5.25.2010

ハタチの意思決定 「預言者」



すでに今年のカンヌ映画祭の受賞が発表されたりしているが、 日本では去年のグランプリ作品も公開されていない。 新時代のゴッドファーザーなどと評され、 大傑作の呼び声も高いこの作品を見る機会に恵まれたので、 ここにレポートしよう。 あまり絶賛するのは好きではないので控えめに書くが、 それでも否定しがたい素晴らしさがあると思う。

青年19才、 6年の刑を食らって服役する。 アラブ系の血を引いているが親はなく、 刑務所内の勢力図を乱す要素を秘めている。 コルシカ組とアラブ組は対立している。 青年はフランス語とアラビア語が話せるが読み書きはできない。 コルシカ組のボスが青年に接近する。 "俺の保護なしに ここでは生きられない 保護が欲しかったら 一人殺してこい"

ターゲットは減刑と引き替えにコルシカに不利な証言を目論んでいる様子の、 青年と同じアラブ系。 青年は葛藤しながらも仕事をこなす。 その後もボスからは さまざまな難題が言い渡されるが、 青年は確実に仕事をこなす。 しかしアラブ系を目の仇にするコルシカの中では のし上がれるはずもなく、 成果は中途半端なかたちでしか返ってこない。

やがて青年はジプシーと組んでマリファナのビジネスを始め、 またアラブ系の男とも密かに友情を結ぶ。 模範囚として一時外出が認められるようになってからは、 日帰りでシャバに仕事をしにいく。 エジプト系のグループと交渉したり、 邪魔者を消したり・・ そして最後には大勝負に出る。

ノワールな設定ではあるが、 裏を返せば普通の立身出世物語。 青年は刑務所の中で、 人生をオン・ザ・ジョブ・トレーニングするのだ^ ^ どこかウブな青年だが、 人生の分岐点ではとことん考え抜き、 一旦 意思決定したら迷わず実行する。 予期せぬ障害が現れても、 今だと思った瞬間にカミソリを抜き、 銃をねじ込む。 そのヒット率の高さから プロフェット (預言者) と呼ばれるようになる。

フランスの刑務所が舞台なのに、 登場するのは多国籍な人々であり、 かかる音楽も英語圏のロックやヒップホップ。 フランスのムショ事情を垣間見るとともに、 日本映画 「刑務所の中」 などと比較してみると、 そこにあるグローバリゼーションの進み具合の落差にも感慨が及ぶ。

青年はボスの命令で一日外出した際に、 初めて飛行機に乗る。 そのときのウレシそうな顔。 そして搭乗チェックでは刑務所内のように舌まで出してしまう。 勉強する機会も刑務所内のスクールで初めて与えられる。

ヤクザ映画などを観たあと映画館を出たら、 肩で風を切って歩いてしまう。 そんな感覚を思い出すようなナイスな映画は 'あえて空気を読まない' 若い人に見て欲しいな。 もちろんオッサンも燃えるけどね^ ^ 殺した男の幽霊を友達にしてしまうくらいの覚悟があれば、 たぶんキミにも、 そしてボクにもできることかもしれない。




預言者 Un Prophète (2009フランス・イタリア) *2009カンヌグランプリ
監督 ジャック・オーディアール  日本公開2012.1/21 *"フランス映画祭2010" 先行上映
タハール・ラヒム ニエル・アレストリュプ アデル・ベンチェリフ 

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