6.24.2010

病んだ世界? 「マンモス」



スペイン在住のおともだちからお薦めされて見た。 同監督の 「リリア 4-EVER」 は日本では未公開かつDVDリリースもされてないが、 そちらは見ていて、 詳細は覚えてないが かなりシリアスな内容だったように思う。 監督はスウェーデン人で 「リリア・・」 は悲惨な内容にもかかわらず本国では大ヒットしたそうだ。 そうした評価を受け スウェーデン他3ヶ国資本で製作された今回の作品では 恐らく予算もかなり増えただろうし、 監督の気合いはわかったが内容は予想に反して 現状を嘆く程度に終わっている気がした。

ベルナル演じるレオはゲームサイトを中心としたウェブ企業のファウンダー、 奥さんは救急医。 ともに忙しくて小学生の娘の面倒は、 フィリピン人の家政婦兼ベビーシッターにまかせっきりという構図。 グロリアというこのフィリピン人も本国に同年代の二人の息子がいて、 会えない寂しさと行き場のない愛情をこちらの娘に注ぐ。 やがて娘は、 母が休みのときもグロリアといるほうが楽しいと感じるようになる。

レオはバンコクの企業と契約するために自家用ジェットでタイにやってくる。 妻と娘を思う良き夫であり父ではあるが、 美しいタイ娘の誘惑に抵抗しつつ抵抗できない。 自分的にはこのあたりがいちばん面白かったが^ ^ なにげに前世は象であったと語る彼女にも、 守るべき小さな子供がいた。

彼女は体を売って子供を育てているのだろうと匂わせながら、 紳士レオは健全なデートで防衛線を張る。 来世は男に生まれたいと言った彼女に、 いや女のほうがいいよと励ますレオ。 中途半端なフェミニズムを監督に代弁させられているかのようだ。 レオはゲーム好きの子供がそのまま大人になったみたいな描かれ方で、 ウェブ企業に対する監督の偏見が感じられなくもない。

フィリピンではグロリアの上の息子が、 自分が稼げれば母は出稼ぎをやめて帰ってくる。 そしたら弟も寂しがらない、 そう考え仕事を探し回るが、 行き着くのはゴミ山でのクズ拾い。 フィリピンにはそんな仕事しかない。 そんなとき、 夜 道に立ってると、 何もしなくても稼げると聞き家を抜け出す。 やがて事件は起き、 連絡を受けたグロリアはこちらの娘を放っぽり出して JFK空港へ・・。

まず設定に何かひっかかりを覚える。 IT起業家は富裕国アメリカの象徴ということだろうか。 かたやフィリピンやタイの貧しい国。 だがどちらの国の親も仕事に追われ、 生活に疲れ、 子供と過ごす時間を持てないというジレンマは同じ。 その矛盾を憂うのはいいが、 だからどうしようという指針は示されない。 NYにIT系の企業は多いとは言えないので やや取って付けた印象だし、 NYを選んだ必然性もなさそうだ。

娘がプラネタリムで聞く、 地球という星の希少性についての解説。 タイの子供たちが話す、 アメリカは地球の裏側だけど、 地面を掘っても燃えさかるマグマがあって たどり着けないというセリフ・・ エコ・バイアスがかかって、 心なしか説教臭い。

救急医であるレオの妻は、 担ぎ込まれた子供が自らの母親に刺されたと知って "病んだ世界" という言葉を漏らすが、 同時に自分自身もその世界から逃れることはできないことを自覚する。 子供の幸せを思って仕事に精を出せば出すほどに、 子供と過ごせる時間はなくなる。 そのことは返って子供を危険にさらし、 やがて人間はマンモスのように滅びてしまうのではないか。 そういう文脈になっているようだが、 ちょっと綺麗事すぎるんじゃないか。

あちこちの問題をピンポイント的に網羅して、 資本主義社会の問題と環境問題を直結するような短絡がある。 新しい問題提起ではない上に、 提起だけしてみました、 解決策はご自分たちでと投げ捨てたかのような。 「リリア 4-EVER」 よりは後退したような印象。 薦めてくれた人には悪いがそういう感想となった。 でもまあ偏屈な自分が言うことだから気にしないでほしい^ ^

家政婦の母がフィリピンの息子と電話で話すシーンなどは涙を誘うが、 それ以上に腹立たしくなる。 また救えなかった子供の死に涙する救急医、 だがそれはレアなケースなのだろうか。 心優しい監督なのだろう、 だからといって この世はパラダイスではないのだし、 どうしたら少しでもマシな世界になるかを一緒に考えようくらいのスタンスは持つべき。 さりげなく流したつもりの音楽もどこか押しつけがましい気がした。

(追記) ヨーロッパ発のアメリカ進出を狙った映画なのかもしれない。 設定にはそういうビジネス面でのオーダーがあったのか。 言語はオリジナルが英語のようだし、 漂うハリウッド臭さも意図的かもしれない。 よけいに中途半端で、 青臭さだけが際立つ結果になったとも言える。 IMDbのレビューを読むと かなり正確な受け取られ方をしているのがわかる。 残念ながら自分だけの偏屈な見方ではなかったわけだ^ ^

(追記2011.1.25) DVDスルーされるらしいが、 何だそのサブタイトルとパッケージは? 便乗もはなはだしい、 ていうか中国のディズニーランドじゃないんだからさ。 ひどすぎる :(



マンモス Mammoth (2009 スウェーデン・デンマーク・ドイツ) 日本未公開 
監督 ルーカス・ムーディソン 
ガエル・ガルシア・ベルナル ミシェル・ウィリアムズ マリフェ・ネセシト 
ナタモンカーン・スリニコーンチョット 

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