤギと男と男と壁と」



ヤギを見つめる男たち・・ そんなタイトルに文芸調な予感を抱いていた。 シンドそうな作品ではないか。 ところがどっこい、 原作は 「実録・アメリカ超能力部隊」。 ヤギを見つめ、 超能力でその心臓を止める。 そんな部隊にいた男たちの話なのだ。

その名も "ジェダイ・プロジェクト新地球アーミー"^ ^ たとえあなたが信じなくても、 これは事実である、 との前書き。 冷戦時代、 ソ連が同様の研究を始めたことへの対抗手段だとか、 いや始めたのはアメリカのほうだったとか。 だがこの存在しないことになっている特殊部隊が志向したのは何と・・ ラブ&ピースだった^ ^ 下のジョージ・クルーニーのロン毛を見てもわかるとおり、 ベトナム戦争とヒッピーの時代であり、 いかに戦争に勝つかより、 いかに争いをなくすかという究極の戦略を模索する。

超能力部隊の指導者にジェフ・ブリッジス、 最も強力な超能力者にクルーニー、 彼を妬む策略家にケビン・スペイシー。 当時の話を取材することになってしまうジャーナリストにユアン・マクレガー。 常識人の視点で見る特殊部隊のエピソードは、 すべてがスベったギャグのようで、 ユルい間とともにドラマは進行する。 そしてイラクにふたたび新地球軍が集結するとき、 世界は変わるのだろうか。

トンデモ本の映画化でありながら蒼々たるキャスト、 ベネチア映画祭招待作品ともなったオモシロ作品なのだが、 日本公開は未だに噂も聞かず。 今年の後半あたりのズレたタイミングで、 ヘンテコな邦題、 日本人タレントを呼んでのよくわからない話題作りとともにやって来るのだろうか。 この作品に秘められた新時代へのインスピレーションがこの国に届くのは果たしていつの日か、 そしてそれは正確に届くのか。 それだけが気がかりだ。 (追記) 公開決定 8/14




ヤギと男と男と壁と The Men Who Stare at Goats
(2009アメリカ・イギリス) 日本公開2010.8/14  象のロケット 
監督 グラント・ヘスロヴ 原作 ジョン・ロンソン 脚本 ピーター・ストローハン
ジョージ・クルーニー(製作兼) ユアン・マクレガー ジェフ・ブリッジス 
ケビン・スペイシー ロバート・パトリック 

実録・アメリカ超能力部隊実録・アメリカ超能力部隊 [原作]
Jon Ronson 文春文庫

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3.09.2010

嘘も方便? 「インフォーマント!」



FBIは内通者を獲得する。 これによって捜査は大幅に進展すると思われたが、 もしこの内通者がとんでもないウソつきだったら・・。 事実に基づくそんな映画。

大した予備知識もなしに見たので、 途中まで このいいかげんなヒゲおやじがマット・デイモンだと気づかなかった。 いやマジで^ ^ ぷくっと中年太りまでしてるし、 よくいる微妙な感じのオッサンだなと思ってた。 いやあ、 役者魂というのか何というのか。

この作品については そのデイモンがわざとらしいとか、 ソダーバーグの演出が鼻につくとか、 あまりいい評価を見なかったが、 けっこう面白かったな。 アメリカでの評価は悪くないようだ。 確かにここにはアメリカ社会の一面が不思議なアングルで描き出されているように思う。 厳格な契約社会と、 ある部分では他の国々に比べ寛容なところ。 そうした相反する規範のミックスこそがアメリカだという気がする。

よく言われることだが西洋諸国は基本に神との契約があり、 契約が支配する社会で、 アメリカなどは弁護士の数もハンパじゃないと。 だがアメリカのヨーロッパと違うところは、 そこに感情的な例外規定が多く設けられているところではないか。 例えば情報提供による取り引き。 犯人の一味であっても、 有用な情報を提供することによって罪が軽減される。 犯罪ではないが、 起業が失敗した際のやり直しがきくのもそうだし、 失敗に対し、 反省と更生に対して寛容な社会と言えるだろう。 このことがこれまでアメリカの発展に大きく寄与してきたことは間違いない。

デイモン演じるウィテカーという男は、 アメリカのこういう部分を上手く利用して生きてきた男なのだ。 自分は孤児だったが裕福な家庭に養子として迎えられた、 という経歴はまるでデタラメで実の両親は健在。 孤児ということにしたほうが "大変だったのに頑張ったのね" と実寸より偉大に見られる、 だからそうしてきたとのこと。

勤める会社が価格カルテルを敷いているという情報提供により、 経営者の追い落としを画策したが、 実は自分もその美味しい汁を吸ってきた側であり、 むしろ収賄の多くは自らが発案したもので、 だがFBIには上手にフィルタリングをして渡す。 自分に都合の悪い情報は隠し、 会社の不正を正す正義のヒーロー気取り。 だが情報操作は破綻をきたし、 立場が危うくなると今度は FBIに利用された、 政府に欺されたと騒ぎ出す。 ほんとに調子のいい奴なのだ。

