12.26.2011
ありがとう 森田監督
森田芳光監督が亡くなったと聞いて、 正直、 愕然とした。 と書きながら "愕然" ってどういうことだろう、 なんて疑問に思ったりもする。 英語で言えば shocked か。 そう、 ようするにショックを受けたわけだ。 人間、 いつかは死ぬ。 それはわかり切ったことなのに、 まさか、 あんな憎まれっ子が、 こんなに早く。 。 と。
スティーブ・ジョブズのときは みんなが騒ぎすぎるので 淡々と追悼するしかなかったし、 立川談志師匠については詳しくないし、 金正日氏にいたっては黙祷するしかないが、 それにしても ここしばらくの内に、 蒼々たるメンツが去っていったものだ。 そしてこのタイミングでか? という監督の訃報だった。
その昔、 とんねるずのオールナイトニッポンに監督がゲスト出演した際、 「そろばんずく」 (1986) の頃だ、 自分の投稿が取り上げられたくらいにしか付き合いはないが、 観客としてはその頃からずっとファンだった。 自分の邦画嫌いを治してくれた人でもあるし^ ^ 「家族ゲーム」 (1983) が国内の賞を総なめ、 NYの映画祭など海外でも話題になって、 自分はYMOとか、 逆輸入品に弱かったんだろうな。 ビビッとくるものがあった。
それでも角川映画でアイドルっぽいものを撮ったり "巨匠宣言" なるものを発したりと、 面白い人だった。 調子にも乗ってたんだろうな、 「メインテーマ」 (1984) には一瞬、 えっ?! と思うシーンがある。 万座ビーチの白い砂浜で四駆を運転する野村宏伸のゲジ眉が数秒間だけ、 さらにゲジゲジになるのだ。 気づく人も少ないかと思うが自分などは、 遊んでるな、 と思う反面 「エクソシスト」 のサブリミナル効果のように 'えも言われぬ' 何かを感じた。 眉毛ひとつでサブリミナルとは、 監督ならではに違いない。
"巨匠宣言" というのはメジャーデビュー作 「の・ようなもの」 (1981) で自分自身のための映画は撮ったから、 これからはお客さんのために撮る、 というような趣旨だったと記憶しているが、 そうして選んだ原作は夏目漱石。 「それから」 (1985) の出だしで、 松田優作の後ろ姿をカメラがヌっと なめるように撮る あのヘンな感覚も印象的だった。 そう言えば初期の監督はワイドレンズの歪んだ画面の使い方が上手かった。 以後、 邦画でもこうした映像をよく見かけるようになった気がする。 いろんな部分、 先駆的だった。
先述のメジャーデビュー作も、 30才までコピーライターを志したりしながら、 ほとんどプータローのようだったという監督が、 ハッタリにハッタリを重ねて世に出したことは知る人ぞ知る逸話だが、 有名なところでは、 まず配給を決めてから撮影に入ったこと。 配給が決まっているんだから、 役者に話を持って行きやすくなって、 結果いいキャスティングができたらしい。 撮影現場では "ワラって" などの現場用語を知らず、 わかったふりをしてメガホンを取っていたので、 さまざまな混乱も生じたとか^ ^
ベストセラーを原作にしながらも興行成績のパッとしなかった 「キッチン」 (1989) だが、 日本映画の質感アップという大きなテーマがあった。 しかし当時で思い出すのは、 テレビで おすぎがこれをケチョンケチョンに言ってたこと。 その内容をよく聞いてみると、 ようするにおかまの描き方が気に入らなかっただけのようだが、 作品のみならず監督のことをあまりにも暴力的にこき下ろすものだから、 鼻っ柱を折られた監督はこのあたりから少し変わったように思う。
「失楽園」 (1997) で実際に巨匠の仲間入りをしたのかもしれない監督だが、 このあたりから自分的にはテンションが落ちた。 にもかかわらず 「 (ハル) 」 (1996) は恐らくは現場用語も習得して? 演出力も上がったのか、 グッと来させられた。
と思えば、 21世紀になってひさびさに劇場で見た 「海猫」 (2004) はつまらなかったなあ^ ^
そうこうして近年は、 なんとなく初期の雰囲気を取り戻しつつあるかのような小粒でオリジナルな作品と、 巨匠としてのリメイク大作などが交互に来て 両極に揺れる不思議な監督だったが、 総じて森田嫌いの人にもよく遭遇した。 まあ好き嫌いがはっきり出るのはいいことだ^ ^ まだまだ、 もうひと波乱ほしかったところに残念な知らせだが、 追悼の意味を込めてアンオフィシャルに書かせてもらった。
そうそう忘れてはいけないのが、 駄作と言われながらも自分のなかではナンバーワンのこの作品。 「ときめきに死す」 (1984) は沢田研二扮するヒットマンが、 新興宗教の教祖を狙って準備をする過程を描いた作品で、 説明しがたい雰囲気に満ちた映画。 メインディッシュより先にデザートを食べる男という描かれ方に、 表層と深層が入れ替わるような不思議な感慨を覚えて、 当時マネしたりしていたものだ。 ってバカか俺は。 。 いやあ渋い映画だったよ。
ひととおり思い出したことは書き連らねられたかな。 もっともっと書けるかもしれないが草葉の陰でクシャミでもされそうなので、 このへんにしておく。 ありがとう、 監督。 最後の作品、 楽しみにしています。 ではまた、 いつか。
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