3.29.2010

「空気人形」 はバースデーケーキの夢を見るか



タイトルのインパクトが大きいし、 監督、 キャストともに期待大。 とにかく早く見たかった作品だが、 今になってしまった。 DVDになるなり速攻で見た。 傑作と言うと何か違う感じがするが、 良くできている。 上手い! こういうテーマのピックアップやペ・ドゥナの起用など、 いつも何かしらのアンチテーゼを含んでいる是枝監督は、 隠れ過激派だ^ ^

'人間ではないものへの愛' はマンガやアニメ好きの日本人には得意分野だし、 映画全般的にも意外に王道のテーマと言える。 最近の作品では 「ラースと、その彼女」 が思い浮かぶし、 これは人魚だが密かに大好きな 「スプラッシュ」、 他にも 「マネキン」 「シモーヌ」・・ 探せばキリがないことだろう。 '人間でないことのツラさ' みたいな部分で言えば 「ブレードランナー」 も思い出されるしハチ公だってそうだろう。 フランケンシュタインやヴァンパイアと同系列にしたっていいかもしれない。 しかしそれでもダッチワイフというのはレアだろう^ ^ なぜ "オランダ人妻" などと言うかは諸説ありだが、 ポルノ以外でこれが出てくる、 しかも主役というのは凄いのではないか^ ^

ペ・ドゥナというキャスティングもインスピレーションにあふれている。 カタコトの日本語でひらめいたか、 型落ちのダッチワイフの顔で思いついたか、 それとも日本の女優にはことごとく断られたのかは知らないが、 今となっては彼女なしには ありえない。 微妙にビニールっぽい皮膚感、 空気を入れるときの胸の反らし方など、 CGなしでの細かな映像表現にも映画マジックを感じる。

心を持ってしまった彼女はレンタルビデオ屋に勤め、 店長が挙げる往年の名作を逐一メモに取る。 小さな女の子から年寄りまで、 意図的に配置されたさまざまな年代の人々。 そこには短くて長い映画の歴史、 長くて短い人の一生が空気人形の視点で綴られる。 それは老人が伝える次のような詩に集約される。

生命は
自分自身で完結できないように
つくられているらしい

花も
めしべとおしべが揃っているだけでは不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする

生命はすべて
そのなかに欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分 他者の総和
しかし互いに 欠如を満たすなどとは
知りもせず 知らされもせず

ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄

(中略)

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない
(吉野弘 「生命は」)

ある意味、 構成のすべてが あざとすぎて、 感動すら忘れる。 それくらい完成度が高い映画だと言えるだろう。 ただし世界への、 生命への認識を新たにしたからといって、 詩的な時間を楽しむ以外の何かがそこにあるかというと、 何とも言えない。 見る人に委ねられているのかもしれない。

箱に入って届けられた日に誕生日を祝ってくれたはずの元のご主人様も あっさり新型に '乗り換え'、 バイトが消えてもレンタルビデオ屋は今日も店を開ける。 誕生日を夢に見た日が命日となっても季節はめぐり、 空気人形の気持ちで自分自身の死を想像することのできる映画・・ そんな風に思えたのだが、 あなたの心には何が残りましたか^ ^


空気人形 (2009日本) 公式サイト 象のロケット 
監督 是枝裕和 原作 業田良家(コミック) 
ペ・ドゥナ ARATA 板尾創路 柄本佑 岩松了 高橋昌也 
余貴美子 寺島進 オダギリジョー 富司純子 
空気人形 [DVD][DVD]

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