5.31.2009

ビジネスライクな映画・・ 「天使と悪魔」



ロン・ハワードの映画を見るといつも思い出すことがある。 昔、 知り合いに "好きな映画監督は?" と聞かれて、 即答できなかった。 もちろん、 たくさんいるからというのもあったが、 彼は "僕は だんぜんロン・ハワード" と続け "だって優しいんですよね" とまとめた。 映画好きを自称していた自分としては、 この簡潔なセリフにあっさり逆転されたかのような気分を覚えると同時に、 でも優しいの一言で言い切れる監督ってのはどうなんだろ、 と思ったり。

「ハッピーデイズ」 というテレビシリーズに出演していた頃も知っているので、 監督として注目されだしたハワードを、 へえ、 なんて思ったものだが、 自分的には 「アポロ13」 がいちばん好きかな。 でも、 こうしてハリウッドの重鎮となった監督には、 稼ぎ頭となるシリーズの一つや二つは欲しいところなんだろう。 「ダ・ヴィンチ・コード」 から始まったこのシリーズは、 そうしたビジネス的作品であることだけが明解で、 実際のところ面白いのか面白くないのかより、 とにかくヒットさせることが至上命令の映画ではないか。

前作は はっきり言ってコケ脅し的な印象は拭えなかったが、 今回は逆にわかりやす過ぎて拍子抜けする。 ハワードは '優しい' から 'わかりやすい' 監督になったのか。 なぜか話題づくりは前作よりテンションが低い気もするが、 それは単にプロモーション予算を削っただけということか。 原作では こちらの話が先になるらしいが、 今さらそんなことはどうでもいいか。 トム・ハンクスは一貫して、 しかめ面の探偵のような振る舞いで、 これまたビジネスライクな演技だなと思う。 アイェレット・ゾラー (すごいカタカナ表記だな) が横からラテン語の文献に解説を入れてくれるところなんかは、 楽しい謎解きになってよかったねという感じだが、 彼女はそれ以上には活躍しない。 犯人はすぐに目星がつくが、 冷静に見ると、 ただのサスペンス・アクションでしかない気もする。

前作はあれだけ鳴り物入りで公開されたのに、 今回はなんとなく放っておかれている感じなのが不気味だが、 普通の映画が見たい人には満足できる作品かもしれない。


天使と悪魔 Angels & Demons (2009) 5/15〜 
監督 ロン・ハワード 原作 ダン・ブラウン オフィシャルサイト&予告編 
トム・ハンクス アイェレット・ゾラー ユアン・マクレガー 

5.29.2009

ずさんな感じ 「テラートレイン」



テラー・トレイン」 (1980) のリメイクってことなんだが、 使ったのは設定だけか。 設定も違う気がするけど、 もしかして列車だけ? 内容は またしてもホステルもどきだったが、 なんだかつまらない。 後半のソーラ・バーチは悪くないが、 全体に鮮度と意外性に欠ける。 列車もので言えば THE MIDNIGHT MEAT TRAIN のほうが だんぜんいい。

アメリカのレスリングのチームが東欧へ遠征に出かけるのだが、 そこで違法な医療の犠牲になる。 最後の最後にレスリングの技が効いてくるのはいいとしても、 なぜ列車なんだろう。 揺れる列車の上での手術は難しいだろうし、 臓器の摘出だけでも手元が狂えば大切なパーツを傷つけてしまう。 ちょっと無理がありすぎる。

この違法なビジネスを運営している側も ずさんな感じで、 血だらけの人間を別の車両に移すのに、 他の客に見られないようにと言って、 列車の屋根から運ぶのだが、 あり得ない。 一歩間違えば大事な '材料' を落としてしまうし、 いくら巨漢の男でも一人で行うには あまりに重労働だ。 また移植を受ける側は誰なのかには全く焦点は当たらず、 みんながグルであるというような恐さもなく、 ただ残虐なシーンを出せば観客は喜ぶと思ってるようす。 ホステルを超えた、 と公式サイトでは謳っているが '地獄の沙汰も金しだい' のホステルには、 少なくともユーモアのセンスで及びもしない。

ボツにしてもよかったが、 せっかく見たので とりあえずエントリーして、 あたらめて気づいたのは、 ホラーこそ絶妙なセンスが必要だということ。 センスのないホラーの見本として取り上げるには いい材料かもしれない。 以上^ ^


