12.08.2013

老紳士が手袋を外すとき 「鑑定士と顔のない依頼人」



ここのところ不作ぎみであったが、 これはなかなか面白かった。 そこそこの年齢になって、 それなりの地位にいるものの、 実は若い娘が好き、 という男が見るとさらに面白いはず。 ちょっとネタバレしちゃったが、 あえてこの可憐な、 顔のない依頼人の写真は貼らないでおこう。 それらしい邦題は完全な作り込みで、 インターナショナルタイトルはシンプルにベスト・オファー。 オークションの用語でもあるそうだが、 このままでなぜいけないのかな。

ジェフリー・ラッシュが演じるヴァージル・オールドマンは、 鑑定士ではあるがオークションを主催するオークショニアでもあるので、 邦題が何かしらの偏向をもたらす。 また顔のない依頼人となっているが、 これまでに “顔のない” とついている映画の隠喩的ニュアンスとは違っているので、 明らかにダメ邦題と言える。 顔どころか姿も現さないのだが、 それは中盤までの話だし、 顔のないと言うよりは引きこもり的な意味あいのほうが強い。

両親を亡くした若い娘が、 有名なオークショニアに名指しで遺産処分の依頼電話をかけてくる。 屋敷に出向いたオークショニア ヴァージルは、 依頼人が姿を現さないことに憤慨するが、 同時に好奇心も湧いてくる。 肖像画の美女の扱いは上手いが、 リアルの女性を拒絶してきたヴァージニア、 しかしなぜか若い女たらしの知り合いがいて、 この男にアドバイスを受けながら少しづつ引きこもりの依頼人に接近していく。 やがて彼女の閉ざされた心を開き、 愛にまで変えたヴァージニアであったが、 そこには思いもよらない嘘があった。

その傍らで機会じかけのオートマトンが組み立てられ、 またヴァージニアが一生かけて集めたプライベートコレクションが披露される。

なかなか面白かったのだが、 最後にきてこのオークショニアの呆然とした顔がシリアスすぎて、 もっと笑い飛ばした部分がわずかでもいいからあると、 トーンが崩れちゃうのか、 あるいは弾けたか。 別の味わいの終わり方があってもいい気がしたが、 冬の寒空にふと人生をふりかえってしまいそうなムードになったら、 映画館に飛び込んでみるのも悪くない。 乞うご期待。


鑑定士と顔のない依頼人 The Best Offer (2013イタリア) 日本公開12/13
脚本・監督 ジュゼッペ・トルナトーレ 公式サイト・予告 象のロケット 
音楽 エンニオ・モリコーネ 
ジェフリー・ラッシュ シルヴィア・フークス ジム・スタージェス 
ドナルド・サザーランド 

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