ウソがばれても しおらしく真実を語るふりをすると、 FBIは再び人のいい面を見せる。 弁護士を変えれば新たな戦略も生まれる、 最後まで奥さんに愛想を尽かされることもない。 恐らくアメリカ人は、 この男をダメとは言い切れないのだろう。 大なり小なり、 誰もが使っている人生の戦略をデフォルメしただけの男なのだから。

味の素など実在の日本の企業名もバンバン出てくるが、 その辺も事実であり許可は必要ないということか。 これまた評判の良くない比喩だらけのナレーションだが、 ひらめきを感じる、 悪くない。 いい勉強になる映画だ^ ^


インフォーマント! THE INFORMANT! (2009) 公式サイト 象のロケット 
監督 スティーブン・ソダーバーグ 製作総指揮 ジョージ・クルーニー 
マット・デイモン スコット・バクラ メラニー・リンスキー 
インフォーマント! [DVD][DVD]

イングロリアス・バスターズ [DVD] ホワイトアウト [DVD] THE 4TH KIND フォース・カインド 特別版 [DVD] スペル コレクターズ・エディション [DVD] 96時間 [DVD]

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3.08.2010

傷こそが ID 「クローンは故郷をめざす」



日本映画では少なのではないかと思われるSF、 しかもどこかノスタルジックな、 「惑星ソラリス」 を彷彿とさせるような。

クローン技術は完成期を迎えていて、 肉体の再生はもちろん、 脳内の情報もすべてバックアップを取り、 戻される。 人の脳を外部化すると、 その時点の技術を用いても大きな倉庫一個分くらいにはなるようだ。 以下ネタバレ注意。

実験体に選ばれたのは及川光博演じる宇宙飛行士。 万が一に備えてこの技術を受けることを承認し、 準備を整える。 だがその機会はすぐにやってくる。 再生は一見 上手くいったかに見えた。 だが記憶制御に問題があった。 脳内の情報には複雑な優先順位があって、 それを均一に戻してしまったため、 子供の頃の記憶が強く甦ってしまった。 なるほど、 夢を見るのも情報の整理プロセスとか聞くものな。

さらに伏線がある。 彼は実は双子で、 弟を小さい頃に亡くしている。 原因は彼にあって、 その罪の意識がこの再生人間を故郷へと連れ戻す。 そこで不思議なものに遭遇するのだが、 病院を抜けだしたこの実験体は失敗作とされ、 秘密裏に破棄される。 クローン技術を確立した博士自身は幽閉の身にあったが、 解決策を求めて引っ張り出される。 記憶制御は解決するが、 博士がいまだに一点 解決できない問題として "共鳴" が挙げられる。 それはオリジナルに宿りし魂が、 死後も自分の人生が継続されていることを知って戻ってくるというものだった。

効果音として通奏低音のような響きが上手く使われSFらしさに酔えるが、 それはやがて現実に共鳴する笛のような音に変わる。 そして三体目が創られる。 オリジナルから数えて第三の自分自身。 記憶制御は上手くいった。 そしてなぜか今回は共鳴も起きない。 だがオリジナルにあった幼い頃のケガ、 その手の傷痕はきれいに消えていた。 傷一つない身体は、 記憶の奥に眠る心の傷とは整合性が取れなかった。 彼もまた故郷をめざす。 失われた傷痕を求めて。

ポエムのように綺麗なシナリオだと思う。 オリジナル脚本とのこと。 NHK-サンダンスというラインがあって、 2006年度のシナリオコンクールの受賞作らしい。 そのとき審査員であったヴェンダースがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、 脚本を書いた中嶋は本作を初監督する。 うーん、 感無量だろうね。

微妙な固さは感じるが、 素敵な作品だと思う。 だが残念ながらすごく心を揺さぶられるとまではいかなかった。 次回作を楽しみにしよう。 1点NGだなと思うのがメイク。 嶋田ちあきとクレジットされているが、 いかにも描いた眉で、 子供までこの眉なのだ。 さらに石田えりにはダマになるまで塗りたくられたマスカラ、 永作にも同様のメイク。 それは計算された能面のような顔というわけではないと思われる。 舞台ではこれくらい濃くしないと映えないのかもしれないが、 フィルムはもっとディテールを写してしまうのだ。 子供がもっと自然で、 お母さんのメイクが気になるような描写でなかったら、 もっと入り込めたかもしれない。 及川は概ね美しいが、 オリジナルとクローンの差を出すとかしてもよかった気もする。 ぜひDVD等で確認されたし。


クローンは故郷をめざす (2009日本) 公式サイト 
脚本・監督 中嶋莞爾 製作 ヴィム・ヴェンダース 
及川光博 石田えり 永作博美 嶋田久作 品川徹 

不発キャラ 「マイ・ネーム・イズ・モデスティ」



タランティーノ製作ということで、 冒頭にも "タランティーノ&MIRAMAX presents" とデカデカと表示されるわりに、 実際どの程度の関わりをしているのかは不明。 企画を出したものの乗り気がせず お友達に振っただけのことかもしれない。 未公開の地味めな作品で、 ポスターやDVDジャケでは銃を持っているが、 実際には銃を振り回すわけではなく、 見せ場はむしろ空手^ ^