テラートレイン TRAIN (2008) 5/2〜 
監督 ギデオン・ラフ  公式サイト&トレーラー 
ソーラ・バーチ ギデオン・エメリー グロリア・ヴォトシス 
テラー トレイン [DVD][DVD]

フィースト3 -最終決戦- [DVD] フィースト2 -怪物復活- [DVD] サスペリア・テルザ 最後の魔女 [DVD] ウルフクリーク 猟奇殺人谷 [DVD] マーターズ [DVD]

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5.28.2009

色っぽいスポック.. 「スター・トレック」



航海日誌 宇宙暦 XXXXX これはカークとスポックの友情の物語である・・ なんて書き出しで始めてしまったが、 オリジナルもそれほど知らないのでマニアックな感想は述べられない。 というより、 それほどマニアックな作品でもない気がする。 カークが生まれる瞬間、 あるいはスポックの少年期から始まる 'ビギニング' 的な内容で、 二人の友情にスポットを当て幅広い客層を狙ったのが今回のスター・トレックなのだろう。

若いカークは掟破りのワイルドキャラで、 スポックは かなりビジュアル系に仕上がっている^ ^ 宇宙のさまざまな種族が集うバーのシーンなどはスター・ウォーズへのオマージュな気もするし、 ブラックホールを作り出すレッドメタルや転送装置などのSFアイテムが新鮮かどうかは置いといて、 それなりに楽しめる作品ではあった。 他のUSSエンタープライズの乗組員である17才のロシア人やフェンシングが得意なアジア系などサイドキャラも効いている。

ただ、 未来の自分から指示を受けたり、 プログラムを書き直したりするのは、 何となくターミネーターとかぶる。 もう少しトレッキーなネタはなかったのかとも思う。 ・・と、 これだけのコメントで書くことも尽きてしまうが、 もう明日公開なので、 あとは見てのお楽しみ! これくらいの大作になると日本公開も早いね。 。 他もそうあってほしいよ。

スター・トレック STAR TREK (2009) 5/29〜 オフィシャルサイト 
製作・監督 J・J・エイブラムス 
クリス・パイン ザカリー・クイント エリック・バナ 
ウィノナ・ライダー ゾーイ・サルダナ ジョン・チョー 

5.26.2009

フィリピン系ホラー 「519号室」



未公開ながらIMDbでの評価がやたら高いので見てみたが、 いまどき珍しいくらい地味な心霊もの。 NYの片隅を舞台に、 ドメスティック・バイオレンスや近隣への無関心などがテーマ。 そこそこ不気味なものが出てくるのと、 彼女役のアメリア・ワーナーがまあまあ可愛いくらいが収穫か。

仮出所となった男はアパートに帰ってくるが、 服役中に母は死んで、 一人きり。 このあたりは雰囲気があって期待させる。 アパートの廊下でオモチャのピアノを弾く少女。 隣室の不気味な警官とその妻・・ そして母の死の真相もしだいに明らかに。

しっとりしたゴーストストーリーかと思うと、 ときどき わざとらしい脅かしもある。 フィリピンの監督らしい。 "SIGAW" という自作をハリウッドでセルフリメイクしたものらしい。 最近のホラーとは明らかにリズム感の違うノソッとした感じが新鮮とも言えるが、 拍子抜けとも言える^ ^ しかしながら欧米でのアジアンホラーの人気は依然として高く 「リング」 「呪怨」 以外にも貪欲にリソースが求められている。 そんな流れで エイジアンホラームービーズ・ドットコム に行ってみると、 ほとんどの作品を見ていたので我ながら恐ろしくなった^ ^



519号室 THE ECHO (2008) 日本未公開 
監督 ヤム・ララナス 脚本 エリック・バーント+シンタロウ・シモサワ 
ジェシー・ブラッドフォード アメリア・ワーナー ケヴィン・デュランド 

5.25.2009

本日は以上。 「俺たちに明日はないッス」



"あのオッサンも立派なガキじゃねえか" ・・ 離婚し教師を辞めてまで、 教え子と結婚する吉田に比留間はそうつぶやく。 その通り。 十分にガキなのに、 そのオッサンにも17才の頃があったわけだ。 それでも、 さすがにバックに南沙織は流れないし、 よくできた曲だなとあらためて思うが、 この曲をピックアップしたことが作品を象徴しているように思える。 そう、 出来すぎなのだ。

