11.16.2010

禁断のグミ Life During Wartime



忘れてたこの人、 トッド・ソロンズ。 しばらくぶりの新作はベネチアで脚本賞を受賞し、 地味ながら上々の評判。 タイトルは皮肉を交えた比喩であり、 戦争物ではない。

"自由と民主主義ではなく、 忘れることと許すことがいま必要なのだ" そのようなセリフがあったように思うが、 これは911以降のアメリカやイスラエルに対してのメッセージと受け取れる。 フロリダに住むユダヤ系の家庭が描かれ、 13歳男子が受ける Bar Mitzvahなる成人の儀など聞き慣れないものが登場するが、 それ以上に登場人物たちはツラい経験をしてきた様子。

姉の前夫であり少年の父は、 死んだとされているが実は幼児性愛の前科を持つ。 妹はレイプされた経験を持ち、 その後、 家族の反対押し切ってギャングスタと結婚。 夫は出所後、 更生を試みるがままならず。 そんなシリアスの極みのような設定にオフビートな間とおかしさを漂わせた異色作と言える。

今のアメリカでは、 自分の子供にさえスキンシップを持つのが はばかられるほど、 paraphilia(幼児性愛) に対しては潔癖主義が貫かれる。 まるで嫌煙運動のように。 だが13歳で大人の男となったはずの少年は言う。 "自由より民主主義より、 ボクはパパがほしい。 パパはちょっとパラフィリアだっただけ・・"

forget(忘れる) と forgive(許す) はよく見ると getとgiveという正反対の語尾を持ちながら、 同義語のように彼らのまわりをぐるぐる回る。 ソロンズはこれを数独のように解きながら、 忘れず許さずはまるで '戦争中の生活' のようだから、 忘れないが許す、 あるいは許さないが忘れることへ歩み出そうと説く。

妹はいまだにレイプ犯の幽霊に迫られながら、 夢遊病のように夜間営業のレストランへと歩き、 姉は再婚相手が '普通の人' だと喜ぶが、 男が少年の肩を抱いたとたん、 好意は嫌悪に変わる。

少年には大学生の兄がいて、 父のことを死んだ方がマシと言っているが、 父が好きだったグミは自分の好きなお菓子でもある。 ある日突然、 父が兄の部屋をノックする。 驚きながらも迎え入れると父は、 赤ん坊だったお前を抱きかかえた感触を今でも思い出すと話す。 遺伝ではないはずだが、 お前も愛情があふれ出しそうになったときは気をつけろ、 そう言って去ってゆく。

シャーロット・ランプリングがセックス依存症のオバサンとして顔を出すなど、 キャスティングにもかなりのこだわりが見られ、 サウンドトラックには ベックやデヴェンドラ・バンハートがクレジットされる注目作。 日本公開はかなり先になりそうだが、 乞うご期待^ ^




戦争中の生活(仮題) Life During Wartime (2009) 日本公開未定 
脚本・監督 トッド・ソロンズ 
アリソン・ジャネイ シャーリー・ヘンダーソン キアラン・ハインズ 
マイケル・ラーナー ポール・ルーベンス クリス・マークエット 
ディラン・ライリー・スナイダー シャーロット・ランプリング 

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