3.13.2010

真っ赤な入江 「ザ・コーヴ」



アカデミー賞などでも話題のこの映画、 見ることができたのでイチ早くエントリー。 簡単に言うと、 イルカを愛する数人のアメリカ人が、 日本の一部で行われているらしいイルカ虐殺をやめさせたい。 そういう内容のドキュメンタリー映画。 動物愛護の精神にも乏しく、 捕鯨問題にもまったく関心のない自分だが、 賞を取ったからこそ見る機会を得たことになる。 それでも見てよかったと思う。 あれこれ言う前に まずは見るべきだろう。 幸いにも日本公開される。 夏になってしまうらしいが。

自分が何かここに書くことでオピニオンを左右するとは思わないが、 とりあえずどちらの肩入れをするつもりもない。 だが客観的な映画だとは言える。 動物愛護団体によるアピール映画などではない。 さらに言うなら、 鯨を食べるのが野蛮だとか、 そういう文化摩擦うんぬんや説教臭さもまったくない。 映画を作っている側はひたすら、 イルカが殺されている証拠映像を押さえようとしているだけなのだ。

つまり隠している人たちがいるということ。 隠さなければならないことを その人たちは自覚しているということ。 これまで普通にやってきたことを突如目くじらを立てて、 正義をふりかざしてやめさせられたら、 それは腹も立つだろう。 ビジネスにもかかわることだろう。 しかし隠して行うビジネスを犯罪と呼ぶのであり、 この機会に見直してサスティーナブルなビジネスにするという選択もあるはずだ。 以下ネタバレになるが娯楽映画ではないのでご容赦を。

イルカは知的レベルが高いという話はよく聞く。 水族館へ行ったことも大昔にあるかないかだし、 スキューバなどもやらないのでわからないが、 宇宙に知的生命体を求めるなんて灯台もと暗し。 ここにいるじゃないか、 というくらい意思疎通が図れるらしい。 あるダイバーはサメに襲われそうになったときにイルカの群れに助けられたという。

運動の中心にいるリック・オバリーという人、 その昔 「フリッパー」 というイルカが主人公の人気TV番組があったのだが、 そこでイルカの調教師をやっていた人らしい。

メスのイルカだったらしいが、 番組の放送をいっしょに見るのだそうだ。 自分が出ていることを理解し、 他のイルカと自己の区別もあったという。 番組が終わると水族館に送られたが、 そこでの生活がストレスとなって、 最後は自殺したらしい。 イルカやクジラは呼吸を止めることで自殺するのだそうだ。 そんな出来事が転機となりオバリーは、 水族館のイルカを逃がしては逮捕され、 ということを重ねる。 そして今、 日本に諸悪の根源があることを告発する。

和歌山県太地町(たいじちょう) では年間2万3千頭のイルカが殺されているという。 世界の水族館へイルカを供給する拠点でもあり、 一頭あたり最高1千万円で取り引きされるとか。 オバリーや映画のスタッフが町に到着するや否や尾行される。 毎度のことらしい。 そしてタイトルでもあるイルカ猟が行われているであろう入江(cove) に近づこうとすると男たちがすごい剣幕でこれを阻止する。

それでも証拠を押さえようとスタッフが取る作戦は、 スパイ大作戦であり、 ミッション・インポッシブルであり、 オーシャンズ11なのだ^ ^ 特殊撮影のエキスパートを呼んできて岩に見せかけたカメラをつくる。 ダイバーを潜らせる。 気球からの撮影を試みる。

そうして撮影は成功する。 聴覚に優れたイルカを不快な物音で入江に追い込み、 網で出られなくして、 モリでメッタ突き。 役所の課長補佐の説明では、 できるだけ苦痛を与えない方法を取っているとのことだったが、 かなり食い違っているようす。 やがて入江の水はイルカの血で真っ赤に染まる。

水族館へ送るのはごく一部で、 あとは食用になるらしい。 クジラなんて大昔に食べたきりだし、 イルカなんて食べたことない。 だが鯨肉として売られているものの一部はイルカだということがDNA鑑定で判別する。 さらに問題なのは、 日本近海のイルカの肉には高濃度の水銀が蓄積されているということ。 水俣病クラスの濃度だそうだ。

これを一時期 和歌山では学校給食にも使っていたらしい。 オバリーや地元の親たちの反対で廃止されたとのことだが、 あいかわらず日本政府は国際会議で捕鯨は日本の文化であると主張し、 ドミニカその他の国の賛同票を金で買ったりしている。 その会議の席にオバリーは胸に液晶テレビをぶら下げて乱入、 非合法に撮影した虐殺映像を流してアピールを行う。

都市部で取材を行うと、 大多数の日本人もこんな事実を知らないことがわかる。 日本にも保護団体はたくさんあるのに、 この問題を取り上げるところはないと嘆く。

オバリーや映画製作者のイルカへの偏愛に賛同するかどうかは別にして、 口八丁手八丁で世界に捕鯨再開を訴える日本代表の弁論には、 国際連盟を脱退して戦争に突入した大日本帝国の亡霊が乗り移っているかのように見える。 弁論は次のような言葉で締めくくられる。

"国際会議は太地のような伝統的コミュニティーをいたずらに抹殺している"

だが映画は次のような主張で終わる。 乱獲は水産資源の枯渇を招く。 あと40年もすると、 クジラやイルカはおろか、 マグロその他の魚もいなくなって一番困るのは日本人ではないかと・・。 ぜひこの夏、 映画の日にでも見てくれ^ ^

(追記) 反イルカ漁映画 「ザ・コーヴ」 東京公開が中止に
(追記) 出演者を迎えての明大での上映会&ティーチ・インが急きょ中止に!
(追記6/17) ネット試写会が開催されるそうです。 こちら
(追記6/21) 東京ほか大阪、京都など全国6館で7月3日に上映決定!




ザ・コーヴ The Cove (2009) 日本公開2010.7/3 
監督 ルーイー・サホイヨス  公式サイト 象のロケット 
リック・オバリー ルーイー・サホイヨス イザベル・ルーカス 
*サンダンス観客賞 *アカデミー長編ドキュメンタリー賞 
ザ・コーヴ [DVD][DVD]

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