1.26.2015
ワニのいるプール 「ペーパーボーイ」
豪華ではあるが、 いかにもすぎるキャスティングでとくに関心はなかったのに、 予告で見たキッドマンだけが気になって見てしまう。 バービー人形みたいな人には60年代のファッションが似合うということだろうか。 キッドマンっていくつだっけ。 厚化粧でコーティングすれば本当にあの時代のアラサーくらいに見える。 タイトルバックや音楽、 フィルムの粒状や光までが1969から切り取られているような微妙な凝り方にも恐れ入った。
原作者が脚本も担当することが吉と出たのか凶なのかは定かではないが、 サスペンス/ミステリーとして見れば肩透かしを食らうかもしれない。 母に捨てられ、 つまらないことで大学を追い出されたジャックの青春物語と見れば、 苦すぎるひとコマではあるものの、 何らかの感慨深さが残るのではないだろうか。 その後ジャックは作家になったとされ、 発表されたこの作品がすべて事実であると黒人の乳母がインタビューで答えるシーンから始まる。
細かいところはことごとくネタバレにつながってきそうなので触れないが、 微妙にわかりにくい気がしたのは、 意識が60年代に遡れないからかもしれない。 黒人解放運動から間もない時代ということも、 フラワームーブメントが収束したあとの虚無感とかも意識的に再構築しないとニュアンスを失う。 作者の実体験に基づくような原作を作者自らが脚色し、 映像も音楽も丸ごと60年代を再現しているにもかかわらず、 あの時代のタブー、 気分、 匂いがすべて忘れ去られている。 作り手が忘れ去ったのではなく、 見る自分のなかで、 これに近い自分の時代の手触りすら思い出せない。
たまたま一昨日あたり、 メロディが出てくるのにタイトルや詳細の思い出せない曲がつきまとうので、 1970~2000年のビルボードTOP30をずっと追ってみたのだが、 それでもヒットしない。 口ずさんだメロディで探してくれるアプリでも延々と 「みつかりません」… 気持ち悪くてしかたない。 小学校の頃よくいっしょに宿題をしたはずの女の子の顔がまるで思い出せないことと同様に。 さらには、 かつてのヒット曲の数々をあらためて聞くことの懐かしさとむなしさ。
恐らく過去というのは劣化の一途をたどるのだ。 仮に脳から記憶を取り出してデジタルで鮮明に再現しても、 あるいはその時代の写真が克明に残されていたとしても、 それを自分が体験したという信憑性がぼやけてしまっている。 懐かしいという感覚も最初のうちだけで、 それ以上深く掘ってみても、 すでにそこには何もない。 そんな恐さを覚える作品と言えるかもしれない。
ペーパーボーイ 真夏の引力 The Paperboy (2012) 日本公開2013 公式サイト・予告
監督 リー・ダニエルズ
原作・脚本 ピート・デクスター
ザック・エフロン ニコール・キッドマン マシュー・マコノヒー
ジョン・キューザック
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