ウィンスレットの演技も非常にニュアンス豊かだが、 彼女が演じるハンナという女性がなんとも奥深いキャラクターなのだ。 実は彼女は文盲で、 そのことを恥ずかしく思い隠している。 だが文学や音楽に対する感受性は強く、 だからつい "読んでみてよ 坊や" と頼む。
1959年のドイツ、 当時15才だったマイケル少年は猩紅(しょうこう)熱* にかかり、 道端でうずくまっていると、 ぶっきらぼうだが優しさを秘めた女の人に助けられる。 病気がよくなってから花束を持ってお礼に行くが、 ほどなくベッドインの関係になってしまう。 しかし不思議なことに彼女は、 少年が学校で習うことに興味を示し、 本を朗読してくれと。 *scarlet fever 原作では黄疸?
やがて彼女は突然 消息を絶つが、 彼が法学部の学生となった頃、 裁判所の傍聴席からマイケルはハンナを再び見つめることとなる。 それは彼女がナチの親衛隊にいた頃の罪を問う裁判であった。 証拠となった書類は彼女が書いたものだとされたが、 文盲の彼女に書けるはずがない。 にもかかわらず彼女は否認しなかった。 無期懲役の判決が下りてから20年の後、 マイケルは刑務所のハンナに小包を送る。 それは彼が本を朗読し吹き込んだカセットテープだった。
リリアーナ・カヴァーニの 「愛の嵐 The Night Porter」 では、 ダーク・ボガート演じる元ナチの将校は身を隠すため、 ホテルの夜勤という仕事をしている。 ハンナが小さなアパートで一人暮らしをし、路面電車の切符切りをしているというのも同様の背景だったのだろう。
年上の女性のアパートへ通うという秘密を持つようになって、 少年は回りの同級生より大人びたムードを漂わせる。 このへんの描き方も甘酸っぱさが漂っていい。
被告席でハンナが一言だけ反論する。 "じゃあ、 あなただったらどうしたと言うの?" 裁判長はこの問いに答えられず口ごもる。 これを戦犯擁護と受け取られるのを危惧してか、 ナチやホロコーストの問題をパーソナルな文脈の中で語り継ごう、 という主張で映画全体をラッピングし直している気がする。 しかし、 だからこそこのシーンは重要だろう。 語り継ぐ、 という意味づけのためだけに登場するマイケルの娘などは不要だったかもしれないが。
アカデミー賞がどうとかは関係なしに、 これは見ておいていい映画に違いない。 願わくば、 もっと早い公開を。
愛を読むひと The Reader (2008アメリカ・ドイツ)
日本公開2009.6.19予定 公式サイト
監督 スティーブン・ダルドリー 原作 ベルンハルト・シュリンク 「朗読者」
ケイト・ウィンスレット レイフ・ファインズ デビッド・クロス
アレクサンドラ・マリア・ララ ブルーノ・ガンツ レナ・オリン
完全無修正版〔初回限定:美麗スリーブケース付〕 [DVD] powered by G-Tools |
朗読者 (新潮クレスト・ブックス) Bernhard Schlink 松永美穂 訳 |
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