1.10.2009

鮮やかに殺すとは? 「蛇にピアス」



原作は読んでいたが、 一時期、 村上龍がピアッシングがらみの本をいくつか出していたので、 あらためての感銘はなかった。 かなりハードなルックスの二人の男も、 一皮むけばただのスケベじゃないか、 それが原作への素朴な感想だった^ ^ 蜷川氏がいち早く原作に目をつけての映画化ということで、 それなりに関心はあったが劇場へは行かずDVDリリースのタイミングでの鑑賞となったが、 原作から抜け出たイメージはなかった。 原作に忠実というか、 違和感なく映像化されていることに感心するが、 映画化ということの意味が曖昧なままであることに変わりはない。

音を消した渋谷のスナップから始まるが、 あまり渋谷という感じがしない。 原作のイメージも同様で、 新宿か、 一昔前の六本木のほうが近い気がする。 渋谷には "ルイ・ヴィトンのルイ" と自己紹介しがら "私はギャルじゃない" などと言うギャルはいないし、 こんな死の匂いもなければ志向すべき闇もない。 なぜ渋谷を舞台にしたのだろう。 なぜ渋谷風のギャルに肉体改造を持ち込んだのだろう。 原作でもそれは曖昧なまま。 根っからの体育会系に文学を語るようなもんじゃないか。 どうしても賞狙いの 'あざとさ' を感じずにはいられない。

蜷川幸雄のような大御所が、 一時期から映画に横滑りしているのも気になる。 無視しきれずに何本か見たが、 なぜかいつもマインドにもハートにも何も残らない。 誰も着ないパリコレの服のように。 いや、まだパリコレのショーのほうがインパクトだけでも楽しめる。 何歳になっても新人の若いエネルギーを吸い上げて、 自分を高めることだけに人生を費やしたマイルス・デイビスのように、 自分のためだけに創作する大御所の芸術。 そう捉えるのが正解なのだろう。

それにしても特別出演の藤原竜也らが演じるチンピラヤクザが弱すぎないか。 パンク少年の指輪がメリケンサック代わりに強力だったとしても、 彼らが刃物の一つも携帯していないのは不自然ではないか。 また、 人間世界の無常を体現したような彫り師が意外に動物的だったとしても、 パンク少年が抵抗できないほどの格闘センスを持っていたとも思えないし、 いろんな部分で納得のいかない物語ではあるが、 そんな映画のために体を張った新人女優や俳優たちには、 敬意を込めて見せてもらったと言いたい。

最後に嫌いなセリフをひとつ。 "どちらが鮮やかに 自分を殺してくれるだろう" ・・・


蛇にピアス (2008日本) 公式サイト&トレーラー 
原作 金原ひとみ 監督 蜷川幸雄 
吉高由里子 高良健吾 ARATA あびる優 ソニン 小栗旬 唐沢寿 藤原竜也 

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