9.28.2009

イタリア製のローファー 「フロスト×ニクソン」



こういう作品は難しいと敬遠する向きもあるだろうが、 政治的な予備知識がなくてもじゅうぶん楽しめる作品。 なぜなら男と男の、 1対1の対決が描かれているから。 もちろん双方にブレーンはいるが、 ブレーンの獲得も実力のうちなのだ。 そして対決は どちらか一方しか、 勝者にはなれない。

一方はリチャード・ニクソン元大統領。 もう一方はと言うと、 イギリス出身のトークショーTVの司会者。 なぜ、 こんな二人が対決することになったかは映画をご覧になってもらいたいが、 時は1977年、 アメリカ史上初の任期途中で退任した大統領は、 裁判を逃れ、 また国民に謝罪もしていなかった。

周到な策士として描かれるニクソンだが、 同時にストレートな人間臭さも漂わせ、 退任後も存在感たっぷり。 デビッド・フロストは笑顔が素敵なハンサム・ガイで、 イギリスやオーストラリアの人気番組を持っているが、 アメリカではさしたる成功も手にしていなかった。

あるときフロストは、 ふとニクソンへのインタビューを思いつく。 視聴率を見込めるのではないか、 またアメリカ進出の足がかりになると、 野心だけの勇み足だったかもしれない。 しかしニクソン側は、 3大ネットワークよりも多額のギャラを引き出しながら、 政界復帰のきっかけを目論んで このオファーを受ける。

思いのほか資金集めは難航し、 3大ネットワークは放送しないと言う。 トークショーの司会者ごときがニクソン? と笑われる。 それでもフロストは自費を投じ、 小さなスポンサーをかき集めて勝負に挑む。 フロストは政治には疎く、 ジャーナリストの資質はなかった。 ただテレビというメディアの特質だけは知っていた。 "すべては矮小化される。 どんな複雑な成り立ちも、 単純な一コマの絵に集約される"

フロストはブレーンになるジャーナリストを探すが、 まともに相手にしてくれたのは業界のハミ出し者。 プロデューサーはやめておけと言うが、 フロストは採用する。 "奴の情熱が気に入った 何と言われても雇う"

ニクソンは初めてフロストに会ったとき、 笑顔を振りまくだけの、 つかみどころのない男だと感じる。 そしてフロストが履いているイタリア製のローファー (昔あった甲の部分に金具のついたやつ) が気になる。 あんな靴は履いたことがないと。

いざインタビューが始まるとニクソンは想像以上に手強く、 真実あるいは謝罪を引き出すどころの騒ぎではない。 インタビュー最終日の前夜、 早めの祝杯に酔ったニクソン自身が、 ホテルにいるフロストに電話をかけてくる。 彼女からの電話だと勘違いしたフロストは "チーズバーガー" と言ってしまうが、 それはニクソンからの勝利宣言、 あるいは共感めいた告白だった。 "君もイギリスの名門大で、 見下ろされただろう。 私たちがいくら、 バカらしくなるほどの努力を重ね、 成功しても、 あいつらは見下ろす。 見返してやりたい。 だが この闘いの勝者は、 ただ一人。 敗者は荒野を彷徨うことになる"

インタビュー最終日には大きな転換が待ち受けているが、 結果的に番組は大成功を収める。 フロストはイギリスに帰る前に、 最後の挨拶をとニクソンに会う。 "私は人生の選択を誤った 君みたいに人好きのする者が大統領になれ" そう言うニクソンに フロストが渡したプレゼント、 それはイタリア製のローファーだった。

二人は正反対なのに、 どこか似ていた。 だからニクソンも フロストには気を許したのかもしれない。 フロストもニクソンを、 ただの不名誉な男だとは見ていない。 父と息子のように、 お互いを好敵手と仰ぎ、 闘いを楽しんだ。 こんな描き方ができるのもロン・ハワードならではという気がするが、 戯曲が原作。 歴史の教科書には出て来ない1ページを見た思い。 ちょっとストーリーを追いすぎてしまったかな。 でもこの程度ではネタバレにもならない、 見ごたえのある一作。 お薦め!

政治の影に女あり、 ではないが、 レベッカ・ホール扮するキャロライン・クッシングは、 物語的にはあまり意味はないがビジュアル的には大貢献。 彼女はアメリカに向かう機内でナンパされただけなのだが、 それからずっとフロストに寄り添う。 出会いこそが歴史なのだなあ。 。


フロスト×ニクソン FROST/NIXON (2008) 日本公開2009 公式サイト 
監督 ロン・ハワード 原作戯曲・脚本・製作総指揮 ピーター・モーガン 
マイケル・シーン フランク・ランジェラ ケビン・ベーコン レベッカ・ホール 
マシュー・マクファディン オリヴァー・プラット サム・ロックウェル 
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