8.01.2009
心の太鼓をたたくんだ! 「扉をたたく人」
雰囲気作りすぎの邦題が気に入らないが、 素晴らしい映画だった。 中堅の俳優であったトーマス・マッカーシーは、 いい着想を得てシナリオを書き上げ、 監督した。 マッカーシーが主演に選んだジェンキンスは、 微妙な気持ちを映す表情が憎いばかり。 今さら自分などが褒めるまでもないが、 一人の冴えない男が あるとき、 ふと世界とつながり、 "クールな" 男として甦る。 ラストシーンがまたいいなあ、 シビレた〜。
扉をたたく人、 というタイトルはどことなく個人的な感じがするが、 原題の Visitor にはパーソナルな意味だけでなく、 アメリカという国が訪れる者に対して、 現在どういう態度を取っているのかを揶揄するニュアンスも込められている。 世界からさまざな人たちが集まってできたはずの国は、 911以降あからさまに訪問者を拒絶するようになる。 映画は具体的にそれが、 誰か一人にとって、 どういう悲劇を生むかを描く。
妻を亡くし、 大学では1クラスしか教鞭を取ってない教授。 論文の発表でNY出張、 だがそれも代理にすぎない。 NYのアパートに思わぬ訪問者があり、 ためらいながらも男は扉を開く。 男は息子ぐらいの歳の青年から、 アフリカンドラムの響きとともに、 路上で演奏する楽しさ、 あるいはまだ自分のなかに眠っていた恋心を引き出されることとなる。
青年はシリア出身だったが、 ある日 移民局に捕まる。 もし強制送還でもされようものなら、 もう二度と会うことはできないだろう。 弁護士も当てにならず、 青年の母親も駆けつけるが手だてはない。 青年の母はキレイな人だった。 ジャーナリストの夫をシリア情勢で亡くし、 アメリカに来たという。 演劇にも造詣があり、 二人で見た 「オペラ座の怪人」 は奇しくも最初で最後のデートとなる。
青年は刑務所のような移民収容所で心の内を話す。 ただ自由に演奏したいだけなんだ、 それがいけないことなのか。 物静かだった男も ついには移民局職員に怒りをぶつけるが、 騒いだところで何も変わりはしない。 音楽が育んだ友情と恋は有無を言わさず引き裂かれ、 収監されているのはむしろこの国ではないのかとの怒りを胸に、 男は今日も、 駅のベンチで太鼓をたたく・・
タイトルは '太鼓をたたく人' でもよかったか。 。 というのはさておき、 音楽が代弁する何かがきちんとある映画はいい。 青年の恋人で、 セネガル出身の黒人女性の服装も印象に残っている。 柄や色使いに本当にその人が選んだような微妙なアフリカンテイストがあって、 巧妙な人物造形がなされている気がする。 エントリーが遅くなってしまい公開が終わっていたとしても、 DVDが出た際にはぜひ見てほしい映画だ。
扉をたたく人 the Visitor (2007) 日本公開2009.6/27〜 公式サイト&トレーラー
脚本・監督 トム・マッカーシー
リチャード・ジェンキンス ヒアム・アッバス ハーズ・スレイマン ダナイ・グリラ
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