3.23.2010

教育! 「17歳の肖像」




'微妙なもの'シリーズは一旦終了し(すぐ再開されるはずだが^ ^)、 新作が入ってきたのでそちらを優先しよう。 新作と言っても、 これはアカデミー賞などでご存じの方も多いだろう。 日本公開が遅いだけで世界では去年の作品なのだ。 先物買いが得意の当ブログも残念ながら未見で、 今ようやく見たしだい。 でも、 いい! すごくいい。

アカデミーのほうも残念ながらノミネートに終わったようだが、 英国アカデミー賞というのもあって、 そちらでは主演女優賞に輝いている。 イギリス映画なんだよね。 だから、 あなどれないんだ^ ^ 時代は60年代、 私めの人生オンリーワンの映画 「小さな恋のメロディ」 と同時代の空気感も味わえる。

邦題は例によって埋没するダメセンスだが、 原題に注目してほしい。 An Education "教育"。 非常に意味深なタイトルで、 これを変えてはいけない。 ましてや17歳になるのは、 いろいろあってからなのだ。 でたらめでサラッとしたタイトルは無視しよう。

16歳のジェニーは退屈な女子高生活をもうすぐ終えようとしている。 オックスフォード大学を志望する優秀な彼女だが、 ラテン語が苦手。 古い価値観を脱ぎ捨てたい彼女には、 どうも興味をそそらないらしい。 その代わりフランスに憧れていて、 フランス語を勉強中。 受験科目ではないが・・。 またチェロも弾く。 近々コンサートもやる予定。 しかしときどき、 そのすべてが無意味に思えることがある。 大学も、 人生も・・

イギリス人がフランスに憧れるって、 どういう感じなのだろう。 パリのアメリカ人とは違うだろうけど、 自分たちが抱くような、 花の都、 恋の街、 カフェで交わされる芸術談議、 セ・ラ・ヴィな感覚と同じなのか? うーん、 ほとんど同じようだ。 "パリの空の下" は彼女の部屋でロックのように流れ、 それをかき消すかのように親の "勉強しなさい" の声が階下から響く。

そんなある日、 突然の雨の中を傘も差さずに チェロの練習から帰宅しようとすると、 かっこいいクルマに乗ったジェントルマンに声をかけられる。 男はマナーもわきまえているし、 彼女の警戒心を解きほぐす戦術にも長けていた。 ジェニーはこの男デビッドに送ってもらう。 数日後に再会しコンサートへ誘われる。 両親が許さないと言っても、 デビッドはあっさり親をも攻略してしまう。 次はオークション、 酒、 たばこ・・ ジェニーはその刺激的な 'うたかたの日々' の中で、 メガネの大学生になることだけが人生の選択ではないと思うようになる。 そして17歳の誕生日にデビッドは、 彼女をパリへ連れて行くと言う。

最初はこの男、 ロリコンなのかと思ったが そうでもないままに物語は進行し、 やがてロリコンどころか '本気' なのだとわかる。 だがリッチなデビッドもブルジョワの資産家というわけではなく、 ビジネス面でのダークサイドを持っていたし、 その本気を彼女が真に受けてはいけない秘密もあった。 だが純粋な彼女は最上の選択として それを受け入れる。 大学受験は辞め、 高校も中退してしまう。 そして・・

彼女は以前に、 チェロつながりの同年代のボーイフレンドを家に招いたことがあったが、 両親はあまり歓迎しなかった。 だが落ち着いた大人の男は簡単に両親の信頼を得て、 オックスフォードで講師をつとめる作家の知り合いがいるという男の嘘を、 あの男の子には真似のできないことと讃える。 だがジェニーは言う。 "作家の知り合いはいなくても、 作家になれるかもしれないわ" そう、 彼女は大人の男に欺されたりはしていない。 むしろ利用しているのだ。 だが何事にもリスクはつきもの。 大事なことを学ぶために、 大きな代償を支払うことになる。

そして最後に彼女を救うのは、 通っていた高校の教師。 ジェニーは先生にも暴言を吐いて学校を辞めているが "先生の助けが必要なの" と言うジェニーに "その言葉を待っていたのよ" と・・ "死ぬまで働き続けるか、 結婚して主婦になるしかない" そう言ったジェニーはここ数ヶ月の いくつかの大きな経験から新しい視点を獲得することができたのだろうか。 青春映画として片付けられないテーマ、 教育、 あるいは学習。 大きな意味での教育が描かれているのだ。 だから単なる 「17歳の肖像」 ではない。 ジェニーと同年代の人はもちろん、 親、 教育者がPTA臭くならないで進路について考えられる映画と言える。

打算的な親、 権威主義的な学校の外に教育は存在し、 悩み、 学ぼうとする者に貢献できる人がどれくらいいるかが、 その社会のポテンシャルなのだ。 自分は教師ではないし、 概ね反面教師だが、 それでも子供の宿題を見るとき、 さじ加減一つで この子の将来を大きく作用すると感じることがある。 勉強はしんどい、 退屈なのが当たり前とされているが、 本当にそうか。 退屈な映画なら あちこちでケチョンケチョンに言われて終わるし、 面白い本はわかりやすくする工夫がなされている。 だが面白い教科書を作ろうという試みがなされたことがあるだろうかと、 これまた誰かが言ってたな。 。

この映画のスチールを探すと、 いろんなシーンのものが出回っている。 絵になる場面の多い、 小難しいことを考えなくても楽しめる映画でもあるのだ。 遅れた日本公開ではあるが、 奇しくも四月という打ってつけの時期のロードショーなので、 サクラが咲いた人も散った人も見てほしい^ ^ 規制の大好きな都庁勤めの人にも、 ぜひ見てほしい。



17歳の肖像 An Education (2009イギリス) 日本公開2010.4/17
監督 ロネ・シェルフィグ  公式サイト・予告 象のロケット 
キャリー・マリガン ドミニク・クーパー ロザムンド・パイク 
アルフレッド・モリナ カーラ・セイモア オリヴィア・ウィリアムズ 

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