木村さんち ｢蟹工船｣

1953年にも映画化されているが比較しようというつもりもない｡ 原作は読んだことがないし読む気もないが､ 派遣やワーキングプアという時代の問題のなかで去年､ リバイバル･ベストセラーとなった｡ それに乗っかっての再映画化の企画だが､ 映画自体はわかりやすく､ よくできていると思う｡ ひとりひとりが考えて､ 行動せよ､ というメッセージはしっかり伝わってくるし､ 雑夫と言うのだな､ つまり労働者､ 彼らが立ち上がるときに巻くハチマキや旗の歯車のロゴも今風だ｡

だが どうせなら現状をもっと正確に捉えたオリジナルな物語を作ってもらいたかった｡ 売れてる原作を持ってくるという安全パイなスタンスがすでに資本の回し者だし＾ ＾ それよりも今さら "資本家 対 労働者" という大きな構図のある原作は､ どうアレンジしたって古い｡ 今は "資本 x 労働 x 生産性" の問われる時代であって､ この生産性という変数を切磋琢磨するのが停滞した先進国に残された方法論なのだ｡ そのための労働力の流動化が叫ばれているのであって､ ワーキングプアの敵は資本ではなく既得権益層全般なのだ｡

なんて､ もっともらしいこと言いながら映画を観るのもどうかと思うが＾ ＾ SABU監督ならもっと今の､ リアルなメッセージを描けたのではないかなと思って残念だ｡ ロシア船に拾われた二人が､ そこで労働者先進国の洗礼を受けるシーンは､ やや茶化しすぎで微妙な印象を受けるが､ ストライキなんて懐かしい単語も登場する｡ そんな言葉が華やかかりし時代の勇の一つである JALがあのようなことになったのは昨日の発表のとおりだが､ つい数年前まではリクルーターの人気企業であったというのが嘘みたいで､ まだまだ木村さんちの子供に生まれ変わりたい人はいるようだ｡


蟹工船 (2009日本)　公式サイト　象のロケット　
監督 SABU　原作 小林多喜二　
松田龍平　西島秀俊　高良健吾　新井浩文　柄本時生　谷村美月　大杉漣　

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