さらば､映画 ｢BUG バグ｣

オフ･ブロードウェイで評判の舞台劇を､ 原作者のトレイシー･レッツ自らが脚本執筆して映画化された作品｡ 監督はいまだに ｢エクソシスト｣ のと肩書きが付くウィリアム･フリードキン｡

ジム･キャリーの ｢ナンバー23｣ では､ 男が23という数字の隠された意味に取り憑かれる｡ 世界は23に支配されているという陰謀史観｡ それでも妻や息子の存在が彼を妄想から救い出すというかたちで物語は終わる｡

本作でも同様のプロットが敷かれ､ 男は数字の代わりに '虫' に取り憑かれる｡ しかしここでは出会った孤独な男女は互いに救済することなく､ ともに妄想の淵へと落ちてゆく｡

フリードキンの演出は､ いぶし銀のように輝く部分と所々､ 今っぽい音楽のカットインなども取り混ぜながら､ それでもさすがに冴えている｡ 夜のモーテルは ｢エクソシスト｣ のマクニール家のように静謐である｡ 淡々としながらも映画的な前半から打って変わって演劇的に扇情する後半｡ 舞台が見えるようではあるが戯曲色が強すぎる気がしなくもない｡ まあ原作者が脚本も担当しているので当然と言えば当然か｡

だが､ 実質時間が短いのか面白いから早く感じるのか､ エンディングはすぐにやって来て最後に映画的な刹那を網膜に焼き付ける｡

小説､ コミック､ 舞台､ あるいは映画自身･･ さまざまなオリジナルを貪欲に取り込む映画という幻想マシーン｡ しかし世界を巻き込む共同幻想はすでにここにはなく､ パーソナルに隔離されながらつながろうとする時代を描きながら同時に映画のレクイエムを見るようで､ 一抹の寂しさを覚える作品でもあった｡


BUG バグ (2008) 7/5〜 公式サイト＆トレーラー　
監督 ウィリアム･フリードキン　原作(戯曲)･脚本 トレイシー･レッツ　
アシュレイ･ジャッド　マイケル･シャノン　リン･コリンズ　
ブライアン･F･オバーン　ハリー･コニック･Jr　

[DVD]

ナンバー23 アンレイテッド・コレクターズ・エディション ジム・キャリー, ヴァージニア・マドセン, ローガン・ラーマン, ダニー・ヒューストン, ジョエル・シューマッカー powered by G-Tools