計算され、 定義された青春は "今しかない" というセリフに反して、 また "明日はない" というテーマを裏切って、 昨日も現在の明日もある。 明日がないのは、 いい年をしてこんな映画を見ている自分のほうだと思えてくる。 そんな嫌味な映画だ。 タナダユキ監督にはいつも注目してるし、 同原作者+同脚本家の 「神童」 は密かに好きな作品だが本作は、 カッコイイじゃないかと思ったタイトルほどには感慨はなかった。 何となく過ぎてしまった。 青春のように・・。

どこがダメ、 という分析もとくにする気はないが、 そもそも誰に向けた映画なのかな。 青春を懐かしむアラサー、 アラフォー? だったら確実に失敗だが、 17才の当事者を励ます、 というようなことなら何とも言えないが、 推し量るに、 そちらも上滑りしてるんじゃないか。 結果的に内輪受けの作品に終わってしまっている気がする。 まあ終わったことは気にしても仕方ない。 次回作に期待するとしよう。 本日は以上。


俺たちに明日はないッス (2008日本) 公式サイト&予告編 
監督 タナダユキ 原作:さそうあきら 脚本 向井康介 
柄本時生 遠藤雄弥 草野イニ 安藤サクラ 水崎綾女 三輪子 田口トモロヲ 

5.24.2009

ちぇっ.. 「チェ part 1/part 2」



下にはダブルパックのDVDを貼り付けてあるが発売は6月で、 レンタルもまだ前編だけしか出てない。 1月の公開時も そんなズラされ方だったようだが、 じれったいパターンだな。 しょうがないので、 とりあえず part one だけでも見た。 それにしても ふた昔前のフォークソングみたいな邦題だ。 時代の空気的には間違ってもいないが "part1 アルゼンチン人" "part2 ゲリラ" でいいじゃないの。 ベニチオが28才を演じるというのは、 いくつサバを読んだのだろ。 。

コメントしづらいタイプの作品だ。 あの時代を生きてきたわけではないし、 監督やベニチオにしたってそうだから、 自分たちの時代を総括しようという 連合赤軍もの などとは全く違うわけだ。 革命のイコンを剥がし、 チェ・ゲバラという人物に迫ろうとしたドラマということだろう。 ゲバラは何十年か後に、 自分が娯楽映画の主人公になるなどと想像しただろうか。 よくも悪くも、 なってしまったのだ。

2時間越えなのに、 それほど長くは感じない。 前後編続けても見れそうだ。 ということは、 それなりに面白いのだろう。 でもゲバラはもっと男前だし、 ベニチオがいくらゲバラになり切ったところで 'チェ・デル・トロ' という愛嬌あふれる新しい人物像を造形しただけという気がする。 "苦汁を飲んだ" などとナレーションが入るが、 その実、 革命って案外簡単なんだなという気さえしてくる。 ようするに製作側のマスターベーションを否定する、 という触れ込みのマスターベーションにすぎないとも言える。 字幕も頭に入ってこなかったので途中で吹替に切り替えた。 人気のない街と、 時折の銃声・・ そんな殺風景な市街戦のイメージだけが印象に残ったが、 それもこの映画が初めて描いたものではないし取り立てるほどのことでもないかもしれない。 続きは part two を見てから、 このエントリーに追記することにする。



追記 6/13 後編を見て印象は微妙に変わった。 キューバでの成功を後に、 ゲバラは名前を変え、 変装してボリビアへ渡る。 カストロとは対照的に、 国の建設にはまるで興味がないように。 生粋の革命家として、 必要とされればどこへでも行く。 しかし本当に必要とされていたのか。 キューバでの成功体験は、 ボリビアではまったく役に立たず。 追いつめられ、 転がる石はそれでも理想を失わず。

キューバとボリビア、 成功と失敗を並列に置く構成は、 ある意味 秀逸かもしれない。 しかしなぜキューバは成功し、 ボリビアの革命は失敗に終わったのか。 そのことを考察してみたくなったが、 そのヒントでも描かれていたら後編のほうが面白くなっていたかもしれない。 しかしソダーバーグの頭には '倒れるとき' をいかにポエティックに表現するか、 それしかなかったようで、 そのこと自体、 理想を持って乗り込んできた革命家をなぞるようで、 やはり失敗を描いた後編もまた失敗作なのだ。 それでも前編だけを見たときよりも評価は高くなった。 ほんの僅かだが。 。

チェ 28歳の革命 / 39歳 別れの手紙
CHE part one: The Argentine / part two: Guerrilla
(2008アメリカ・フランス・スペイン) 日本公開2009  公式サイト&予告編 
監督 スティーブン・ソダーバーグ 
ベニチオ・デル・トロ デミアン・ビチル