3.19.2010
これぞ拾いもの! 「見わたすかぎり人生」
'微妙なもの'シリーズ第二弾になるが、 そう言って片付けてしまうには もったいなすぎる作品だった。 自分のカンが働かなかったら見逃してしまっていただろうマイナーな扱いのDVDだし、 調べても大した情報は出て来ない。 IMDbを除く主立った映画サイトにもレビューすら書き込まれていない。 でも、 いい映画だった。 少なくとも今年見た映画では現時点で一番。
本国イタリアではベネチアをはじめ いくつか賞も取っているが、 日本では有楽町界隈でのイタリア映画祭とかで上映されたっきり、 実質未公開。 allcinemaによるとジャンルはコメディ/ドラマ/エロティックということだが、 どれも違う気がする。 レンタルビデオの解説では "非正規雇用、ワーキングプアといったタイムリーな問題をコミカルに描いたエロティックコメディ" となっているが、 これも浅すぎ。
イタリアでの就活事情は、 もしかして日本より悲惨かもしれないということが手に取るようにわかる。 これだけでも見る価値はあると思えるし、 新興企業の実体はアレよりもはるかにブラックで、 デフォルメしてはいるが何とも言えないリアルさが漂う。
ローマの女子大生マルタ、 専攻は哲学。 教授陣からは敬意を表されて100点満点中110点の好成績で卒業するも、 就職は文系には厳しかった。 "今回は見送らせていただきます" の通知を何十通も受け取り、 教員試験もダメ。 救いの神は子供だった。 小さな女の子に気に入られて住み込みのベビーシッターとなる。
少女の母ソニアは マルタと同年代のシングルマザーで、 昼間はコールセンターでパートをしている。 ソニアを演じるヴァレリオ・マスタンドレアは どことなくナスターシャ・キンスキー似で、 マルタとは正反対のタイプだが二人の友情はしだいに育まれ、 彼女の紹介でマルタもこのコールセンターに勤めることとなる。 ローマの再開発地区にあって その名も 'マルチ'プルというこの会社は、 怪しい浄水器やスチーム吸入器をデモンストレーション販売しているが、 彼女の仕事は電話をかけまくって訪問のアポを取ること。 アポの獲得数が多いと表彰され、 少ないと蔑まれる。
朝はラジオ体操ならぬ、 歌とダンスで始まり、 野際陽子似のリーダー ダニエラは DJブースから司令を出すだけでなく、 フロアをうろついて皆の電話ぶりをチェックする。 訪問先へ出向いて売ってくるのは男子営業部隊で、 ここにも厳しいノルマが課せられている。 成績を達成できない者は全裸でランニングさせられたり、 おでこに '負け犬' と書かれたりする。 ふとセグウェイに乗って登場した社長、 ダニエラ野際とは個人的にも親密そうで、 いかにもな雰囲気。 こういう会社、 実際に見たことあるんだよね^ ^
しかしながらマルタはこんなところでも成績優秀で、 リーダーのみならず社長からも気に入られるが一方で、 昔気質の組合運動をする男とも親交を持つことに。 アパートではソフィアが、 娘がいるにもかかわらず男を引っ張り込み、 マルタはアメリカへ行った彼氏とビデオチャット。 だが遠距離恋愛は冷める一方だった。 それでも哲学的な考察や執筆は何とか続けていた。
テレアポの好成績は長くは続かず、 それまでのトップ・アポインターは転落し、 電話相手に暴言を吐いて辞めていく。 数ヶ月先にはマルタもそうなるかもしれない。 社内で言い寄ってくる男はテキトーにあしらうマルタだったが、 一時期は自己暗示で自信満々だった男も転落する。 商品を売っていた相手は、 実は親戚ばかりだったと言う。
そんなある日マルタは社長に呼ばれる。 しかし大した用件ではなく、 離婚問題を抱える彼から奥さんへの個人的な雑用を頼まれたにすぎなかった。 社員にハッパをかける彼も、 娘や息子を気にかける普通の父親であり、 返品問題や金策に頭を悩ませる中小企業経営者の顔も覗かせる。 だが経緯を見ていたダニエラが変な誤解をし、 暴走を始める。 組合運動家はテレビを通じて圧力をかけ、 会社側は誰のリークか突き止めると言い出し・・
こうしてネタバレしない程度に物語を追ってみると 安物のテレビドラマのようだが、 それは私めの表現力の問題だろう。 映画はシリアスさをユーモアのクッションで包みながら、 複雑怪奇な日常を猛疾走する。 資本主義社会の夢と現実をきちんと切り取りながら、 それでもつながる人と人を描く。
とくに後半、 トランクから商品を投げ捨てクルマで走り去る営業部の男、 危険な精神状態での運転だが、 このときにかかる音楽がいいのだ。 一瞬はっとさせられ、 やっぱりイタリア映画だ〜などと思う。 そしてここから一気に映画的としか言えない展開となって "ケ・セラ・セラ" の歌とともに終わる。
けっしてわかりにくい映画ではないが、 自分が受け取った映画的感動を伝えるのはあらためて難しいものだと思う。 乱暴な言い方だが、 欺されたと思って見てほしい! ・・って、 それじゃ この会社の商法といっしょか。 。
見わたすかぎり人生 Tutta La Vita Davanti (2008イタリア) 日本未公開
製作・脚本・監督 パオロ・ヴィルツィ
イザベラ・ラゴネーゼ サブリナ・フェリッリ ヴァレリオ・マスタンドレア
ミカエラ・ラマゾッティ エリオ・ジェルマーノ マッシモ・ギーニ
【 無料で見れないかチェック! 】
【 Amazonプライム・ビデオですぐ見る 】
2 コメント:
さっき、ガオで見ました。
この文は、よく、この映画の余力とチカラを伝えています。
感謝です。 あ
>匿名さん
ありがとうございます!
コメントを投稿