3.08.2010

傷こそが ID 「クローンは故郷をめざす」



日本映画では少なのではないかと思われるSF、 しかもどこかノスタルジックな、 「惑星ソラリス」 を彷彿とさせるような。

クローン技術は完成期を迎えていて、 肉体の再生はもちろん、 脳内の情報もすべてバックアップを取り、 戻される。 人の脳を外部化すると、 その時点の技術を用いても大きな倉庫一個分くらいにはなるようだ。 以下ネタバレ注意。

実験体に選ばれたのは及川光博演じる宇宙飛行士。 万が一に備えてこの技術を受けることを承認し、 準備を整える。 だがその機会はすぐにやってくる。 再生は一見 上手くいったかに見えた。 だが記憶制御に問題があった。 脳内の情報には複雑な優先順位があって、 それを均一に戻してしまったため、 子供の頃の記憶が強く甦ってしまった。 なるほど、 夢を見るのも情報の整理プロセスとか聞くものな。

さらに伏線がある。 彼は実は双子で、 弟を小さい頃に亡くしている。 原因は彼にあって、 その罪の意識がこの再生人間を故郷へと連れ戻す。 そこで不思議なものに遭遇するのだが、 病院を抜けだしたこの実験体は失敗作とされ、 秘密裏に破棄される。 クローン技術を確立した博士自身は幽閉の身にあったが、 解決策を求めて引っ張り出される。 記憶制御は解決するが、 博士がいまだに一点 解決できない問題として "共鳴" が挙げられる。 それはオリジナルに宿りし魂が、 死後も自分の人生が継続されていることを知って戻ってくるというものだった。

効果音として通奏低音のような響きが上手く使われSFらしさに酔えるが、 それはやがて現実に共鳴する笛のような音に変わる。 そして三体目が創られる。 オリジナルから数えて第三の自分自身。 記憶制御は上手くいった。 そしてなぜか今回は共鳴も起きない。 だがオリジナルにあった幼い頃のケガ、 その手の傷痕はきれいに消えていた。 傷一つない身体は、 記憶の奥に眠る心の傷とは整合性が取れなかった。 彼もまた故郷をめざす。 失われた傷痕を求めて。

ポエムのように綺麗なシナリオだと思う。 オリジナル脚本とのこと。 NHK-サンダンスというラインがあって、 2006年度のシナリオコンクールの受賞作らしい。 そのとき審査員であったヴェンダースがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、 脚本を書いた中嶋は本作を初監督する。 うーん、 感無量だろうね。

微妙な固さは感じるが、 素敵な作品だと思う。 だが残念ながらすごく心を揺さぶられるとまではいかなかった。 次回作を楽しみにしよう。 1点NGだなと思うのがメイク。 嶋田ちあきとクレジットされているが、 いかにも描いた眉で、 子供までこの眉なのだ。 さらに石田えりにはダマになるまで塗りたくられたマスカラ、 永作にも同様のメイク。 それは計算された能面のような顔というわけではないと思われる。 舞台ではこれくらい濃くしないと映えないのかもしれないが、 フィルムはもっとディテールを写してしまうのだ。 子供がもっと自然で、 お母さんのメイクが気になるような描写でなかったら、 もっと入り込めたかもしれない。 及川は概ね美しいが、 オリジナルとクローンの差を出すとかしてもよかった気もする。 ぜひDVD等で確認されたし。


クローンは故郷をめざす (2009日本) 公式サイト 
脚本・監督 中嶋莞爾 製作 ヴィム・ヴェンダース 
及川光博 石田えり 永作博美 嶋田久作 品川徹 

2 コメント:

みゆき さんのコメント...

はじめまして。クローンは故郷をめざす PREMIUM EDITION [DVD] と通常版の違いを教えて下さい。

kiona さんのコメント...

>みゆきさん

返事遅くなってすみません。

DVDにはよく通常版やスペシャルエディションという違いがあって値段もけっこう違いますが、たいていの場合、本編には違いがありません。

特典映像や付録が違うのです。 DVD発売元の戦略ではありますが、この 「クローンは故郷をめざす」 のPREMIUM EDITIONでは、予告編やメイキング映像の入ったDISC2が付いている点が通常版とは違います。 まあ、それだけと言えばそれだけです^ ^