4.08.2009
リアル起業家 「この自由な世界で」
あまり早くもないレビューになってしまったが、 ケン・ローチは好きな監督。 いろんな期待を持って見たが、 やっぱりいい。 タイトルにはこの時代にぴったりの、 皮肉なニュアンスが込められている。
アンジーは職業紹介所に勤めるシングルマザー。 紹介所と言ってもロンドンのそれは、 日本のハローワークよりドライで、 派遣会社よりはバタ臭い感じ。 ポーランドやウクライナやイラクや南米からの労働者に日雇い仕事を斡旋している。 やり手ではあったが、 彼女自身も現況の中で もがく、 被雇用者の一人にすぎなかった。 ある日、 いとも簡単に解雇される。 大卒でもコールセンターで働くしかない彼女の友だちのようにはなりたくない。 子供のこと、 借金のこと・・ これまでのノウハウやネットワークを活かしたいと考えた彼女は、 自ら職業紹介所を始めるのだった。 さらには友だちをも引き入れる。
元の会社から妨害されるのだろうか、 法的な問題が起きるのだろうか、 などと考えながら見ていたが、 違っていた。 テーマはもっと大きなところにあった。 やり手の彼女のことだから、 すぐにビジネスは軌道に乗ってくる。 日々現れる問題とその解決、 この繰り返しに追われるが、 彼女はやりがいに燃える。 そう、 ようするに起業家物語なのだ。
だがそれは夢のサクセスストーリーではなく、 予定されていたかのように落とし穴に落ちていく。 子供が学校で問題を起こす、 未払い問題、 身に危険が迫ることもある。 しかしそれでもアンジーは仕事に燃え、 やがてはダーティビジネスに踏み込むことに。 そして被雇用者であったときには踏みにじられていることに怒りを覚えた彼女が、 経営者に回ったとたん、 他人を踏みにじることも平気になる。 友だちは去り、 利益はプラスマイナス・ゼロになったとしても、 彼女は・・
社会主義崩壊のあとの自由世界・・ だがここに描かれるのはアメリカが掲げるようなイデオロギーとしての '自由' ではなく、 もはや資本と労働の関係ですらなく、 世界平和を考える余裕も持てない一人の人間がいるだけ。 生きるために他の生物を食べるのと同様に、 この世界の血であるカネを自らに流し込むには、 他人の血を吸い上げるしかないという現実。 それが描かれているというだけの映画だが、 これが描こうとして描けるものではないのだ。 自画像は大なり小なり美化されてしまうように。
前作 「麦の穂をゆらす風」 でカンヌ・パルムドールに輝いたケン・ローチが、 より多くの観客に世界を考えてもらうべく撮った作品と言えるかもしれない。 そのわりに、 あまり話題にも上らず、 さらっとDVD化されている気がしなくもないが、 一人 大絶賛しておく^ ^
この自由な世界で (2007イギリス・イタリア・ドイツ・スペイン) 日本公開2008
It's a free world... 監督 ケン・ローチ 公式サイト&トレーラー
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