誰も目をつけてくれなかったようで、 未公開に終わっているが、 一級の作品だ。 解説には "移民一家の困難と愛" とある。 確かに1960年にドイツからオーストラリアへ移住してきた家族と友人たちの物語ではあるが、 移民としての苦難が具体的にどのようなものかは描かれているように思えない。 苦難はすべて、 天使でも悪魔でもある一人の女に端を発している。 それは少年の母であり、 少年の父の妻であり、 父の親友の弟の恋人。 一時期の特殊な状況への考察ではなく、 普遍的な人生の物語として現在にコミットする内容となっている。
アメリカでなくオーストラリアへ移住してしまったことに愚痴をこぼすシーンなんかもあるくらいだから大変には違いなかったのだろう。 しかしその大変さはフィジカルではなくメンタルな大変さとして大前提のように置かれているだけで、 赤茶色の風景のなかで暮らすことに思いを馳せてみるが、 ある意味では現在と変わりない。 もうすぐ中学へ上がる年齢の少年は原作者自身であり、 映画も少年の視点で描かれる。 どうしてこの映画を見ようと思ったかというと、 このバイクの父と少年のポスターに何となく惹かれた、 それだけのことだったがハズレではなかった^ ^
オープニング、 少年と父は男同士で朝食を食べる。 殺風景で、 それでいて落ち着く朝のひととき。 みんなに 'ジャック' と呼ばれる父に、 少年は尋ねる。
"なぜジャックと?" すると父は意気揚々と答える。
"ロミュラスじゃ発音しにくいだろ"
後になって突然、 母らしき人が現れる。 何だろと思ったら、 すでに別の男のもとにいるらしい。 それでも父は妻が戻るのを待ち、 少年はときおり母との甘美な時間を過ごす。 街の少女が聴いているのはジェリー・リー・ルイスのロックンロールだが、 母の音楽の好みはスイートな年代物のポップス。
経済的な無理を承知で、 息子を寄宿舎のある立派な中学に入れる父。 ほどなく父親違いの妹が生まれ、 両家族にも不思議な交流が生まれるが、 母は貧しい暮らしにもかかわらず高価なドレスを買い、 相変わらずあちこちの男に色目を使い、 息子の中学にも訪ねてくる。 息子を呼び出したカフェ、 ジュークボックスで好きな曲を選んだあと、 母は言う。
"私、 工場で働く人になっちゃった 信じられる?"
少年は複雑な表情で母を見て、 母のダンスの誘いを断る。 少年は先生に、 こんど母が来ても会えないと伝えるよう頼むが、 それが最後に見た母の姿となる・・。
もう1本気に入ったセリフを紹介して終わることにする。 少年は父の仕事の手伝いで街にやって来るのだが、 仕事に飽きて言う。
"映画 見てきていい?" すると父は答える。
"男の価値は仕事で決まるんだ 見た映画じゃない"
ディア マイ ファーザー (2007オーストラリア) 日本未公開
ROMULUS, MY FATHER official site
原作 レイモンド・ガイタ 監督 リチャード・ロクスバーグ
エリック・バナ フランカ・ポテンテ マートン・ソーカス
コディ・スミット=マクフィー (レイモンド少年役)
[DVD] Amazonで詳しく見る powered by G-Tools |
0 コメント:
コメントを投稿