2.20.2009
ダメなのに、いい 「アキレスと亀」
「ソナチネ」 (1993) をガラガラの映画館で見たのも、 随分昔のことになるんだろうな。 たけしの映画はもうダメだろう、 みたいなこと言われてて、 そのあたりから奥山氏も立場が危うくなって・・ その後 「HANA-BI」 だったかが、 ベネチアでグランプリを取ったものだから日本じゅう大騒ぎで急に北野武の映画が満員になった。 自分はほとんどの北野映画を見てきて 「ソナチネ」 が一番好きで 「HANA-BI」 はつまらないほうなんだが、 新作を発表するたびに海外での賞が期待されるようになった北野作品には、 しだいに期待することがなくなった。 賞が悪いと言うことではないが、 デビュー当時好きだったミュージシャンが、 売れ出してからは それほどでもなくなった感じに似ている。
だからこの映画のこともほとんど忘れていて、 DVDリリース情報を見て、 ああ、 そういうのもあったなと。 で、 何も考えず淡々と見たわけだが、 意外によかったね。 あちこちの評では、 破綻してるだの、 描きたいものがないだの言われてるし、 それは概ね同感だが、 にもかかわらず好印象なのは、 まさにゼノンのパラドックスのようだ。
総じて既知の北野映画であり、 新境地もなければバイオレンスに戻っているわけでもない。 美術史の概論で物語が進むのもやや気恥ずかしい。 とくにアクションペインティング、 あるいはバスキアの登場とともに落書きに走るところはテレビネタのレベルだ。 登場する原色の絵と対比するかのように、 現実の人間の顔が青白いのも成功しているのかどうか。 仲間内だけでいいや、 みたいな内向きなキャスティング。 子役がえらい叩かれ方してるな^ ^とか、 あんまり笑えないな、 もうすでにペーソスを通り越してる・・ などなど。
なのに、 いいと感じてしまうのはなぜだろう。 自分があまのじゃくだから? それもあるだろう。 それより何より、 このサエない芸術家に自分を投影してしまっているからだ。 自分は芸術家でもないし不幸な生い立ちが似ているわけでもない。 だが想像するに、 これを見たかなりの人が自分を投影してしまうようにできているのではないか。 どうとでも取れる占い、 あるいは予言のように、 思わず自分を投影してしまう人物造形あるいは構造がそこにはある気がする。 監督自身、 意図したのかどうかは不明だが。
そんな感じで欺されたと思って見てもらうとうれしいが、 その先に救いが用意されているとは限らないので、 苦さを味わうことのできる人限定。
アキレスと亀 (2008日本) 公式サイト&予告編
監督 北野武 ほぼ日対談
ビートたけし 樋口可南子 柳憂怜 麻生久美子 大杉漣 大森南朋
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