2.24.2012

パリで死にたい 「ミッドナイト・イン・パリ」



パリが舞台なのにフランスは資本参加せず、 ウディ・アレン作品で最大の全米ヒットとなった本作だが、 噂に違わず素敵な作品だったのでレポート。 見るまではウディ爺さん、 この年になって またスノッブなことでも延々と語られるのかなと食傷気味だった。 だがシンプルな発想とわかりやすい帰結のある、 映画らしい映画だった。

パリは一度しか行ったことがないが、 それでもドゴール空港に降り立った瞬間から "パリの空の下" が頭のなかに鳴り響くほど特別な感覚があった。 実際のパリは、 いつもどこか寂しさの漂う街だったが、 オーウェン・ウィルソン演じるギルもそんな憧れを持ってパリに来る。

作家志望の彼が夢見るのは、 コクトーをはじめ さまざまな芸術家たちが集った1920年代のパリのカフェ。 しかし彼を取り巻く現実は、 美しいが現実的なフィアンセと食いぶちである映画のシナリオの仕事。 パリの散策もままならない彼は、 一人真夜中のパリで道に迷う。

すると暗い道をヴィンテージな車がやって来て、 乗れと言う。 案内されたカフェは妙にクラシックで、 ピアノを弾いて歌っている男はコール・ポーターにそっくり。 そうこうして知り合った男はスコット・フィッツジェラルドと名乗る。 別の店ではヘミングウェイが登場し、 さらにピカソ、 T・S・エリオット、 そしてサルバドール・ダリ、 ルイス・ブニュエル、 マン・レイまでが。

どうやら憧れが時空を歪め、 あの車とともにタイムスリップしてしまったようだ。 ヘミングウェイに出版関係者を紹介するからと言われ、 急いでホテルに原稿を取りに行ったギル。 カフェに戻ったつもりが、 そこはコインランドリーであり、 そうして夜は明ける。

しかしタイムスリップは真夜中の鐘とともに再び訪れ、 彼の作品はサイエンス・フィクションのようだが変わっていて面白いと評され、 そしてピカソのモデルであったアドリアーナに恋する。 彼女もまたこの時代をつまらないと言い、 ベル・エポックこそが本当のパリと語る。 彼女とパリの街を散歩すると今度はベル・エポックに迷い込んでしまう。 そこで出会ったゴーギャンやマチスはまた、 この時代はつまらない、 やはりルネッサンスだと、 前の時代への憧れを隠さない。

ようするに人はいつも自分の時代、 あるいは自分自身に満足できず、 別の時代を生きる自分を想像したり、 別の自分になりすましたりするのが得意な生き物なのだ。 そういう理解を得て ひとおとり古き良きパリを巡り歩いた彼は、 いま一度、 自分の時代を、 自分の人生をせいいっぱい生きるのも悪くないかと思い始める。 そして雨のパリ・・

名だたる作家、 芸術家たちは既知の事柄を元に戯画化されているにもかかわらず、 その時代に迷い込んだ興奮が伝わり、 ウディ・アレン劇としてのギャグも随所に過不足なく冴えて、 かつ、 いつも以上にロマンチックなこの作品は各映画賞でも正統な評価を得て幸せいっぱいのことだろう。 はたして日本ではどのような評価となるか。 乞うご期待。




ミッドナイト・イン・パリ (2011スペイン・アメリカ) 日本公開2012.5/26
Midnight in Paris 監督 ウディ・アレン  公式サイト 象のロケット 
オーウェン・ウィルソン レイチェル・マクアダムス マリオン・コティヤール 
アリソン・ピル レア・セドゥ カーラ・ブルーニ エイドリアン・ブロディ 
コリー・ストール キャシー・ベイツ 

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