10.18.2009

甘い政策 「キング・コーン」



何を食べてきたかの記録が髪に残るという。 調べてみるとコーンだった。 え、 コーンなんて たまにしか食べないのに。 じゃあ、 ハンバーガーは? 炭酸飲料は? と問い返されると、 何と、 それらはすべてコーンからできていたのだ。

1970年にアメリカの農業政策は大きく転換され、 それまでは日本の '減反' のように供給をコントロールして価格を安定させていたが、 一気に拡大路線に舵を取る。 農業は簡素化・機械化され、 拡大についていけない農家は生まれた土地を去ることにもなった。 余ったコーンは輸出され、 飼料になり、 さらには人工甘味料となった。

草原で牧草を食べて育つはずの牛は、 ブロイラーのように囲われた柵の中でトウモロコシを食べ わずか半年で食肉となる。 牛は高カロリーのエサのせいで胃潰瘍となり、 半年以上は生きられなくなったとも。 牛肉の中の脂肪分の割合も、 かつての3倍ほどになっているらしい。 スーパーやコンビニを見渡せばコーンスターチやコーンシロップを使わない飲食品を見つけるのが困難なほど。 だがその結果、 アメリカ人の8人に一人は糖尿病患者となった。 また肥満に悩んでいた男は、 炭酸飲料をやめただけで体重が3分の1になったと話す。

新しい農業政策のおかげで食べ物は安くなり、 エンゲル係数は大きく下がった。 政策一つで これだけ世の中が変わったわけだが、 転換は必要であったとしても1段階先のことしか考えてなかったからの帰結と言える。 二歩も三歩も先を読むことが制度設計では重要だということが思い知らされる。

下の写真は、 取れ立てのトウモロコシをかじってみるところだが、 味がしないと言う。 加工用のトウモロコシだからなのだ。 にわか農業ではあったが機械化が進んでいるので決して重労働ではなく、 収支は赤字であった。 助成金があるから成立する農業という側面も暴き出す。

ざっとまとめてしまったが、 映画は決して小難しいわけではなく、 実際に畑を耕しコーンを育てるところから始まり、 ホームメイドの甘味料合成にまでトライしてみるという姿勢が貫かれている。 何らかの結論や解決策が示されているわけでも、 当時の農政担当者だけをやり玉に挙げているわけでもなく、 これをきっかけに考えてみてほしいという主旨だろう。 農薬や遺伝子組み換え、 あるいは抗生物質浸けの牛などを突いてくるのかと思っていたが、 もっと大枠での話だった。 公開時にあまり噂も聞かなかった地味めなドキュメンタリー作品ではあるが、 もうすぐDVDリリースとなるのでレンタルリストに加えて '食' について考えてみるのもいいのでは? あわせてこちらのドキュメンタリーもお薦め。


キング・コーン 世界を作る魔法の一粒 KING CORN (2007) 日本公開2009
監督 アーロン・ウールフ *ドキュメンタリー 公式サイト
イアン・チーニー カート・エリス 
B002S8BNUS[DVD]

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