私の名はモデスティ [おしとやか、控えめ]、 でも実際はそうでないという そのキャラづくりで成立させる類の作品だが、 主役に抜擢されたアレクサンドラ・スターデンは 「エマニエル夫人」 のシルビア・クリステルのようで (凄い例えだな^ ^)、 彼女のヨーロピアンな雰囲気が貢献しているのか、 製作サイドの好み一発で選ばれたのか、 名前と出で立ちの上品さに隠されたギャップの部分が不発に終わっているために、 ますますよくわからない作品となっている。

スターデンは実際にイギリス生まれということで、 それほどクイーンズイングリッシュなアクセントは強くないものの、 アメリカ英語とは少し違う喋り方をする。 聞き取りやすく、 字幕が出ていても頭には入ってこないで、 むしろ彼女のセリフだけを聞いてしまうようなところがある。

モデスティは戦争の絶えないバルカン半島で生まれ、 親はなく物心ついた頃から一人。 難民キャンプを抜けだし、 強盗にあっている老人を子供ながらその高い戦闘力で助け、 以後 彼とともに旅をする。 老人からは読み書きをはじめ さまざまなことを学ぶが、 彼が死んでふたたび一人に。 その後、 カジノのオーナーに拾われて今はルーレットのディーラーをしている・・ うーん、 面白いか? コレ^ ^ と言いつつ見てる。 。

人の運、 あるいは 'かけひき' についてはカジノのオーナーから学ぶが、 突然 彼は殺され、 カジノはマシンガンを持った一味に占拠される。 復讐と金庫が狙いだったが、 モデスティは持ち前の知恵と度胸、 そして運と空手でこれを切り抜ける・・ みたいな話。

ラストの見せ場であるはずの、 モデスティのスレンダーな手足から繰り出される空手。 これがイマイチ貧弱すぎて・・。 でも それなりに見てこれたのは、 一味のボスがモデスティの手玉に取られていく様子が多少なりとも面白かったり、 老人と少女、 あるいはモデスティとカジノ・オーナー、 そうした 人が人を見出す感じや、 人と人との信頼というものが傍らには置かれているせいだろうか。

シリーズ化を狙っていたのだろうが かなわず、 もう誰もその話をしなくなった、 みたいな作品か。 空手も老人から習っているのだが、 爺さんが空手使いなら助ける必要あった?

他方の花として配置されているはずのユージニア・ユアンも、 空手はむしろ彼女のほうが得意そうなのに、 弾けずに終わっている。 英語の勉強をしたい人、 あるいはシルビア・クリステルを懐かしみたい人専用。 滝川じゃないよ。 あれ、 けっこう長く書いちゃったな^ ^



マイ・ネーム・イズ・モデスティ (2004) 日本未公開 
MY NAME IS MODESTY: A Modesty Blaise Adventure 
製作総指揮 クエンティン・タランティーノ 監督 スコット・スピーゲル 
アレクサンドラ・スターデン ニコライ・コスター=ワルドー レイモンド・クルツ 
フレッド・ピアソン ユージニア・ユアン ヴァレンティン・テオドシュ 
マイ・ネーム・イズ・モデスティ [DVD][DVD]

B0038OA5ZA B00005V1CM B002OPXRTK B00005V1CL B00005V1CR
B00005V1CK B0038OAOR4 B0026R9HR2 B0038OAOS8 B0037JXGHA

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3.07.2010

スカッとさわやか 「パリより愛をこめて」



96時間」 に次ぐベッソン x モレル コンビのアクション。 トラボルタのスキンヘッドが見どころ・・ って、 それしかないの? いや、 そんなことはない。 トラボルタのスーパーエージェントぶり、 有能ながらも人間臭さあふれるキャラ、 そして車上からのロケットランチャー・・ って結局トラボルタじゃないか。 。

舞台はパリ。 リス=マイヤーズは本編でもリスと呼ばれてた気がするが、 まだ新米のエージェント見習い。 そして、 そんな職業であることも顧みず結婚してくれる相手がいた。 今夜も二人だけのディナーの最中に呼び出しがかかるが、 気持ちよく送り出してくれる。

パリに飛んできたワックスというエージェントと組んで任務に当たるが、 トラボルタ演じるこのクセのある男に掻き回される。 麻薬捜査かに見えた任務は、 密売組織を隠れミノにするテロの阻止だった。

普段は大使館秘書として勤務するリス。 突然の危険な任務に戸惑い、 このワックスという男にもついて行けず、 自らの不甲斐なさを嘆くが、 それでもこの数日の出来事の中で成長し、 ワックスとも友情で結ばれる。 だが代わりに失ったものがあった・・

特別にどうということもないが、 スカッとしたいときには十分に役目を果たしてくれる映画と言えるだろう。 タイトルに反してパリの風情はまったく楽しめないが。


パリより愛をこめて From Paris With Love (2010フランス) 日本公開5/15 
原案 リュック・ベッソン 監督 ピエール・モレル  公式サイト 象のロケット 
ジョン・トラボルタ ジョナサン・リス=マイヤーズ 
カシア・アナ・スムートニアック リチャード・ダーデン